魔族の仲間たち(3)
「そういえば、皆、どうして研究施設に囚われていたの?」
私が尋ねると、皆は顔を見合わせた。
「私がお話ししましょう」
ジュスターが代表して語りだした。
彼らは100年前の人魔大戦に魔王軍として参加していた戦士たちで、先に人間の国で戦っていた魔伯爵マクスウェルへの増援として派遣されたのだった
魔王と勇者の最終決戦は、滅ぼされたオーウェン王国の跡地で行われたそうだが、彼らの軍は本体と合流する前に魔王が勇者に敗北したために、行き場を失ってしまった。魔王軍は瓦解してしまい、各部隊は散り散りになってしまったという。
後方で指揮を執っていた魔公爵ザグレムは、混乱する軍をまとめて魔族の国へ兵らを撤退させ、他の魔貴族たちとも力を合わせて人間軍と戦い、その多くを魔族の国へ帰還させることができたそうだ。
その時、本体に合流できずに、人間の軍隊に追われて撤退できなかった魔族も多くいたという。
その多くはそのまま人間の国でひそかに暮らすことになった。
彼らもそうして取り残された魔族たちだった。
故郷へ戻ろうにも国境は人間たちに封鎖されていて、帰る場所を失った彼らは、人間の集落から離れた場所に魔法で結界を張って魔族の村を作り、100年もの間ひっそりと暮らしてきたという。
「100年もよく、見知らぬ土地で人間に見つからずに暮らせていたわね」
私は感心した。結界を張っておくと、村の付近を通ってもなぜかその場所だけ意識から外れるため、人に見つかりにくいのだそうだ。
「最初の頃は、近隣の村を襲って食糧などを奪ったり、人間の家畜を盗んだりしていました。ですがそれでは長く暮らせないと考えを改め、家畜を繁殖させることを覚え、人間の見よう見まねで畑を耕したり、木を植えてみたりと、徐々に普通の暮らしをするようになりました」
そういえば魔族の土地は不毛の土地も多いって云ってたっけ…。
作物の育て方も知らなかった彼らはきっと苦労してきたんだろうな。
「しかし故郷に帰りたがる者も多く、村を出て行く者は後を絶ちませんでした。ある時、村を出て行ったはずの魔族の1人が瀕死の状態で村に戻ってきました。私はその者から村を出て行った魔族たちが、皆あの研究施設に捕まっていたことを知りました」
あの恐ろしい魔族の実験施設は、最初は大戦後に捕らえた魔族の収容所だったという。それがいつの間にか、人体実験を行う悪魔の施設へと変貌していったのだった。
あの丸眼鏡が所長になってからは、実験のために多くの魔族を金で買うようになり、討伐隊の小遣い稼ぎになっていた。
「そのことを知った私は、村の有志を率いて囚われた同胞を救出するため出撃しました。しかしそれは我々をおびき出すための人間どもの罠だったのです」
ジュスターは美しい顔を悔しそうに歪めた。
「村に戻ってきた魔族は人間どもに利用された密偵だったのです。私たちの留守中に、その密偵が村の結界を解いて、人間の軍隊を引き入れました。多くの魔族が命を落とし、村は壊滅させられました」
ジュスターたちの村にやってきたのは、アトルヘイム帝国の黒色重騎兵隊だった。おそらくこの前遭った『黒の爪』のような巡回隊だったのだろう。
「多くの同胞が捕らえられ、あるいは殺されました。出陣していた私たちも待ち伏せされ、彼らに包囲されました。皆必死で戦いましたが、村に残った者たちを人質にとられ、囚われの身となったのです。それからはトワ様もご覧になったとおり、あの施設で実験と称してひどい虐待を受けていました」
ジュスターの話を聞いて、胸が苦しくなってきた。
ここにいる9人は運が良かっただけなんだ。
あの丸眼鏡、生きてるかな?トドメを刺しておけばよかったかもしれない。
もしあいつが生きていたら、また同じ目にあう魔族が出てくるかもしれないんだ。
ジュスターの気持ちを考えると、自分の甘さを悔やんでしまう。
「ごめん…つらいことを聞いちゃって」
「いいえ、こうして救っていただけたことに感謝しています」
他のメンバーらも頷いた。
「私たちはトワ様に出会って、新たな命をいただきました。この命ある限り、トワ様とありたい。トワ様に付いて行きたいんです」
そう懇願したのはオレンジ色の髪のカナンだった。彼の後ろにいる他のメンバーも、目がうるうるしているように見えた。
「…うん、わかったわ。これからもよろしくね」
皆は喜びの声を上げて、私の周りに集まってきた。
こんなににぎやかなのは、久しぶりだ。同級生同士の飲み会以来かも。
こうして見ていると、彼らはそれぞれ、個性的な一面を見せる。
彼らの副リーダー的存在のカナンは、ワイルド系な外見とは裏腹に、実は片付け魔であることが判明した。
