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運命操作

「おまえは勇者が聖属性のスキルを駆使して我を倒したと思っているようだが、それは違う。<運命操作>スキルの作用によって我は消失したのだ。正確には消えてやった、というべきか」

「そんなバカな…!」


 レナルドは混乱していた。

<運命操作>スキルは攻撃スキルではない。いくら勇者といえど、一体どうやってこのスキルで魔王を倒せたのだろうか?


「あり得ない、あり得ない」


 レナルドは考えを巡らせた。 

 サレオスもアスタリスも耳慣れない<運命操作>という言葉を疑問に思った。


「その<運命操作>って何なんですか?」


 アスタリスが魔王に尋ねた。


「勇者の持っていたレアスキルだ。100年前の勇者は、強い運命を持つ者だった。そのスキルは強い運命を持つ者が使うと、自分に有利なように運命を引き寄せる効果があったという」

「えっ?運命を変えたりできるんですか…!?」

「勇者はそう言っていた」

「勇者って、すごいんですね…!」


 アスタリスは素直に感心した。


「エウリノームよ、おまえは<運命操作>に選ばれなかったようだな」

「そんなことはありませんよ。現にこうして転生できていますから」

「…おまえは人間になりたかったのか?」


 魔王の質問に、レナルドは答えなかった。


「そんな筈はないな?人間になったのでは、生前持っていた属性やスキル、魔法も受け継がれようがないからな」

「…ええ。ですが、私には宝玉があります。自分のスキルも死ぬ前に宝玉化しておきましたので、体が変わっても、何の不自由もありません」

「なるほど、おまえは寿命で死んだのか。元の体は消失したのだな」

「…なっ…」

「それに、その宝玉は劣化していくのだろう?そう都合の良いことばかりではないと思うがな」


 レナルドは呻いた。魔王はレナルドの言葉尻を捕らえ、まるで探偵か何かのように彼の事情を紐解いていく。

 魔王の指摘に、レナルドは口をつぐんでしまった。


「エウリノーム、おまえが<運命操作>を使ってまでやりたいことは、我のスキルを含めてまだ見ぬスキルを得ることだ。そのためにおまえはいかなる方法でも生き続けたいと考えている。そうだろう?だがおまえは人間に転生したことでどちらもその機会を失った。それでもおまえはあがき続けるのだな」

