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彼女の行方

 魔王と聖魔騎士団が本部に戻ったとき、治安維持機構本部内はなぜかざわついていた。


「トワとマリエルはどうした?」


 魔王は訝し気に尋ねた。

 アスタリスが、<遠見>を使って見ると、1階のロビーの奥に、怪我をした治安部隊の兵士がいるのが見えた。それからすぐに、マサラが慌てて部屋に飛び込んできた。


「大変です、トワ様が攫われました」


 彼は、トワとマリエルの乗った馬車が何者かに襲撃を受け、馬車ごと奪われたと報告した。

 治安部隊の兵らは、馬車が止まった一瞬の隙をつかれたため、襲撃者を見ていないと云う。

 だが、魔王には襲撃者の見当がついていた。

 魔王はマサラに、直ちに国境を検問しろと命じた。

 マサラが出ていくと、アスタリスも声を上げた。


「僕も城門に行きます!絶対にこの街から逃がしません!」

「僕も行くよ」


 アスタリスが飛び出して行くと、テスカもそれに続いた。


「この前の頬傷の女の仕業でしょうか。治安部隊の馬車を使っているのならアスタリスがすぐに見つけてくれるはずです」


 ジュスターの言葉にも無反応で、少年魔王は立ち尽くしたまま、拳を握り締めていた。


「我のミスだ。アザドーに気を取られて、トワを気にかけてやれなかった」


  ( 私は行かなくてもいいの?

  …うん、わかった。皆、頑張ってね。)


 魔王の耳には、トワと交わした最後の言葉が残っていた。

 …必ず守ると約束したのに。


「マリエルという娘も一緒のはずです。トワ様と一緒にいるか、あるいは…」


 ジュスターがそう言うと、カナンが申し出た。


「私がその娘の家に行ってみましょう。もしかしたら娘だけ帰されているかもしれません」

「頼む」


 ジュスターの了解を得て、カナンは部屋を出て行った。


「私たちも、とてもじっとしていられません。探しに行ってきます」


 ユリウスや他の騎士団員たちもそう云って出かけて行った。


 部屋には魔王とジュスターだけが残った。

 カイザーは魔王の胸元のネックレスの中で『グルル…』と怒りの唸り声を上げていた。


『あの女魔族、今度捕まえたら八つ裂きにしてやる』

「我も同じ気持ちだ。今度ばかりはトワが止めても殺す」

「魔王様、これはザグレムが指示したことでしょうか」

「奴の女たちには理屈は通じん。あの女たちはザグレムの御機嫌を取ることしか考えていないのだからな。ザグレムがトワを望んだというのなら、トワの身はとりあえずは安全ということだ」

「…ですが、心配です」

「ああ、嫉妬に狂った女はなにをしでかすかわからんからな」



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 馬車の中で、私はマリエルとやり合っていた。


「じゃあ、殺せば?そんなにザグレムが怖いの?」


 私はわざと煽った。

 マリエルの態度にかなり頭に来ていたから。


「なんですって?」

「ザグレムなんて女好きのバカ、こっちが願い下げよ。そんなヤツの元へ連れていかれるくらいなら死んだ方がマシだわ」

「バカ?もしかして今ザグレム様をバカって言った?」

「言ったわよ。バカも大バカ。自分では何もしないで、愛人に頼るなんて、男じゃないわ!」

「キィーーー!」


 マリエルは怒りのあまり、馬車の中で私に掴みかかった。


「取り消しなさい!ザグレム様はバカって言葉がなにより嫌いなのよ!」

「バカをバカって言って何が悪いのよ!ザグレムなんてバカよ!バカ!バカバカバーカ!」

「キィーーー!!」


 馬車の中で怒ったマリエルと取っ組み合いになった。

 意外にマリエルは力が強く、私はぶたれたり引掻かれたりしてなかなかに痛い目にあった。

 彼女に突き飛ばされた私は、馬車の扉に背中をしたたか打ち付けた。

 そのはずみで馬車の扉が開いて、そのまま外へ投げ出されてしまった。


「きゃあっ!」


 御者台のヴィラは、私が落ちたことに気付かず、そのまま馬車を走らせて行った。

 遠ざかる馬車の中から、マリエルの「しまった」という声が聞こえた。


(いった)ぁ~~!」


 馬車から落ちた私の体は、あちこち擦り傷やら打ち身やらで悲鳴を上げていた。

 自分で回復魔法をかけて、やっと立ち上がれるようになった。

 ぐずぐずしてたらあいつら引き返してくるわ。早く逃げないと。


 周囲は人気のない場所で、馬車の走っていた街道から外れると鬱葱とした森が広がっていた。

 市街から離れるとこんなとこがあるのね。

 早くここから離れないと、と森の中を足早に歩いて行った。

 しばらく歩いて行くと、目の前にリスのような小動物が現れた。

 その小動物はまるで私を案内するかのように、目の前を走っていく。

 小動物を追っていくと、森の中に小さな家があるのを見つけた。

 木で作られた家は周囲の木で隠されるようにして目立たないように建っていた。小屋の裏には馬と荷馬車が隠してあった。


 表から声を掛けても返事がなかった。

 ドアが開いていたので、中に入ってみると、そこはテーブルと椅子があるだけの殺風景な部屋だった。奥に、もうひとつ扉があった。その扉を開けて奥の部屋に行くと、そこには見たことのある機械が置いてあった。

 それはポータル・マシンだった。

 どうしてこんなところにあるんだろう?

 それから、扉の近くに大きな袋がいくつか置いてある。その袋からおかしな臭いがする気がした。

 その時、表で物音がした。

 誰かいる。

 私はあわててポータル・マシンの後ろにしゃがんで隠れた。

 扉を開けて入ってきたのはローブ姿の人物だった。

 その人物は、大きな袋を引きずって出て行った。


 しばらく隠れていると、表で声がした。

 マリエルの声だ。もう戻って来たんだわ。どうしよう。


 私の目に、ポータル・マシンが映った。

 アカデミーで、魔王の実験を見ていたことがあったので、なんとなく操作の仕方はわかってる。

 これを使おう。

 …でもひとつだけ問題がある。

 このポータル・マシンの転送先がわからないことだ。

 マリエルの声が近くなってきた。

 もう迷っている暇はない。

 私はポータル・マシンの台座に乗って、電源を入れた。

 ええい、どうにでもなれ!

 私はマシンの転送ボタンを押した。

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