食事が終わると、空いている皿などを次々と片付けていくのである。
居酒屋とかファミレスによくいる「空いているお皿お下げします」っていう店員みたいに。
大皿から料理を取り分けるのも彼の仕事で、かいがいしく全員分を小皿に取り分けていた。
飲み会でよく見る、女子力高い系女子みたいだ。たぶん、冬になると鍋奉行になるタイプだな。
ネーヴェは逆にカナンに世話される方だった。結構天然系で、かなり毒舌なところも見せる。
物怖じしない末っ子タイプで、誰に対してもタメ口をきいているけど、皆に可愛がられているみたいで特に叱る者もいない。まあ、魔王に対しては多少気を遣って欲しいものだ。
シトリーはその大きな体に似合わず、割と物静かで、聞き上手だ。彼といると居心地がいいのか、常に誰かと一緒にいる。その様子を見ていると、シトリーは静かに相手の話を聞いてあげていて、最後にはちゃんとアドバイスもしている。なんでも相談しやすい人っているわよね。こういう人が集団に1人いると、揉め事が起こりにくいんだと思う。
テスカとウルクは同族ということもあって、仲が良くて一緒にいることも多い。
2人共有翼人で華奢な体つきをしているので、メンバーの中では年少に見える。ショタ好みにはたまらない2人組だ。でも少なく見積もっても100歳以上なのよねえ。魔族って羨ましい。
テスカはウルクが料理をしていると、お手伝いを自ら進んでしているけど、よくつまみ食いをしては怒られている。意外と食いしん坊だ。
ウルクは好奇心旺盛で、作る料理のメニューにもその性格が反映されるようで、オリジナルの創作料理が多い。いろんな調味料を作ることにもチャレンジしているしね。
逆にテスカはおとなしくて鳥とか動物が好きみたい。
だけどウルクが云うには、テスカは誰よりも血の気が多いらしい。その意味が分かるのはもっと後になってからだ。
クシテフォンはカナンと気が合うみたいだけど、結構1人でいることも多い。
私はクッシーって呼んでて別に嫌がってる様子はなかったんだけど、他のメンバーが呼ぶと怒るみたい。照れくさいのかな。
1人でいる時、鼻歌を歌っているのを聞いたけど、すっごくいい声をしていて、オペラ歌手並みに歌が上手い。たぶん、元の世界にいたらオペラかミュージカルの主役で即デビューだ。いや、外見からだとビジュアル系バンドが似合うかも。
彼の歌を聞いていた私がもっと色んな歌や曲が聞きたいと云うと、<S級音楽家>というスキルを得た。熟練度が上がると歌だけでなく楽器も奏でられるようになるらしい。そのうちシトリーに楽器を作ってもらって、彼に弾き語りしてもらおう。
ユリウスは物腰の柔らかい美人さんだ。
進化してからはもうその美貌がまぶしすぎるほどになっている。
しかも誰にでも優しく、上品で気が利くタイプなので皆の人気者だ。料理スキルが進化すると、メニュー開発に研究熱心になった。まさに非の打ち所のない完璧な美形。お嫁さんにしたいくらいだ。
アスタリスは戦闘スキルが皆より劣ることにコンプレックスを持っているみたいで、皆から一歩引いている感じがする。
彼の能力はすごく役に立つので、全然気にすることはないと思うんだけど。
カナンやクシテフォンが彼を気にかけては、鍛錬によく誘っている。
彼は、アトルヘイムの軍に村が襲われた時、自分の<遠目>能力が役に立たなかったことにひどく責任を感じていたそうだ。真面目で責任感が人一倍強いんだな。もっと気にかけてあげようと思う。
彼らを統率するジュスターは、スレンダーな美丈夫で、そこに立っているだけで他のメンバーが見とれていることすらある。
リーダーである彼は、メンバーの性格に関してはだいたい把握しているみたいで、特になにか注意したりすることもなく、普通に接している。
上下関係にもそれほど執着していないみたいで、敬語を使わないメンバーにも別に叱ったりしない。そんなところも彼らには信頼されているみたい。
だけど彼自身の性格についてはよくわからない。
表情も変わらないから考えが読めないし、あまり自分のことを話さない。元々口数の多い方でもないから、なんか神秘的な感じがする。
時々、彼がじっと私を見つめているのが気にはなるのだけど、自意識過剰だと思われるのも嫌なので、カイザーにも相談していない。
一度、ジュスターとユリウスが一緒にいる所に遭遇して、ポケーッと見とれていたら、ミニドラゴンのカイザーに、
『おまえは浮気性だな』
とか云われた。
浮気って何よ!浮気って!
おまえは私の旦那か?イケメン好きで何が悪い!
前回の続き。魔族たちの紹介です。いろんなタイプを取り揃えて見ました。イケメン率が高いのはたぶん、トワの願望のせいです。




