勘違い青春日記
ケンカ、ナンパ、バイト、勉強、全てがグダグダな青春日記。
翔ぶが如く 1
「ふざ〜けんなよ!このガキャア!」
ドガシャン!ガラガラ!
派手な柄の開襟シャツを腹まで開けているチンピラが道に置いてあるゴミバケツを蹴り飛ばしながら怒鳴った。
俺と一緒に転んでいたツッチーが立て膝になって言い返す。
「ふざけてたらどうするっつんだよ!ゴラァ!」
マズい⋯
開襟シャツの男をはじめ、明らかに善人ではない右と左で眉毛の高さを変えて睨む男や、眉間の間に富士山かと思うようなシワができてる男たちがニワトリのように頭を上下に振りながら近づいて来る。
「お、おい!ツッチー!逃げるぞ!」
「はぁ?何言ってんだよ!これからお楽しみだっつーの!」
「バカ言うな!走るぞ!」
ツッチーの肩を掴んで昭和通りへと向かって走り出す。
「まて!クソガキャア!」
後ろから怒鳴り声が重なって響く。
昭和通りは日付が変わる時間になっても車の往来が激しい。
ここを渡らなければ逃げられないが、運が悪く赤信号だ。
けれど逃げなければどうなるかは一目瞭然なので
「ツッチー!渡るぞ!」
腕を引っ張る
「はぁ?バカバカ!車来てるっつーのっ!」
「いいから渡るんだよ!」
「マジかっ!」
ビュンビュン車が走る中へ2人して飛び込んだ。
急ブレーキをかける車や、急ハンドルで回避する車のタイヤの音が鳴り響く。
昭和通りの真ん中には上に首都高速が通っているので横断歩道の中間に車のこない広い場所があるが、そこで息を整える間は無い。
「ツッチーいくよ!」
今度は反対から来る車の流れに飛び込んでいく。
同じようにタイヤの音とクラクションの音が響き渡る。
奇跡的に昭和通り反対まで渡りきり、2人して後ろを見ると、道の向こう側に渡るのを諦めたのか男たちがこちらを向いて立っていた。
開襟シャツの男がこちらを指差しながら
「クソガキどもー!今度見かけたら半殺しにしてやるからなぁ!覚えとけよコラァ!」
(助かった⋯)
そう思った瞬間、爪先立ちで胸を張りながらツッチーが叫んだ。
「あぁん!そりゃこっちのセリフだー!今度会ったら全殺しだっつーんだよ!」
ツッチーの腕を引っ張りながら
「バカバカバカバカ!余計なこと言ってんじゃねーよ!」
その腕を振り解きながら
「お前もあいつらになんか言ってやれっつーの!」
と言って道の向こうを指差した。
その方向、男たちのいる方を見ると横断歩道の信号は「青」に変わって車も止まっていた。
「ヤバーい!」
「やっべー!」
2人同時に回れ右で後ろに向かって走り出した!
路地に飛び込み、走って走って、曲がって曲がって浅草通りまで猛ダッシュ!
信号の向こう側に上野警察の赤いランプが見えて、ここまで来れば大丈夫だろうと息を整える。
「ハァハァ⋯エースケ⋯大丈夫かよ⋯」
「ハァハァ⋯だ、大丈夫だ⋯なんとかね⋯」
「ハァハァ⋯まぁなんだ⋯ハァハァ⋯たいしたことなかったな、あいつらよ⋯」
「おまっ、バカ⋯ハァハァ⋯な、何言ってんだよ!相手の人数わかってんのかよ!」
「あん?たったの6人じゃん!」
「たった⋯たったつったか?今?」
「たったじゃねーか!」
「お前ねぇ⋯こっちこそ、たったの2人じゃんかよ!」
「楽勝だろ(笑)」
「んなわけねーだろ!必死で逃げてきたんじゃないかよ!」
逃げたという言葉が気に入らなかったようで、ツッチーは眉間の間にシワを寄せながら
「あん?お前が逃げたんだろ?オレァ付き合っただけだ!」
プイと横を向いた。
こうなるととうぶん機嫌が悪い。
なにか別の話にしないと面倒だな。
「なんか走ったら腹減んねぇ?」
とたんにツッチーが笑顔でこちらを向いて
「俺も!そう思った!六区で牛丼食って帰ろうぜ!」
今日一の笑顔だよ。まったく。
「ツッチーも?んじゃボチボチ歩って行こうか」
「いいねぇ、ボチボチ!オメーが言ったから腹減ってるの思い出しちまったよ!これで歩いて行けばさらに腹が減るなぁ」
ニコニコ顔で歩き出した。
「ツッチー、念のために裏道でいかねぇ?」
「気にすんなよ!もう来ねぇって!」
「まぁ⋯そうかな。でも裏道でいこうぜ」
「んだよ!ビビってんのか?」
「ビビってなんか⋯まぁそれはいいけどさ、来たら面倒じゃん!」
「面倒ねぇ⋯俺は構わねぇけどなぁ〜」
本気かどうだかわからない笑顔で歩き続ける。
ツッチーはウダウダ文句を言っていたが、2人して裏道で六区へ向かって歩き続けた。
1982(昭和57)
当時の上野アメ横は、夜になりシャッターが閉まった後はチンピラや不良の溜まり場になっていて、そこら中で喧嘩や騒動がひっきりなしの場所で、朝までやっているゲームセンターと、妖しいスナックやクラブがひしめき合って、そこに出入りする強面の大人たちと、行き場の無い中高生などが大勢ウロウロしている時代だった。