翔ぶが如く! 8
翔ぶが如く! 8
「ねえツッチー、タバコどうしたの?」
「うん⋯まぁな!」
「ねえ、どしたの?」
「いいじゃんかよ!」
「まぁいいんだけどさ。さっき持ってたじゃん」
「うん、ねぇんだよ!無くなった!」
「あぁ、そうだったんだ。ジッポは?」
⋯⋯⋯
応えが無い
「火は自分の使えばいいじゃん」
一つ大きく煙を吐き出すと眉間にまたも富士山のようなシワを寄せて、眉毛は八の字になり顎にもシワが浮き出てきた。
「うるっせーなー!だから無えんだっつーんだよ!」
?????
「さっきは持ってたじゃん?」
肩をいからせて体をグニャグニャ揺らし、まるでチンピラみたいな動きをしながら
「っせーなー!無くなったんだよ!」
歯は食いしばったまま唇だけ動かして喋ってる。
器用だね〜
「んっ?どゆこと?」
と聞くと
「しつっけーなー!だから無くなったんだよ!」
Gパンの前ポッケをバンバン叩いてからこちらを睨んできた。
「えっ?えっ?どゆこと?無くなったって?」
「たーかーらー!どっかに落としたんだろう!」
オレンジ色のタバコの火が超絶明るくなるほど思い切り吸ってる。
「えっ?うそ?あれお揃いで買ったやつじゃん!」
「それだよ!」
「えー!マジかよー!何であれ落とすんだよー!」
「知るか!勝手に落ちたんだよ!」
地団駄を踏むように激しい貧乏ゆすりをはじめた。
「マジかよー!信じらんねーよー!あれ落とすかよー!」
そう言うと、眉毛も目も八の字のまま睨みつけながら、こちらに向かって顔を突き出して
「ああっ!何が信じらんねーつーんだよ!えぇ!エースケくんよー!」
その顔と、そのセリフで、こちらも沸点を超えた。
「はぁ〜ん!信じらんねーから信じらんねーつってんだよ!マジで何やってんだよ!てめーはよ!」
「あぁ!やんのかコラァ!」
「はぁ!ごまかしてんじゃーねー!」
こちらも眉毛を段違い平行棒のようにして睨みながら顔を突き出しす。
あと数cmでキッスができそうな距離で睨み合う。
その時、オブジェのお父さんが首を持ち上げて
「うるっせーぞ!ガキども!どっかにいきやがれ!」
と叫んだ。
2人同時にそちらを向いて
「あ"あ"!」
「あ"ー!」
と叫んでいた。
すると路地の向こう側から
「ど〜した〜!何かあったのかぁ〜?」
そっちを見ると警察官が立って、こちらを見ていた。
やっべー!!
この路地でタバコを吸いたくなかったのにはもう一つ理由があった。
牛丼屋の向かいには六区の交番があるからだ。
さすがに、この距離ではまずいなと思っていたので2人とも静かに入って来たのに騒ぎ始めたから交番から警察官が来てしまった。
この時ツッチーは警察官に後ろ向きだったので、まだ気づいていない。
まずーい!
気づいていないツッチーに
「ちょ!ちょ!後ろ!後ろ!」
腕を伸ばして指差すが、2人の距離が近すぎてツッチーには見えていなかった。
「あぁん!オメーの方こそごまかしてんじゃ!ねーぞぉ!」
体を揺すらせながら叫んだ。
「やばいって!逃げんぞ!」
そう言いながらツッチーの腹を叩いて合図をしたら、腹を殴られたと勘違いしたのか
「てめっ!このっ!やんのかー!ゴラァ!」
と叫んで飛びかかって来た。
「バカバカ!後ろだよ!後ろ!」
言いながら警察官を見ると路地に入りながら
「何だ!喧嘩してるのか!」
と叫んだ。
リーゼントの頭を掴んで、ツッチーの顔を後ろにグリッと回すと路地口に警察官が立っているのを見て、ようやく気がついた。
「ヤベッ!」
「だから言ったべ!」
「逃げんぞ!」
「たりめーだ!」
2人とも猛ダッシュで六区をすし屋通りの方へ走り出した。
「こら!お前たち待てー!」
後ろで警察官が怒鳴る。
が、待てと言われて待った人がいるんだろうか。
いつか誰かに聞いてみたい。
とにかく捕まるのは面倒だから、009の加速装置が入ったかのように突っ走る。
警察官は色々と装備を付けているので走るとカチャカチャ音がする。
その音と足音が少しずつ離れていったところで雷門通りに出る。
この時間の雷門通りはほとんど車が走っていないので、正面のビバスポーツ側に渡り路地裏へ逃げ込んだ。