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前線基地での再会

 翌朝、私たちは前線基地を目指して出発した。


 御者席のアスタリスが、前線基地から巡回警備中の一個小隊がこちらへ向かっていると報告してきた。

 もちろん、それは魔族の一団だった。

 彼らは私たちを怪しみ、馬車を止めるよう指示してきた。

 止めた馬車の荷台から、私が顔を出すと、誰かが声を掛けてきた。


「あれ…?もしかしてトワか?!」


 警備兵を率いていたリーダーらしき魔族が、私を見てそう叫んだ。


「あ、あんたはたしか…」

「ケッシュだよ。アンフィスの幼馴染の」


 それは、サレオスを癒したあの夜、彼の弟と一緒にいたケッシュという魔族だった。


「サレオス様が、こっちの方に知っている魔力の持ち主がいる、っていうから来てみたんだ」


 そういえば、サレオスは魔力探知のスキルがあるって魔王が云ってたような。

 こんな感じで魔王も見つけたんだな。


「戻ってきたんだな」

「うん。魔王はまだ基地にいるの?」

「ああ、あんたがきっと戻ってくるだろうって、待ってるぞ」

「えーっ?それホント?」


 魔王ってば予知能力でもあるんだろうか。


「んで、この人たちは?」

「私の仲間よ」


 ケッシュたちの案内で、私たちは前線基地へと向かった。

 基地の門から敷地内に入ると、放し飼いにされている魔物がうなり声をあげて近づいてきたけど、カナンが<獣化>して威嚇すると尻尾を撒いて逃げて行った。

 馬車から降りて、基地の中に入ると、うちのメンバーたちは、物珍しそうに周りをきょろきょろ見回していた。

 まるで上京したての田舎者みたいだ。

 私も最初はそうだったから、気持ちはわかる。

 先へ進むと、サレオスが出迎えてくれた。


「サレオスさん」

「トワ様。ご無事の帰還、なによりです」


 私がサレオスと挨拶を交わしていると、背後でウルクやネーヴェたちがひそひそと話しているのが聞こえた。


「サレオス様って魔王護衛将のお1人の、あのサレオス様だよな?」

「へえ~、かっこいいよね!強そうだし!」

「やっぱ威厳があるよね~!」

「うわ~、僕たち今すごい人と会ってるんだよね?」


 などと云ってキャッキャしている。

 アイドルのコンサートに来た女子高生か!


「魔王様が謁見の間でお待ちです」


 サレオスの言葉に、うしろで井戸端会議していた連中の興奮度が更にアップした。


「ちょ、ちょっと、魔王様に会えるの!?」

「どうしよう、心の準備が…」

「お顔を直接見てもいいのかな?目がつぶれないかな?」


 そんな彼らに「ほら、行くわよ」と声をかけ、謁見の間へと進む。

 謁見の間の巨大な扉を開けて、レッドカーペットが敷かれた先の玉座に、彼はいた。

 私たちを先導してきたサレオスは、魔王の座る玉座の隣に、守護神のごとく腕組みをして立った。


 私たちは全員で玉座の前まで進んだ。

 私の後ろで、ジュスター以下全員が膝を折って魔王に頭を下げていることに気付いて、自分1人だけ突っ立ったままだったことに慌てていると、魔王が声を掛けてきた。


「トワ、よく戻った」


 彼は相変わらず少年の姿だった。

 座れって云われないからそのまま立ち話することにした。


「カイザーを貸してくれたおかげよ。ね?カイザー」


 私がネックレスを服の下から取り出して手に取り、声をかけると、カイザーはミニドラゴンの姿で現れた。


「そうか。カイザードラゴンは役に立ったか」

「ええ。おかげで彼らを救い出すことができたわ」


 私はジュスターたちを振り返った。


「その者たちは?」

「彼らは魔族を実験材料にしていた人間の施設に捕らえられていたの」

「ほう…」

『その施設は私が潰してやったがな』


 カイザーがドヤ顔で言った。

 ジュスターが一歩前に出て、私の隣で片膝を付き、話し出した。


「魔王様、お初にお目にかかります。私はこの者どもを束ねるジュスターと申す者。我々は先の大戦で生き残り、人間の国に隠れ住んでおりましたところ、人間に襲撃され囚われてしまいました。人間の施設では、多くの同胞が殺され、我々も死を待つばかりの状態でしたが、トワ様に命を救っていただいたのです」

「ふむ。ジュスター、と言ったか。おまえはどこの軍にいたのだ?」

「遊撃部隊におりました」

「…そうか。他の者たちもそうか?」


 魔王が尋ねると、カナンが答えた。


「我々はマクスウェル魔伯爵様配下の第5師団に属しておりました」


 あれ?

