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聖魔騎士団:遭遇戦

聖魔騎士団視点です。

「たった9人で砦を落とせだなんて、ひどくない?!」


 魔王が出した条件に、私はプリプリ怒っていた。

 しかも今回、私は同行を禁じられていて、彼らを回復してあげられないというハンデ付き。

 彼らはそれを引き受けたのだ。


 下級魔族らの食堂として使われているホールの長テーブルで顔を突き合わせながら、私と聖魔騎士団に任じられた9人は話し合っていた。


「皆、もうちょっと怒ってもいいと思うわよ」

「いえ、魔王様のおっしゃることもわかりますから」

「トワ様って、本当にスゴイ方だしさ。そんな方をちゃんと護衛できるのか、実力見せろって思う気持ちもわかるんだよね」


 ジュスターとネーヴェが素直な気持ちを云った。


「大丈夫です。やって見せますよ」

「私たちには、トワ様からいただいた力がありますから」


 カナンやユリウスも自信を見せた。

 他の連中も口々に「任せてください」と云ったけど、心配だ。

 彼らは砦攻略の案を次々と出していた。本気で落とそうとしているんだ。

 意見は白熱していき、話は魔力の温存をどうするかという話になっていた。

 私がいれば、そんな心配いらないのになあ…。なんだか蚊帳の外って感じで寂しい。


「…私が見えないところで皆が戦うの、すっごく嫌なんだけど」


 私がそうボヤくと、アスタリスが半分冗談で云った。


「僕が見ている映像をトワ様に見せられたらいいのですけどね」

「そうよ、アスタリス。それを見せて欲しいわ」


 それが見れたら最高よね。前から<遠見>ってどんな風に見えているのか気になってたんだ。

 そう云った途端、アスタリスの体が光ったので、私も彼も驚いた。


「あは…は…。<視覚共有>スキルが来ちゃいました…」


 冗談で云ったことがまさかの現実になっちゃった。

 他のみんなもおおー!と、どよめいていた。

 <言霊(ことだま)>スキル、恐るべし…。

 アスタリスによると、<遠見>スキルを使用している間、目を瞑って彼の体に触れていれば、彼の視ている映像を視ることができるという。

 だけど、それを見るためには、アスタリスと一緒にいなくちゃいけないわけで。さすがにSNSみたいに遠くにいる人に動画を送るようなことはできないのだ。

 アスタリスは苦笑いしている。


「ねえ、やっぱり私も連れてってくれない?カイザーのスキルで守ってもらうからさ」

「トワ様、それは…」


 アスタリスは戸惑った表情をしていた。

 ちょうどそこへサレオスがやってきた。


「トワ様は基地から出てはいけません。魔王様がお怒りになります」


 と、私に釘を刺した。

 そして報告した。


「魔王様のご命令で、緊急事態に備えて私が一個中隊を待機させることになりました」

「緊急事態って、どういうこと?」

「全滅した時に備えて、です」

「全滅って!」


 私は思わず椅子から立ち上がった。

 魔王は全滅するかもしれないと思って、サレオスを待機させるっていうの?冗談じゃない。


「トワ様、大丈夫です。全滅などしませんから」


 隣に座っていたジュスターが、私を宥めようと声を掛けてくれたので、私は再び椅子に座りなおした。


「アスタリスはトワ様と基地に残ってくれ」


 ジュスターの言葉に、アスタリスは驚いて立ち上がった。


「そんな!僕も戦います!」

「いや、おまえは基地から砦全体を見ていてくれ。そして我々の戦いをトワ様にお見せするのだ。これはおまえにしかできぬことだ」

「…わかり…ました…」


 アスタリスは俯いて、下唇を噛みしめている。

 こんなことになるなんて、私のせいだ。これじゃパワハラだ。

 たった9人しかいないのに、そこから外されてしまうなんて仲間外れにされたみたいできっと悔しいのだろう。


「ごめん、アスタリス…。そんなつもりじゃなかったの。私おとなしく待ってるから、ジュスター、アスタリスを外さないであげて」

「トワ様…」アスタリスが私を見た。

「皆が危険な戦場に行くのに、私だけ何もできないのが寂しいとか思っちゃって…。皆が私に逆らえないのをいいことにわがまま言うなんて、私って主人失格だわ。サイテーよね…」


 私がそう云うと、彼らはすぐに「そんなことはありません!」と云ってくれたけど、なんか気まずい…。

 でもその場を収めたのはアスタリス自身だった。


「トワ様は主人失格なんかじゃありませんよ。…僕こそすいません。トワ様は僕らを心配してくれているのに、そんなお気持ちも考えずに、自分のことばかり考えてて…。ジュスター様、僕はトワ様と基地に残って、砦の様子を報告します」


 アスタリスはそう云って、座りなおした。

 彼は本当にいい子だ。私のせいにしてもいいのに。

 ともかく、彼らは8人で砦を落とす算段を始めた。

 前回は、砦を抜けることが目的だったから手加減もしたけど、今回は砦を落とすことが目的なのだから人数的にも余裕はないだろう。

 私は、常々できるだけ人間を殺さないでとは云っているのだけど、今回は彼らの裁量に任せることにした。


「意見はまとまったようだな。おまえたちの手際、見せてもらおう」


 サレオスは、笑いながら去って行った。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 聖魔騎士団の8人は、全員馬に乗って前線基地から出撃した。


