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ペルケレ共和国

 旅の目的地、ペルケレ共和国は、人間の大陸の中央南部にある。

 この世界では珍しい、王をいただかない共和制の国だ。

 その版図はグリンブル王国の2倍だが、その実態は小さな自治国家の集合体である。

 元々、この辺りには小さな国がたくさんあって領土争いが頻繁に起こり、常に戦が絶えない地域であった。

 かつて、北方のアトルヘイム帝国が、この一帯の国々を征服しようと軍を派遣した。

 その際、小国の首長が、各国の領主たちを集めて国同士の同盟を作ろうと提案した。

 集まった国は15か国にも上った。

 各国が兵士を集め、50万もの大軍になり、1人の英雄がそれを率いてアトルヘイム軍を撃退した。

 その英雄の名をペルケレと云った。


 その後、外敵から国を守るために、各国は1つの共同体を作り、英雄ペルケレの名を取ってペルケレ共和国とした。

 当初国民らはペルケレを王にと推したが、彼はそれを固辞した。その代わり彼が提案したのは、彼を中心に各国から代表を1人ずつ選び、合議制という形式を取ることだった。それがこの国の始まりだという。


 国という体裁は取っているが、実は都市ごとに自治権が違う。

 この国には大小合わせて10以上の都市があり、それぞれの地方に自治権が認められていて、首都にある中央協議会にそれぞれの自治体から税金が納められるという仕組みだ。

 国としての運営費や公共事業などはその税金から捻出される。

 利益のほとんどが自分たちに還元されるとあって、それぞれの都市は、傭兵や兵士など育成機関を設けたり、ギャンブルに特化した都市づくりをするなどの特色を打ち出して競い合っている。

 だが、問題もある。グリンブル王国と違って管理体制が整っていないため、サービスのレベルが都市によってまちまちであり、特にその治安の悪さが指摘されている。


 私たちが入国したのは、ペルケレ共和国で最も大きな街、首都セウレキア。

 街の中央には大きな闘技場がある。

 この闘技場をメインに、武器屋等の装備を売る店や鍛冶屋、観光客向けの豪華なホテルなど様々な店が立ち並んでいる。

 観光客をターゲットにした芝居小屋が多いのも特徴だ。

 旅芸人やアイドル歌手みたいなものも多くいて、一大文化の発信地となっている。

 メインの大通りを通っている間中、ずっとどこからか歌や音楽が聞こえていてなんだか賑やかだ。

 街にいる観光客は人間が多いけど、魔族もちらほら見かける。


「この都市は闘技場と傭兵で成り立ってる。ペルケレの傭兵団といえば有名なんだぜ」


 マルティスが説明してくれた。


 とりあえず、荷馬車を置いておく厩舎と、宿を確保した。

 闘技場目当ての客でどこの宿屋も混んでいて、私たちは部屋を1つしか取れなかった。


「俺とゼフォンは夜通し飲み歩くから女2人で使っていいぜ」


 とマルティスは云った。

 ずっと野宿続きの旅で、ストレスが溜まっていたのか、今夜は弾けるぞ!とマルティスは上機嫌だった。ゼフォンは「俺を巻き込むな」とブスッとした表情で云った。


「おっと、その前にやることがあるんだった」


 マルティスは私たちをセウレキアの冒険者組合に連れて行った。


 私はウィッグをつけたまま、マルティスの冒険者仲間として冒険者登録を行うことになった。

 私たちは身分証を持っていないので、この国では働くことができない。だけど、冒険者登録をすることで身分が保証されるのだ。

 冒険者組合は全国組織であり、その本部はグリンブル王国にある。その登録情報は全国で共有されるため、何か問題を起こすと、冒険者組合がその冒険者を指名手配したり他の冒険者に討伐させたりできる権限があるのだ。