 ジュスターって、彼らと同じ部隊じゃなかったんだ?

 ああ、でもそうか、よく考えてみたら実力差がありすぎるもんね。


「わかった。お前たちの処遇は考えておこう。100年の長きに渡る不遇をよくぞ生き抜いてきたな」


 魔王のねぎらいの言葉に、皆感極まったみたい。

 アスタリスなんかは涙ぐんでいた。


『魔王よ。こやつらはトワと契約しておる者たちだ。トワに付けてやってはどうだ?』

「契約だと?どういうことだ」


 カイザーの申し出に、魔王は怪訝な顔をした。


『トワと主従の契約を結んだということだ。私も結んでいるぞ』

「ほう…?おまえが我以外の者と契約するとはな。詳しく話せ」

『トワは<言霊(ことだま)>スキルにより、それを望む者と主従関係を結ぶことができるのだ。そして、契約した者に任意でスキルを付与できる能力も持っている』

「他人にスキルを付与できるというのか?」

『そうだ。証拠を見せよう』


 カイザーはその場で、成長した魔王の姿に変身した。

 少年魔王は驚いた表情になった。


「なんだ、それは…!」

『見てわからんか。この姿は以前のおまえだ』

「それはわかっておる。なぜそんな姿になっておるのかと聞いているのだ」

『トワが人間に擬態できるスキルを私に与えてくれたからだ』

「ほう…」

『こんなこともできるぞ』


 カイザーは今度はサレオスの姿になった。


「なんと…!それは、私ですか!?」


 サレオスは目をぱちくりさせて驚いていた。

 カイザーはサレオスの姿のまま、ボディビルダーがするみたいなマッチョポーズをいくつか取っていた。


『一度見た人型に擬態できるのだ。声も変えられるのだぞ。どうだすごいだろう?』

「カラヴィアとはまた違った能力で面白いな。ではその方らもトワからスキルを貰ったのか?」

「はい。ここにいる全員がいただいております。生活スキルから戦闘スキルまで様々なものを付与していただきました」

『トワはスキルだけでなく、全員を上級魔族に進化までさせたのだぞ』


 カイザーはまるで自分の手柄のように語った。


「進化…!?なんと、そんなことまで…!」


 サレオスはさっきから驚きっぱなしだ。


「まるで神だな」


 魔王はニヤリと笑って云った。


『そうだ、魔王よ。トワがなぜ魔族を癒せるのかがわかったぞ。トワは聖魔両属性を持っていたのだ』

「やはりそうか。稀有なことだがその可能性はあると考えていた」

『うむ、だがそのせいでトワは人間の国を追われることになったのだ。奴隷に落とされて食事も満足に与えられず…』


 カイザーが私の代わりにしゃべってくれていたので、私はただ黙って話を聞いているだけで良かった。だけど、その話は途中から、いかに自分が私を慰めたか、励ましたか、役に立ったかということにすり替わっていた。そのせいで私は倒れたんだけど、そこはちゃっかりはしょっていた。まあ、あんたってそういう奴よね。


「あ、そうだ。これ、返した方がいいのかな?」


 カイザーの話が一段落した時、私はネックレスを手に魔王に聞いてみた。


「カイザードラゴンよ、おまえはどうしたい?」


 魔王はカイザーに問いかけた。


『私はトワと契約を結んだ。共にありたいと願う』

「そうか、ではそれは、おまえが持っておくがいい」

「いいの?」

「カイザードラゴンがそれを望むのだ。構わん」

「ありがとう!」


 謁見はそれで終わり、私たちにはそれぞれ部屋が与えられた。

 私に与えられたのは、以前泊った部屋だったけど、ジュスター以外の他のメンバーたちは4人ずつの大部屋に別れたみたい。

 部屋で一息ついていると、魔王が訪れた。


「お前の部下に<S級調理士>スキルを持っている者がいるらしいな」

「ああ、ウルクとユリウスね」

「お前が与えたのか?」

「うん。大司教公国の食事みたいなクソマズイのはもう勘弁して欲しかったからね」

「そうか。そやつらが世話になるのだからと、調理士長に手伝いを願い出たそうで、厨房が大騒ぎになっているぞ」


 そっか、S級調理士って神レベルだって云ってたっけ。おまけに<高速行動>もあるからなあ…そりゃビックリするでしょうね。

 ゆっくり休んでてもいいのに、ホントに義理堅いんだな、彼らは。


「ゼルくん、まだここにいてくれたんだね」

「ああ。あの後、人間の砦はずいぶんおとなしくなったぞ。国境砦の駐留軍以外は引き上げていったらしく、現在はかなり手薄らしい。どうやら交代する部隊の到着を待っている状態のようだ。おまえたちは運が良かったな」