 すると間もなく、国境砦から出てきた1台の馬車と遭遇した。

 その馬車から5人の人間が下りてきた。

 そのうちの1人の少女が、彼らに向かって叫んだ。


「あんたたち、人間の女の子を攫ったんじゃないでしょうね?」


 彼らは顔を見合わせた。

 ジュスターから、遠隔通話(テレパシー)で「無視しろ」と命令が来たので、誰も答えなかった。


「口がきけないってわけ?」


 少女らが何か話したが、彼らはそれを無視して先を急ごうとした。

 すると、少女はこちらへ向かって炎の魔法を撃ってきた。

 彼らはそれを素早く避けた。


「仕方がない、応戦しろ」


 ジュスターが遠隔通話(テレパシー)で命令を出す。

 ウルクが馬上から翼を広げて空へ舞い上がった。

 彼へ向けて、弓を持った男が矢を射かけてきたが、<物理無効>スキルを持つウルクには矢が届くことはなかった。

 彼は空から<高速行動>を使って、一気にその弓士へと距離を縮めた。

 ウルクはちょっとした悪戯心で、その人間の弓を掴んで微笑んで見せた。

 すると、その弓士は驚いて腰を抜かした。

 ウルクはその様子が面白くて、笑いをこらえるのに必死だったが、仲間から「まじめにやれ」と云われ、再び空中で距離を取った。今度はその黒い翼を羽ばたかせて、黒い羽根を矢を射かけるように飛ばした。

 大盾をもった重装兵が前に出て、羽根の矢はその盾で防がれた。

 盾は魔法壁で覆われているようだった。


「あの魔法盾、少し厄介だね」とネーヴェが話すと、「陣形を立て直す」とジュスターから全員に指令が行った。


 馬を降りた聖魔騎士団のメンバーたちは、半月形の陣形を取って人間たちと対峙した。

 魔法盾を持つ重装兵が先頭に立ち、ネーヴェやユリウスの魔法を防いでいる。

 その盾の後ろにいる魔法使いの少女が叫んだ。


「指揮を取っているのは後ろにいるあの銀髪の魔族よ。あいつを狙って!」


 少女の隣にいた魔法剣を使う男が、ジュスターに向けて剣を振るうと、その切先から風の魔法が飛んできた。

 ジュスターの前にいたメンバーはそれを回避して道を開けた。

 クシテフォンが蝙蝠の翼を出して素早くジュスターの前に出て、将の風魔法を<魔法吸収>スキルにより素手で受け止めた。


 しかしこちらの魔法は殆どが重装兵の持つ魔法盾に弾かれてしまい、その隙をついて、盾の後ろにいる少女が強力な炎の魔法を撃ってくる。

 爆炎が彼らを包むが、彼らは<魔法攻撃無効>スキルのおかげで無傷のままだった。


「ここにおられなくても、我々はトワ様のお力によって守られているのだ。それを忘れるな」


 ジュスターが全員に向かって遠隔通話でそう呟いた。


 魔法攻撃をものともしない彼らに、人間たちの動きが一瞬止まった。

 すると今度は魔法剣を持った男が1人で前に出てきた。


「俺と1対1で勝負しろ!」


 彼は叫んだ。

 騎士団のメンバーたちも、どうする?と顔を見合わせた。

 ジュスターはカナンを指名し、「少し遊んでやれ」と命じた。

 だが、カナンは剣を持っていない。


「おいおい、素手で俺とやろうっての?」


 魔法剣の男が笑いながら云った。

 カナンは素手でも勝つ自信があったので、その挑発には乗らなかった。

 だがその時、背後からカナンに声を掛ける者がいた。

 後ろを見ると、そこにはいつの間にかサレオスが立っていた。

 彼は面白そうだと、率いていた部隊を後方に置いて、1人で様子を見に来たのだった。

 サレオスは自分の腰に帯びていた剣を外し、「これを使え」と鞘ごとカナンに投げた。


 魔法剣の男は、サレオスを見て動揺したようだったが、剣を抜いてカナンの前に出た。

 カナンも受け取った剣を抜いて、それを右手に持って戦い始めた。


 2人の決闘を、皆は見守っていた。

 何十合と撃ち合っているうちに、カナンはちょっと楽しくなってきた。

 この男は魔法剣の使い手のはずだが、魔法を付与せずに剣技だけで戦おうとしているからだった。

 こんなに剣で撃ち合ったのは久しぶりかもしれない。

 この男、筋は悪くない。鍛えればもっと強くなるだろう。

 だが、相手の男の後ろには回復士がいる。あまり時間をかけてもいられなさそうだ。

 その時、ジュスターから合図があった。「遊んでいないでそろそろ仕留めろ」ということだった。

 剣を合わせる楽しみを惜しみつつも、カナンは剣を利き腕に持ち替えた。

 カナンにとってみれば、まだ実力の30%も出していない状態だったが、それを少しだけ解放すると、あっという間に勝負がついてしまった。


 魔法剣の男は負けを認め、膝をついて覚悟を決めたようだったが、カナンは振り向きもせず、仲間の元へと戻った。ジュスターから、「その人間たちは放置しろ」と命じられたからだった。

 聖魔騎士団のメンバーは騎乗し、もはや戦意喪失している人間たちには構わず、砦に向かって一直線に馬を走らせた。


 彼らの目的は最初から砦を落とすことであった。


前のお話の視点を変えたザッピング回です。

トワがパワハラ上司のように…。

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