 冒険者組合に行くと、私たちは俄然注目を浴びた。

 原因はゼフォンだ。

 ゼフォンが闘技場を去ってから10年近くの時が経っていたけど、彼が自分の名を名乗っただけで周囲がざわめくほど、未だに彼の知名度は高かった。

 彼の容姿が多少変わっていたことには、10年という年月がフィルターとなっていて、違和感を抱く者はほとんどいなかった。

 仲間にゼフォンがいたおかげで、私たちの登録は簡単な魔力測定を行う程度で、スムーズに行えた。通常は、属性魔法を申告したあと、テストが行われたりするらしい。

 私は指輪のおかげで魔族ということで通したから、聖属性を持っていることがバレたら大変なことになるところだった。

 新規登録者ということで、闘技場のチャンピオンがいるにもかかわらず、私たちのチームは最低ランクの下級冒険者扱いだった。


「私たち、冒険者になるの?」

「いいや。闘士になるための身分証を作っただけさ」

「闘士?」

「マルティスさん、私たちも闘技場で戦うのですか?」

「そ」


 それを聞いていたゼフォンはいい顔をしなかった。


「トワも戦わせるのか?」

「もちろんさ。トワが要と言ってもいい」

「俺は反対だ。舞台裏で魔族を癒させるだけだと言っていなかったか?」

「最初はそう思ってたんだが、おまえたち2人の腕を見たら絶対闘士の方が儲かるって確信したんだ」

「俺はトワの話をしているんだ」

「トワがいりゃ無敵になれるだろ?」


 元々饒舌な方ではないゼフォンが、口でマルティスに勝てるはずはなかった。


 その後、マルティスは私たちを闘技場に連れて行った。

 すっかり不機嫌になってしまったゼフォンは、今更案内される必要はないと、闘技場前で別れた。

 円形の闘技場コロシアムは国立競技場の数倍はあるかという巨大な屋外施設だった。

 出場する選手は闘士と呼ばれていて、その勝率によってランク分けされている。

 その日の客席は半分以上が空席だったけど、人気闘士が出る試合は毎回客席チケットの争奪戦になるほどだとか。

 試合はほぼ毎日行われていて、ランクを昇級させるための試合や初出場者同士の試合などランクが下の者同士が戦っている。下級闘士は、上級ランクの闘士が登場する週に一度のトーナメントへの挑戦権をかけて戦っているのだ。

 一通り案内してもらった後、闘技場近くの酒場にいたゼフォンを見つけて合流した。

 マルティスはその酒場にいた男となにやら話し込んでいた。

 彼はその男を連れて、私たちの元へやってきた。

 その男はコンチェイという魔族で、闘技場で働いていると云った。

 彼もまたマルティスの同郷の者だった。


 闘技場で行われるすべての試合は賭けの対象となっている。

 賭けはその日の対戦カードに対して行われ、試合開始直前まで賭け札を買うことができる。

 トーナメントの場合は組み合わせが発表された直後から、賭け札を闘技場の複数の窓口で買うことができるが、一度買った賭け札をキャンセルすることはできない。


 闘士には人間も魔族もいる。

 個人戦、武器種別、2対2で戦うダブルス、5人以下のパーティで戦うパーティ戦がある。

 これ以外に、イベント的に行われる魔獣討伐や10人以上で行うバトルロイヤルなどもある。


 個人戦では、お互い武器を持って戦う。

 武器で戦う場合、双方魔法を使ってはいけない決まりだ。

 もし使ったらその時点で失格となり、敗北した上に罰金を取られるらしい。

 ただし、武器スキルはOKとされている。

 純粋に武技だけで戦うことがこの部門の特徴なので、人間と魔族が戦うこともある。

 ただし、魔族同士、魔法士同士の戦いの場合は魔法もOKとなる。

 個人戦では、迫力のある魔族同士の戦いが人気で、ほとんどの魔族は個人戦にエントリーしている。


 パーティ戦では、魔法の使用も許可されている。

 だが、魔族はパーティ戦にはほとんどエントリーしていない。

 パーティ戦に出るのは、ほぼすべて人間のパーティであり、上級以上の回復士がメンバーにいることが多い。

 回復手段のない魔族がパーティ戦で勝利することはまず不可能だ。

 それでも力で押し切るタイプの魔族パーティはいたが、活躍できたのは下級クラスのみで、やはり実力が伯仲する上級クラスで勝つことは難しかった。


「狙い目はパーティ戦だ」


 まだ人の少ない酒場の片隅の席で、マルティスは断言した。


「魔族のパーティは勝てないという通説があるからな。そっから大逆転さ。上級クラスまでいけりゃ報奨金もいい金額になる」

「パーティ戦だと?」

「ああ、トワがいりゃ負ける気がしねえだろ?」

「トワに目立つことはさせるべきではないと言ったのはおまえだろう」

「ああ、そりゃもちろん内緒さ。トワには空の瓶でも持たせておくさ」


 私には話の内容がよくわかっていなかった。


「空の瓶てどういうことよ」

「つまり、おまえはポーション係だって思わせるんだよ」

「ああ、なるほど!回復方法がポーションだということにするんですね」


 マルティスの提案に、イヴリスがポン、と手を打った。


「アイテム係ってこと?」


 ようやく私が事情を呑み込めた時、ゼフォンが呆れ顔で口を挟んだ。


「魔族のポーションがいくらすると思ってるんだ。一介の闘士がほいほい使えるもんじゃない。もっと現実的な作戦を考えろ」


 マルティスは「おっしゃるとーり」とペロリと舌を出した。


「あとは各自が回復スキル持ち、ってことにするかだな」

「そっちの方がいいんじゃない?私詠唱しないからバレないと思うし」

「だが、一応、ポーションの瓶は持っとけよ」

「でもさ、そしたら私が回復係って一発でわかるじゃない。真っ先に狙われるよ?」

「トワさんは私が守りますから、大丈夫ですよ!」


 イヴリスが自信たっぷりに云った。

 彼女は私と契約してもあまり外見的な変化はなかったけど、そのスタイルの良さに磨きがかかっていた。なるべくなら隣に並びたくないというのが本音だ。

 それまで黙って聞いていたコンチェイが口を開いた。


「魔法具を作ってやろうか」

「魔法具?」

「おお、それはナイスアイデアだな!」


 マルティスは喜んで同意した。


「それ、何?」

「魔法を封じ込めた道具のことだ。魔法を使えない人間でも使えるように開発されたものだ」

「へえ…」

「それを武器特化型に改良した魔法具があるんだ。まあ、魔法士がいるパーティで使う者はいないがな」


 コンチェイは、そう説明してくれた。


「その代わり条件があるんだ」


 彼は私に提案してきた。

第五章です。

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