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カラヴィアという女

 イドラが出かけると云って部屋を出た後、しばらくその部屋で過ごしていたけど、いつの間にか眠ってしまっていた。ソファの寝心地が良くて、つい転寝をしてしまったのだ。

 なんだか疲れていたのと、精神的なショックのせいもあって、泥のように眠りこけていたみたい。

 イドラはまだ戻っていないみたいだ。

 この部屋には、水晶時計はあるけど、日付はよくわからない。ただ、時間が夜を示していることだけはわかった。

 なんだか寝すぎでボーっとする。


 よし、眠気覚ましにお風呂に行こう。

 ローブとこのウィッグがあれば、もし途中で誰かに会っても大丈夫よね。

 大聖堂の本棟の地下のお風呂なら、よく使ってたからわかるし。


 さっそく通路を通って本棟まで行く。

 その途中に扉があったが、そこは先ほど自分が転送されてきたマシンが置いてある部屋だった。

 部屋に入って見たけど、イドラはまだ戻っていないみたい。

 ま、いいか。お風呂から戻ってイドラが帰ってきていたらグリンブルに戻してもらおう。


 通路を真っ直ぐ歩いて行くと、鍵のかかった扉があった。

 イドラから預かった鍵で扉を開けると、そこはもう知っている場所だった。

 良かった、ここからならもう余裕だわ。


 脱衣場にはバスローブのような生地のローブがたくさんかかっていた。

 ここには薄手の手ぬぐいみたいな布しかなく、バスタオル代わりに、このバスローブを着用して湯冷ましをすることになっている。

 私は制服と下着を脱いで、そのバスローブを身に着けた。

 浴場の中に人がいるかもしれないから、念のためウィッグだけはつけておこう。

 このウィッグは着用すると頭に固定されて、なかなか取れないしズレない優れものだった。魔法でも仕込んであるのかな。

 そのウィッグの長い髪を紐で結いあげる。

 誰もいなかったらウィッグを取って髪を洗おう。


 大浴場の中に入ると、そこは湯気で満たされていてよく見えない。


「誰もいないみたい…かな?」


 ここでは、浴場の中までバスローブのまま入って、湯船に入る前にバスローブを脱ぐことになっている。

 ふいに自分の中指の指輪が目に入った。

 魔王からもらった指輪をじっと見つめていると、なんだか寂しくなってきてしまう。


「ゼルくん、会いたいな…」


 入浴のために左手の中指から指輪を外して、バスローブのポケットにしまった。

 脱いだバスローブを大浴場の壁に備え付けのフックにかけて、大きなお風呂に浸かる。


「うー、生き返る!」

「ほんとねえ」


 急に声がして、驚いて振り返った。

 私の後ろから、見知らぬ女性が1人入ってきた。

 ビックリした…。

 ウィッグつけてて良かったぁ!


「こんな遅い時間にお風呂なんて大変ね」

「あ、はい…」


 その女性は肩までのブルーの髪をゴージャスな巻き髪にしている。

 そしてものすごくスタイルがいい。

 メイドさんにしては派手よね…。

 こんな回復士さんだったら目立つだろうなあ…。


「あなた、メイド?」

「は、はい」

「ふぅん?なーんかおかしいのよね」

「な、何が、ですか?」

「ワタシはね、魔力…というかオーラが見えるの。あなたのオーラ、たしかに人間の形なんだけどさあ…。すごく変わってるわ。こんなの見たことないんだけど」

「…え?」

「あなた、ホントに人間?」

「に、人間ですよ!」

「ホホホ。ねえ、あなたトワでしょ?」

「え?なんで…?」

「探したわよ~全然見つからないんだもん。指輪の魔力も見えないし、諦めかけてお風呂に来たのは、正解だったわね!奇麗好きなワタシ、ツイてるぅ!」

「あ、あの、あなた誰ですか?」


 女はざぶざぶと湯船に入ってきた。


「ワタシ?ワタシは魔王様の愛人カラヴィアよ」

「は?」


 あ、愛人!?


「魔王って、ゼル…ニウスのこと?」

「そうよ。超絶美形の天下無双、唯一無二の絶対の魔王、ゼルニウス様が愛する女よ」

「はぁ…」


 不思議と全然信用する気にはなれなかった。この人の軽い口調のせいかもしれないけど。

 そういえば、魔王は好きな人がいたようなこと、云っていたけど、絶対この人ではないと直感した。


「む。疑ってるでしょ。本当よ。ゼルニウス様とはもう300年以上の付き合いなんだから」

「300年…すごい…」

「でしょ?」


 カラヴィアはとてもグラマーで美人だったけど、自信たっぷりの態度がちょっと鼻につく人だ。

 あの魔王がこの人を愛人にしているなんて、ちょっとシュミ疑っちゃうかも。


「そのカラヴィアさんが、私に何の用ですか?」

「…どうしよっかなあ。素直に連れて帰るのも腹立たしいしなあ…」

「あの、聞いてます?」

「あなたさあ、魔王様のこと、好きなの?」

「は?」


 なんなの?急に。

 これはなんて答えるのが正解?

 好きって…?

 でも、私だって…自分でもよくわからないのに。ゼルくんは子供で、でもそうじゃなくて、頭が良くて、頼りがいがあって、でもわがままで…。


「でもさあ、あなた人間よね?魔王様がいくら好きでも一緒にはいられないよね?」


 カラヴィアは私の答えを聞く前に話し出した。

 最初から私の返事なんて聞く気なかったみたい。


「それも醜く老いさらばえて行くのよ?魔王様はずーっとあのカッコイイ姿のままなのに。そんなの耐えられるの?」

「…それは…」


 そんなの、わかってる。

 わざと考えないようにしてたのに、この人はそれを正面から突き付けてくる。意地悪な人だ。


「ワタシなら耐えられないわ。おとなしく身を引くわね」

「…あなた、そんなタイプに見えないけど」

「ホホホ。言うじゃない?まーね、ワタシは引かないわね。力づくでも奪い取るわ。今までだってそうしてきたもの」


 見るからにそんな感じよね。この人。

 というか、かなりのおしゃべりみたい。


「じゃあさ、少し昔話をしてあげる。そうしたらきっとあなたも諦めがつくんじゃないかなあ?」


 カラヴィアはお湯の中で鼻歌交じりにそんなことを云い出した。

 それは彼女の余裕を感じさせた。


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