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魔族との遭遇

 この世界の時間の流れ方は、元の世界とほぼ同じだった。

 季節もちゃんとあって、国によって春が長いとか冬が長いとかの違いがあるようだ。

 で、この国は北にあるので、年間を通して寒い日が続くという。

 この世界の時間は日の出と日没を基準にしていて、季節で時間が変わる。サマータイムとかがあるってことね。時間を知るために、魔法で制御する水晶時計が活用されている。

 1週間は8日で、元の世界より1日多い。1か月は5週間で40日もある。1年は10か月で400日となり、元の世界の感覚よりも少しだけ長い。


 私がここへ召喚されてから、こちらの時間でいうところの1週間が経った。

 毎日修行しているけど、私の魔法力は一向に結果が出ない。

 他の候補者たちはメキメキと実力を発揮しているというのに…。

 これ、完全に落ちこぼれってヤツだ。


 そんな時、レナルドから、魔族が出たという報告を受けた。

 私たち勇者候補に、初めて出撃命令が出たのだ。


「ついに来たな!」


 将は張り切っていた。

 私も彼らと共に駆りだされることになった。


 私たちがいるこの大司教公国は、かつてオーウェン王国という国があった場所だという。

 オーウェン王国は100年前に魔族によって滅ぼされた。

 この国はその跡地に作られたのだ。

 城門の外に広がる旧市街地には、いまだに手付かずの廃墟が残ったままだ。

 その廃墟には、100年前の大戦を生き延びた魔族が潜伏しているらしい。

 潜伏している魔族たちが食糧を確保するために、たびたび近隣の村を襲っているそうだ。

 今回も魔族の襲撃に遭った村が救援依頼を出してきたのだ。

 たまたま近くを巡回していた公国騎士団が被害のあった村へ急行し、村の出入り口を固め、襲ってきた魔族たちを村へ封じ込めているのだという。


 私たちが到着した時には、村人の半数が避難していた。

 村は高い塀に囲まれていて、出入り口は大扉が北と南に1つずつある。

 そこを騎士団たちが占拠し、魔族を逃がさないように封鎖している。

 魔族たちは村人たちを人質に取っているという。


「卑怯だわ。人質だなんて、許せないわね」


 エリアナは怒っていた。

 私たちは騎士団の団長と打ち合わせをして、魔族殲滅作戦の内容を聞かされた。

 その作戦に、私は唖然とした。

 魔族が潜んでいると思われる家屋に勇者候補と共に騎士団が突入し、魔族を殲滅するという何とも単純なものだったからだ。


「人質は助けないんですか?」


 私は当たり前のことを聞いた。


「魔族殲滅が最優先です」

「村人が魔族に攻撃されても、死んでいなければ回復士が回復魔法で癒しますから」


 だから、気にするな、という。

 実際、騎士団には上級回復士が同行している。


 だけど、そんなめちゃくちゃな作戦ってある?

 いくらなんでも回復魔法に頼りすぎじゃない?

 もし死んでしまったら、それは運が悪かったってことで済まされてしまうわけ?

 助けられる命を、最初から放棄するなんて、私には理解できなかった。


 エリアナたちは平気なのかな?

 回復士の私は、エリアナたちより後方にいるので、彼らの表情はわからなかった。


 そうしているうちに、作戦が始まった。

 騎士団の人たちが、1軒の家の扉を蹴破って、中に入っていった。

 剣を持った将が後に続き、その後ろからエリアナが続いた。

 優星は外で弓を構えている。

 私の位置からは、家の小さな窓から炎や光が見え、怒号と悲鳴が聞こえるだけだった。

 大きな爆発音の後、家から火だるまになった人影が飛び出してきた。

 外で待ち構えていた優星はその人物に向けて弓を射た。

 肩と脇腹に弓を受けて倒れたのは、村人ではなかった。


「あれが、魔族…?」


 緑色の肌をしていて、耳が尖っている。


「ゴブリンだ…」


 そう、それはゲームやアニメで見たことのあるゴブリンっていう魔物にそっくりだった。

 外にいた兵士が倒れたゴブリンを捕縛した。


 家の中からエリアナたちが出てきた。

 続いて兵士がゴブリンを3体引きずって出てきた。


「トワ様、行きますよ」


 一緒にいた騎士団の回復士に声をかけられ、エリアナたちと入れ違いに家の中へ入っていく。

 家の中は炎の魔法の後なのか、あちこち黒く焦げていた。

 人質の村人が家の隅に2人、倒れていた。


「ひどい火傷とひっかき傷…」


 幸い2人とも息はあった。


「ともかく冷やさないと…!」


 私はいつもの癖で、応急処置を取ろうとして、うろうろしてしまった。


「何をやっているんです。はやく回復魔法を」

「あ、そっか…魔法で治すんだっけ」


 私は村人の傷に手をかざした。

 とりあえず、ひっかき傷からの少量の出血は止められた。

 だけど火傷の方は、なんどやっても治せなかった。

 ふと、隣を見ると、騎士団の回復士は長い詠唱を終えると、見事に村人の傷を治していた。


「ふあ…さすが」


 もたもたしている私の手際を見て、回復士は溜息をついた。


「トワ様、それでは戦場では役に立ちません。もっと修練を積んでください」


 そう言って回復士は私を後ろに退かせ、村人の傷を見事に治した。


 他の家にも複数の魔族が潜んでいるというので、同じように突撃してはエリアナが魔法をぶっ放し、将が剣で魔族を切り刻んだ。外に逃げ出した魔族を優星が弓で仕留める。

 そんな連携であっという間にこの村にいた魔族たちを殲滅した。


「なによこれ。ぜんぜん手ごたえないじゃない」

「たしかに、期待外れだったよね」

「俺は魔法剣の試し斬りができて良かったけどな」


 後で騎士団の兵に聞いたら、この村にいたのは最弱の部類に入る下級魔族だったらしい。

 ゲームなら序盤に出てくるザコキャラってところだ。


 村人たちは私と回復士によって(ほとんど私は役に立っていないけど)傷を癒され、死人は出なかった。だけど、戦いに巻き込まれた村人たちは、恐れや痛みを感じていて青ざめていた。

 いくら魔法で回復するからといっても、やっぱりこのやり方はダメだと思う。


 捕らえた魔族たちはこの国の研究施設(リユニオン)へ送られるという。

 魔族たちの中にはゴブリンのような見かけの魔族の他、狼男のような半獣人もいた。魔族、と一口に云ってもいろいろいるんだな。

 でも魔族の見かけはだいたいイメージしてた通りだった。


「あの魔族たちの傷は回復させないんですか?」


 私が隣にいた回復士に聞くと、彼は眉間にシワを寄せて云った。


「それ、本気で言ってるんですか?」

「え?あ…はい」


 彼は溜息をついた。


「勇者候補の教育はどうなってるんだ、まったく…」


 とブツブツ文句を云った。


「魔族には回復魔法は効かないんですよ」

「え?そうなんですか?」

「そもそも、回復魔法は聖属性魔法です。魔族はそれとは対極にある魔属性を持っているので、聖属性魔法を使うことも掛けることもできません。当然回復魔法も受け付けないのです。そんなこと子供だって知っている、常識ですよ」

「そうなんだ…」

「もっとちゃんと学んでくださいね」


 回復士は呆れたように言った。


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