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対峙する者たち

 トワたちが大司教公国でオルトロスを相手にしていた頃、魔王はゴラクドールの地下空洞の前にいた。

 アスタリスを道案内役に、護衛役としてサレオスが同行していた。


 アスタリスの透視の結果、高級ホテルの地下バックヤードの立ち入り禁止区域の中に地下への扉があることがわかった。

 そこには警備の魔族が数人立っていたが、サレオスとアスタリスが秒速で片づけた。


 魔王たちは魔族にとっては程度の低い、魔法によるセキュリティを難なく突破して行った。

 地下空洞に通じる通路の一角に、ユリウスの云っていたポータル・マシンがあり、アスタリスはそこから誰かが出て来るのを見た。

 アスタリスの<視覚共有>でそれを見ていた魔王は、そこから出て来た人物に違和感を持った。

 その人物が鎧姿の騎士だったからだ。


「魔王様、あのマシンはラエイラに通じていると云っていましたよね?ということはあれはグリンブルの兵士なのでしょうか?」


 アスタリスがそう口にすると、魔王は「さてな」と疑問を投げ返した。


 魔王はポータル・マシンの先の空間に張られていた魔法障壁をあっさりと破った。

 これにはアスタリスも「さすが魔王様です…!」と拍手を送った。

 このところ、魔王と行動を共にすることが多いアスタリスは、すっかり魔王の力と知識と頭の良さに魅了されてしまっていた。

 アスタリスが更に<遠見>スキルで透視すると、空洞だと思われていた大きな空間の床には巨大な魔法陣が描かれていることがわかった。

 その中央には皮袋に入った荷物が一つ置かれている。

 そこは無人で、今マシンから出て来た人物が1人入って行っただけだ。


 魔王一行はその人物の跡を追うように、通路の奥へ進んでいく。すると大きな、何もない空間に出た。

 床にはその空間いっぱいに巨大な魔法陣が描かれており、先程の騎士が、その魔法陣の中央に立っていた。

 足元には皮袋に入った大きな荷物が置かれていた。


 魔王たちは、その魔法陣の中に足を踏み入れ、騎士の方へ歩いて行った。


「そこで何をしている」


 声を掛けられた騎士は、魔王を見て驚いた。


「魔王…!」

「ほう?人間が我を知っているとは驚きだな。おまえは何者だ」

「…私は大司教公国の聖騎士レナルド・ベルマーと申します」

「大司教公国の聖騎士が、このようなところへ何をしに来た?」


 レナルドは魔王の姿をじっと見た。


「本当に、復活したんですね…」


 魔王に同行していたサレオスは、その騎士を凝視していた。

 彼は騎士を何度か見返し、何かを思い出そうとしていた。


「魔王様、こやつの魔力に見覚えがあります」

「ほう?」


 レナルドは不思議そうな顔でサレオスを見た。

 それで、魔王は彼に説明してやることにした。


「このサレオスは<魔力感知>を持っているのだ」

「<魔力感知>…?」

「私は人の持つ固有の魔力を見分けられる。魔族の魔力は、生まれながらに魂に紐づけられているものだ。姿には見覚えが無くてもその魔力が、貴様が誰かを教えてくれる」


 サレオスの<魔力感知>は、カラヴィアの持つ、その人物が本来持っているマギの形を見る<魔力記憶>とは違い、魔力の種類や能力を感知して人物を区別するものである。

 云い換えるなら、カラヴィアは人物の外面を見ており、サレオスは人物の内面を見ているのだ。


「え?サレオス様、この人誰なんですか?」


 アスタリスが尋ねた。

 すると魔王が口を開いた。


「魔大公エウリノーム。そうだな?サレオス」

「はい。間違いありません。以前、魔王城でその姿を見た時のことをよく覚えております」


 サレオスが同意した。

 アスタリスは、目の前の人間がエウリノームだと聞いて、驚きを隠せなかった。


「ええッ!?で、でも、この人は確かに人間のマギを持っていますが…」

「だが中身は魔族だ。人間になっても口調は変わらんようだな、エウリノーム」

「そんなこと、あるんですか…?」

「ククッ、さすがは魔王の側近だ。面白いスキルを持っていますねえ。とぼけようと思ったのに、想定外のことが起こるものです」


 レナルドは笑った。


「貴様、なぜ人間の姿になっている?」


 サレオスが問いかけた。


「この世界にはおまえたちの知らない力があるのだよ」

「…それは<運命操作>のことか」


 魔王の意外な返答に、レナルドはピクンと反応し、眉をひそめた。


「…なぜ、それを知っている」

「忘れたのか?我は勇者と一騎打ちをしたのだぞ?」


 魔王は口の端で笑った。