 やっぱりジュスターの云ってた通りだったんだ。


「良ければ、また風呂を沸かしてやろうか」

「ホント!?お願いするわ!」


 少年魔王と私は連れだって、基地の屋上へと向かった。

 その途中―。


「ね、私を待っててくれたってホント?」

「…ああ」

「戻ってくるってわかってたの?」

「まあな。おまえが戻ってきたら魔王城へ連れて行こうと思っていた」

「魔王城?」

「魔王都メギドラにある我の城だ」


 そう云われても私にはピンとこないんだけど。


「どうだ?一緒に来るか?」

「うん」

「…意外と素直だな」

「だって行くところもないし。正直、ここへ来たのだって、ゼルくんを頼ってきたんだもの」

「そうか、そうか」


 魔王は少し嬉しそうに頷いた。


「それに、私だってタダでゼルくんに甘えようなんて厚かましいこと思ってないわ。私にできることがあるなら力を貸すし、役に立てっていうのなら努力するつもりよ」

「…驚いたな。おまえからそんな申し出があるとは」

「働かざる者食うべからず、よ」


 彼はククッと笑って、「では、さっそく役に立ってもらおう」と続けた。


「魔王都までは長旅になる。カイザードラゴンを飛ばして魔王都まで行くにも、今の我では魔力が足りん。この基地の人員を割くことはできんから、お前の連れてきた護衛たちの力を借りたい」

「もちろん、いいわよ。彼らは私についてくるって言ってるしね。でもさ、ゼルくんって重力も操れるんでしょ?自分で空飛べたりしないの?」

「飛べないことはないが、長時間は無理だ」

「そっか…子供だから体力もないわね」

「だから子供ではないと云っているだろう!」


 魔王は頬を膨らませた。

 でもその様子はどこからみても子供だった。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 魔王は、ジュスターたちのために、『聖魔騎士団』という新たな部隊を作ると云った。

 正式な発足は魔王都に戻ってから、ということだけど、なんかカッコイイ響きだ。

 『聖魔』とは私のことを指すらしく、つまりは私の護衛部隊ということだ。

 ジュスターはその団長に任命されることになり、魔王から正式に魔騎士の称号を与えられた。

 魔王の与える称号には魔貴族のような領地を伴う身分の他に、領地を持たない軍事職としての称号がある。

 軍事称号にはそれぞれ階級があり、階級の差は指揮できる軍勢の数の差となる。

 階級の尤も上は魔元帥で、現在空位だそうだ。次がサレオスが任じられている魔王守護将で、以下、上級魔大将、魔大将、魔中将、魔騎士団長、魔少将、魔騎士、魔軍団長、魔連隊長、と続くらしい。説明されてもチンプンカンプンだから覚えられる気がしない。

 ジュスターの階級は魔騎士だけど、聖魔騎士団長という個別の称号で呼ばれることとなるらしい。

 これらは魔王の与える正式な称号であり、これとは別に各魔貴族が自分の持つ軍団内で与える称号もある。当然だけど、正式な称号を持つ人の方が偉いわけだ。


 カナンが副団長に任命され、残りのメンバーは聖魔騎士団員、という身分を得ることになる。

 100年前の敗戦以来、彼らは新たな地位と拠り所を得ることとなり、その喜びようといったら、どこかのスポーツチームが優勝したかのような騒ぎっぷりだった。


 ただし、魔王はそれらのすべてを彼らに与えるにあたり、1つの条件を提示してきた。

 彼らの実力が、私の護衛として相応しいかどうかをテストする、というのだ。


 それは、彼ら9人だけで人間の国境砦を落としてこい、というものだった。

久々に魔王が登場しました。存在感薄めですね。ていうかケッシュって誰?っていう人は第一章の人物紹介を参照のこと。でも覚えていなくても何も問題ありません。

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