「私に説教するつもりですか」

「いいや、忠告だ。おまえがその姿に転生したことには意味がある。おまえは誰かの運命に引きずられたのだ。だからその運命を受け入れるべきなのだ」

「…人間の都合など知ったことか!私は必ず魔族に戻って見せる!」


 レナルドは思わず本音をぶちまけてしまった。


「魔王様、この者が魔王様のお命を狙うのならば捨て置けません。いずれにしても、こやつはただの人間。ならば宝玉を取り上げればすべての問題が解決します」


 サレオスは腰に帯びた剣を抜き放った。


「フッ、私はあなたの想像もつかぬスキルをたくさん所持しているのですよ」


 そう云ったレナルドの姿が瞬時に消えたかと思うと、サレオスの背後に現れ、その喉元に剣を突き付けた。


「あなたのスキルも奪ってあげましょう」

「くっ…、ぬかった」


 レナルドはサレオスの首を斬ろうとしたが、腕が動かなかった。視線を移して初めて、魔王に剣を持つ腕を掴まれていることに気付いた。


「何っ!?」

「空間魔法の使い手である我の前で<瞬間跳躍(テレポート)>など子供騙しのスキルだ」

「魔王っ…!」

「死ね」


 魔王はレナルドの腕を掴んだ指先から炎を放ち、魔王が手を離すと、彼の体は瞬く間に業火に包まれた。あまりの炎の勢いに、サレオスは思わず後ずさってしまった。


「ぐぁああああ!」


 レナルドの悲鳴が響き渡った時、サレオスの足元に小刀のような暗器が突き刺さった。

 彼は素早くその場から飛び退ると、それまでサレオスの立っていた場所に暗器が立て続けに突き刺さった。


「刺客か」

「ええっ?僕には見えませんでしたよ!」


 アスタリスは慌てて周囲を見回したが、人影は見えなかった。


「どこに…?」

「そこにいるぞ」


 魔王はそう云いながら、サレオスの背後に向かって手をかざした。

 そこには誰もいなかったはずだが、「ぐわっ!」と悲鳴が上がった。

 魔王の重力魔法で、動きを止められた男が1人、スゥーッと姿を現した。


「気配ごと姿を透明化できる隠密スキルを使っていたのだ。おまえの目でも見えぬわけだな」

「な、なるほど…」


 アスタリスが感心していると、今度は通路の奥から狼のような魔物が魔王に向かって襲いかかった。

 アスタリスは素早く動いてそれを体術で退けた。


「魔物!?どこから…」

「くそ!死ね!」


 隠密スキルが最大の武器だったその男は、魔王が続けざまに襲ってくる魔物を相手にしている隙に重力魔法から抜け出し、一番弱そうに見えたアスタリスに襲い掛かった。

 アスタリスは軽く躱してその男の背後を取り、後ろから腕で男の首を締め上げた。

 男は泡を吹いて白目を向き、気絶した。


「む。エウリノームめ…」


 魔王が視線を外した一瞬の隙をついたのか、いつの間にかレナルドの姿は消えていた。

 どうやらスキルを使って逃げたようだ。

 代わりに暗器を投げた刺客が通路を塞ぐように立っていた。

 魔王に後を追わせぬためか、刺客の背後からは魔物の大群が押し寄せてくる。

 アスタリスもファイティングポーズを取った。


「レナルド様の邪魔はさせん」


 刺客はそう云ってアスタリスに襲い掛かってきた。

 アスタリスは素手だったが、暗器を持つ相手にも一歩も引かなかった。

 彼には物理無効があるので、武器などあっても無くても同じだったのだ。

 刺客は素早い動きで暗器を投げつけてくるが、アスタリスはその動きにも対応し、逃げようとした相手を捕え、体落としで相手を背中から床に叩きつけた。

 相手は普通の人間だったらしく、叩きつけた時に骨の折れる音がした。

 刺客は動けなくなると、口の中に毒が仕込んであったのか、いつの間にか死んでいた。


 一方、魔王とサレオスには、魔物の大群が躍りかかってきた。

 サレオスは魔王の前に出て、剣で斬って捨てたが、通路の奥から奥から魔物が湧いて出て来た。

 魔物といっても人狼や大きな蜘蛛のような下級の魔物ばかりだった。並みの人間にとっては強敵だっただろうが、サレオスにとっては大した敵でもなかった。

 だが、弱くてもその数は多く、斬っても斬ってもきりがないほどだった。


「どこかに召喚者がいるな。サレオス、見えるか」


 背後で魔王が云うと、サレオスは通路の奥を睨んだ。

 姿は見えないが、彼には魔力の流れが見える。召喚者らしき敵は隠密スキルを使っているようだったが、サレオスにはその召喚者の使う魔力の流れによって居場所がはっきりと確認できた。

 その間、魔王は魔物たちを重力魔法でまとめて押し返し、炎で焼いた。

 サレオスは召喚者がいるらしい空間に向かって剣を投げつけると、悲鳴が上がって、ローブ姿の人物が姿を現した。その人物は、白いローブを真っ赤に染めて倒れた。サレオスの投げた剣は召喚者の身体を貫いていたのだった。

 残りの魔物もサレオスとアスタリスがあっという間に倒した。


「エウリノームは逃げたか」

「あの状態でどうやって…」


 アスタリスは不思議に思いながら周囲を見渡してみたが、レナルドの姿を見つけることはできなかった。

 すると魔王はうんざりするように云った。


「奴は人間だぞ。回復方法などいくらでもある」

「…しかし、あの炎を受けて生きているとは思えませんが」

「炎耐性スキルくらいは持っていたのだろう」

「…しぶといですね」

「まあ、あれは脅しだ。なんでも思い通りに行くと思っている奴へのな」


 サレオスは魔王の前に膝を折った。


「奴にスキルを奪われるところでした。魔王様、助けていただき、感謝いたします」

「人間と言えど、奴を甘く見るな」

「肝に命じます」


 サレオスは頭を下げた。


「地上はどうなっている?」


 魔王の言葉を受け、アスタリスは視線を天井に移した。


「魔獣が暴れています…人が多すぎて、ここからでは透視しづらいですが、大変なことになっていることだけは確かです」

「魔獣は人間を食らうのが本能だからな」

「エウリノームの跡を追いますか?おそらくはポータル・マシンで逃げたものと思われますが」


 サレオスの提案に、魔王は首を横に振った。


「奴が我を狙うのならば、いずれまた会うことになろう。それに、奴が本当にテュポーンを召喚できるのかどうかにも興味がある」

「魔王様…」

「フッ、本当に<運命操作>が作用するのか、見届けてやろうではないか」


 そう云って笑う魔王を見て、サレオスは複雑な表情をした。

 自分の命が狙われているにも拘らず、まるで他人事のように云う魔王が、彼には理解しがたかった。

 その隣でアスタリスは地上を見ていた。


「魔王様、魔獣はゴラクホールの方に移動しています。あそこには、トワ様の仲間がいますよ」

「そうだな。トワが戻ってくるやもしれん。戻るぞ」


 魔王は、その場に不自然に広がる巨大な魔法陣にチラリと視線をやった後、空間魔法を展開した。

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