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 ピピ、ピピ、ピピ…。


 アラームの音…?


「うん、36.2…平熱ね」


 誰かの声が聞こえた。

 私はゆっくり目を開けた。


「あ…目が覚めた?」


 目の前に、覗き込む顔があった。

 同僚の坂木梨香子だ。

 体温計を持ってる。

 そうか、今の音は体温計の音だったんだ。


「あ…れ?私…何して…」


 私はベッドに寝かされていることにようやく気付いた。


「良かったー!このまま目が覚めないかとヒヤヒヤしてたんだから」


 梨香子も、他の看護師も、ピンクのナース服を着ている。

 ってことは、ここ、うちの病院なのか…。


「まだ動かない方がいいわよ。外傷は捻挫と擦り傷程度だけど、脳震盪起こしてたみたいだから」

「脳震盪…?私、どうしたの?」

「も~ビックリしたわよ。工事現場から鉄骨が落ちて来たんだって?すんでのところで直撃を免れたらしいじゃない。良く避けれたよねえ」

「鉄骨…?」


 あ…そういえば、出勤する時に近道しようと思って、工事現場の近くを通ったんだっけ。

 でもそっからの記憶がない。


「工事現場の人が、うちの病院に運び込んでくれたのよ。近くで良かったわ。あんたがうちの看護師だって聞いてビックリしてたわよ」

「そうなんだ…」

「にしても、やっぱりショックだったのね。あんた丸1日寝てたのよ?」

「あ…ごめん…、そういや私、夜勤だったんだよね?誰か替わってくれたの?」

「私が替わりに出たわよ。ってことで夜勤明けだからもう帰るとこ。今度奢りなさいよね」

「うん、もちろん」

「…冗談よ。事故だもん、助かって良かったわよ」

「ごめんね、迷惑かけて…」


 看病する人が看病されるなんて情けないわ…。

 あれ?でも梨香子、たしか昨日は合コンだって云ってたような?わざわざキャンセルしてくれたのかな?イケメンがくるかもってメチャメチャやる気だしてたのに…。悪いことしちゃったな…。絶対奢ろう。


「気にしないでいいって。一応、いろいろ検査するみたいで、しばらく検査入院ってことになるみたいよ」

「え~、いいのかなあ?だっていっつも看護師長、休む時うるさいじゃん…」

「今回はいいみたいよ。通勤途中の事故だったから労災になるみたいだし、工事の会社の責任者がさっき謝りに来て、治療代と慰謝料払って、示談にしたいらしいわよ。うちの病院の弁護士がいろいろやってくれるみたいだから、安心して、ゆっくり休みなよ。一応、目が覚めたって先生呼んで来るね」

「うん…ありがとう」


 治療代が全額出るってことで私は高額な個室に入れられている。

 こんな時で何だけど、ここ、憧れの個室だったんだよね。

 ここが空いてるなんて奇跡だけど、なんか急にキャンセルが出たらしい。


 トイレと洗面所は別々についてるし、シャワー室も完備してる。備え付けのテレビも大きいし、ネット環境も行き届いてるイマドキの個室だ。ベッドもリクライニングで最高~!

 自分の勤務する病院で看護されるってなんだか変な感じだけど、病院長もやけに優しくしてくれるし、こんなチャンス、滅多にない。

 梨香子にアパートの鍵を渡して着替えと暇つぶしの漫画を持って来てもらった。

 さすがにゲーム機は持ってこれなくて残念だったけど。まあ、スマホのゲームで我慢しとこ。


 …そういえば、事故に遭う前やってたゲーム、投げっぱなしだったな…。

 もうちょっとでラスボス倒せたのに。

 あのクソ魔王め、回復しやがって…。


 魔王…。


 魔王って言葉が妙にひっかかる。

 …なんだか、長い夢を見ていた気がするけど、よく思い出せない。

 もしかして、ゲームの夢でも見てたのかな。

 何か、大事なことを忘れているような気もするんだけど。


 洗面所で手を洗う時に、ふと鏡に映った自分を見た。

 あれ…?

 私の顔って、こんなだったっけ…?

 色白で、鼻筋がスッと通ってて目もパッチリしてる。

 少し中性的な感じだけど、ものすごい美少女がそこに映っていた。


「これ、誰…?」


 思わず声に出てしまった。 

 少なくとも見慣れたいつもの平凡(モブ)顔じゃなかった。

 特別美人でもない、平均的な日本人顔の私は…?

 じっと見ているうちに、鏡の中の自分の顔が、見慣れたいつもの平凡な顔に戻った。


 なんだ…幻覚?

 今のは何だったの?妄想?

 やっぱ、頭打ったせいかな…?

 どこかで見たことのあるようなモデル系美少女だった。

 あー、あんな顔だったら人生変わってたんだろうな。

 それにひきかえ、私はクラスの中のその他大勢的立ち位置。間違ってもヒロインポジションじゃない。

 もう何度鏡を見ても、あの美少女はいない。

 そこにいるのはいつもの平均的な顔の日本人の女だった。

 私は盛大に溜息をついて肩を落とした。

 これでも合コンに行けば、ナースフィルターがかかってそこそこモテるんだぞ。結果は伴ってないけど…。


 捻挫もだいぶ良くなってきて、院内を歩けるようになった。

 いつ退院してもいいと思うけど、なんか保険とか諸々大人の事情やらで私の入院期間はきっかり1週間になった。


「は~暇…あと4日もあるじゃん…」


 院内2階にある喫茶スペースでダラダラしていると、梨香子が慌ててやってきた。


「いたいた、ちょっとトワ!」

「んー?」

「私にも内緒ってのはひどくない?」

「何のこと?」

「やだ、とぼけちゃって。あんな超絶イケメン、どこで見つけたのよ~!今1階の受付に来てるわよ。もう皆大騒ぎしてるんだから」

「来てるって…誰が?」

「あんたの婚約者!」

「へ?」


 婚約者?

 梨香子、何を云ってるの?

 彼氏すらいたことないのに、婚約者?

 何の冗談ですか…?

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