 レナルドは舌打ちしたものの、気を取り直して宝玉を取り出した。


「あなたがなぜここにいるのかはわからないが、私の邪魔はしないでいただきたい」


 レナルドの足元に置いてある皮袋には魔法陣が描かれている。

 彼はそれに向けて宝玉を掲げた。


「…魔獣でも召喚するつもりか」

「よくわかりましたね。この宝玉には<召喚使役>のスキルが封じられています」

「<召喚使役>だと?下級の魔物を召喚して使役するスキルではないか!そんなもので魔獣が呼べるものか!」


 サレオスが指摘すると、レナルドはククッと笑った。


「召喚の術式は既に終わっています。あとは顕現させるだけの簡単な作業なので、これで充分なのですよ」

「わざわざ説明してくれるなんて、親切な人ですね…」


 アスタリスはボソッと呟いた。

 それが面白かったのか、魔王は少しニヤニヤしながら云った。


「コイツはな、自分の計画やらスキルやらを人に自慢したくてたまらない性格なのだ」

「…私はそんなにおしゃべりではありませんよ」


 レナルドは心外だという顔をした。


「では聞いてやろう。魔獣を召喚して何をするつもりだ」

「もちろん、人間を皆殺しにするんですよ」

「予想通りの答えだな。つまらん」


 レナルドはムッとして、叫んだ。


「さあ、出番だ!魔獣キマイラよ!」


 レナルドの足元の皮袋から青い炎が燃え上がり、皮袋を燃やし尽くした。その直後、巨大な魔法陣から光が発せられ、そこからうっすらと魔獣の姿が吸い上げられるように現れたかと思うと、魔獣はそのまま天井をすり抜けて上へと消えていった。


「あれがキマイラ…!」


 アスタリスは天井を見上げながら目を見張り、そして魔王に告げた。


「地上に、魔獣が出現しました…!ちょうどこの上は大きな広場になっています。そこには大勢の人間たちが集まっていて…ああ、皆なぎ倒されて、踏み潰されている!」

「おや、君は透視ができるのか」


 レナルドが感心して云うと魔王は笑いながらそれに応えた。


「他人のスキルを奪ってばかりのどこかの寂しい奴と違って、我の元には優秀なスキルを持つ者が多いのでな」


 その言い草にレナルドはまた舌打ちした。


「こんなところに魔獣を出して人間を大量虐殺して、何か得るものでもあるんですか?」


 アスタリスはレナルドを問い詰めた。

 するとレナルドは両腕を広げて云った。


「ラエイラ、トルマでも魔獣を出現させました。各地でも同じように人間共が食い殺されているんですよ」


 そのしぐさは少し芝居がかっているように見えた。


「なぜそんなことをする?」

「もちろん、多くの人間を贄に捧げるためですよ」


 サレオスの問いにレナルドは答えた。


「贄、か。本当におまえはおしゃべりだな」


 魔王はレナルドを見て苦笑した。


「おかげでおまえの計画がわかってしまったではないか」

「え?どういうことなんですか?魔王様」


 アスタリスは魔王に尋ねた。


「コイツは神殺しの魔獣を召喚しようとしているのだ」

「神殺し!?」


 アスタリスにはその意味が分からなかった。

 それを見かねて横にいたサレオスが説明をした。


「太古の昔、我ら魔族の創造神イシュタムを死に至らしめた魔獣テュポーンのことだ」

「ええっ!?」

「かつてイシュタムは100万の人間の血と肉を捧げ、魔界より最強の魔獣テュポーンをこの世界に召喚したと言われているのだ。結局イシュタム自身が暴走した魔獣に食われてしまったのだがな」

「それで、今度はそいつに魔王様を食わせようっていうんですか…?」

「そういうことだろうな」


 魔王はまるで他人事みたいに軽く云った。


「まあ、いつかあなたには気付かれると思っていましたよ」


 レナルドはいくつかの宝玉をお手玉のように手の上で転がしながら云った。


「大方<運命操作>で魔獣を操って我を殺し、スキルを奪おうとでも思っているのだろう?おまえはずっと我の不滅の生を羨ましがっていたからな」

「…」


 魔王は余裕とも取れる表情で云うと、レナルドは沈黙を持って、それが図星であることを証明した。


「だが、おまえは勘違いをしている」

「勘違い…?」

「<運命操作>とは、おまえが思っているような、簡単に運命を引き寄せられるようなものではないのだ」

「嘘です。だいたい魔王のあなたが、なぜそのスキルのことを知っているんです?」

「勇者がそのスキルを使って我を倒したからだ」

「…な」


 レナルドは驚き過ぎて言葉が出なかった。

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