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勇者候補との再会

 イシュタムはドラゴンを見上げた。

 その大きさはオルトロスに匹敵する。


「ほう、カイザードラゴンか。力を貸してくれるのか?」

『ああ、私が替わろう。お前は攻撃に加われ』


 カイザードラゴンは、そのままイシュタムの頭上を越えて、オルトロスの双頭の1つを足で踏んで押さえた。ドラゴンはオルトロスのもう片方の顔と睨み合った。

 その様子はさながら大怪獣決戦、といった様相を呈していた。

 カイザードラゴンがオルトロスの首にガブリと噛みつき、そのまま凄まじい炎を吐いた。

 ドラゴンに咥えられたままの首は業火の直撃を食らって、瞬時に灰になり、地上に降り注いだ。

 オルトロスは、もう片方の頭をドラゴンに踏みつけられたまま、体中の蛇をカイザードラゴンに向けて放ったが、カイザードラゴンの身体には見えない防御壁に覆われていて、すべて跳ね飛ばされて地上に降り注いだ。

 地上から2匹の獣の戦いを見守っていた騎士たちは、空から降ってくる蛇の始末に追われることになった。

 ウルクやジュスターたちもその蛇を始末することに力を割かねばならなかった。

 だがオルトロスの蛇は無限に再生を繰り返し、放たれる。


「団長、この蛇、切りがありませんね」

「ふむ。どこかに再生を止めるものがあるはずだが…」


 彼らの背後から攻撃をしている黒色重騎兵隊らも、この蛇に苦戦していた。

 アスタリスがいれば、その根源を透視できるのだが、と彼は思ったが、いない者をあてにしても仕方がないと思い直した。

 その時、イドラが叫んだ。


「尻尾の蛇を狙え」


 オルトロスの尻尾は巨大な一匹の蛇になっていた。

 よく見ると、その蛇は体から生えている蛇と全く同じ姿形をしていた。


「あの蛇はオルトロスの身体に寄生しているんだ。体の蛇は奴の分身だ」


 イドラの助言に、ウルクは「もっと早く言ってよ」とぼやいた。

 尻尾の先からその鎌首をもたげている巨大な蛇は、鋭い毒蛇の牙で「シャーッ!」と、後方の黒色重騎兵隊を威嚇している。

 蛇が彼らに気を取られている隙に、ジュスターは長刀で、その蛇に斬りかかった。だが、多くの蛇がジュスターに絡みついてきて、攻撃を阻止してくる。

 ウルクとイドラが慌ててジュスターの身体に巻き付いた蛇を始末した。


「あの蛇の動きを止められればいいのだが…」


 ジュスターが口走ると、イシュタムが「わかった」といい、蛇に向かって手を上げた。

 イシュタムは重力魔法を発生させ、オルトロスの体を重力で抑えつけた。

 その圧力はオルトロスの足を折り、すべての蛇の頭を地面に向けさせ動きを止めさせた。

 その機を逃さず、ジュスターは長刀で蛇をオルトロスの尻の付け根から切断した。

 巨大な蛇が黒色重騎兵隊の前にドスン、と落ちてきた。蛇はウネウネとくねって逃げようとしたが、リュシーが<水刃刀>という鋭い水のカッターのような魔法で切り刻んだ。

 それでもまだうごめく蛇に、騎兵隊と、同行していた魔法士たちが火の魔法で対抗した。


 ようやくオルトロスがおとなしくなったので、カイザードラゴンは踏んでいた片方の頭を離した。

 残された頭をもたげたところに、将や魔族たちが総攻撃をかけた。

 やがて巨大な頭はその首から斬り落とされ地上に転がり落ちた。

 その首をウルクや他の魔法士たちが跡形もなく燃やし尽くした。


 頭と尻尾を失ってもオルトロスの身体はまだ動いており、その体から生えている蛇はまだ生きていた。

 そのオルトロスを動かないように押さえつけていたカイザードラゴンに、後方からきた黒色重騎兵隊の別動隊が攻撃を仕掛けてきた。

 もちろん身体には傷ひとつつかないのだったが、カイザードラゴンは自分に攻撃を加えてきた黒色重騎兵隊の別動隊に怒って睨みつけた。情報の共有がされていなかったため、どちらが敵か味方かの区別は彼らにはつかなかったのだ。


「よせ!そのドラゴンは味方だ!」


 将が叫ぶと、攻撃していた現場は混乱した。

 さらにリュシーがフォローしたので、聖騎士たちは黒色重騎兵隊に「攻撃中止」と伝令を出した。

 見かねたシュタイフが、全軍に「ドラゴンには構わず、オルトロスだけに攻撃を集中しろ」と命じた。


 剣で蛇を薙いでいた将は、もう蛇が再生しないことに気付いて、周囲の兵たちに声を掛けた。


「よし、もう蛇は再生しない、勝てるぞ!蛇を残らず殺せ!」


 それを合図に、黒色重騎兵隊と聖騎士団はオルトロスの身体の蛇に総攻撃をかけた。

 槍や弓で攻撃を受けた蛇は、体からボトボトと落とされていった。騎兵隊や聖騎士たちの戦いは、それら1つ1つにトドメを刺したり、焼いていくという実に手間のかかる作業に突入していった。



「カイザードラゴン、戻って!」


 トワが叫ぶと、オルトロスの上にのしかかっていた巨大なドラゴンの姿は掻き消えた。

 ドラゴンが黒い影となってトワのネックレスに吸い込まれたところを優星は見ていた。

 その直後、トワが気を失いかけて倒れ込んできたので、慌てて優星は彼女を支えた。

 彼女の手の中の扇子も一緒に消えていた。


「大丈夫かい?ドラゴン召喚って魔力を使うんだね」

「あ…、うん。ごめん、もう大丈夫よ。ありがとう」


 トワは笑顔を見せて、優星の腕の支えから離れた。


 騎兵隊員たちは、急に大きなドラゴンが消えたことに混乱して、どこへ行ったかと辺りを捜索したが、どこにも見当たらなかった。



「あとは彼らに任せても大丈夫でしょう」


 そう云いながら騎兵隊や聖騎士団を振り返り、ジュスターはウルクを伴ってトワの元へ戻ってきた。

 彼らは口々にトワに礼を云っている。

 それはトワが彼らの魔力を回復させていたからだったのだが、優星は彼らがトワに礼を云っている理由を、ドラゴンを召喚したからだと思っていた。

 イシュタムとイドラもトワの傍に戻ってきた。

 彼女の傍にいた優星は、何の打ち合わせもしていないのに、なぜか戦いを終えた皆がトワの元へ戻ってくることに気付いた。

 優星自身も感じたことだったが、なぜか彼女の傍にいると不思議な安堵感が生まれるのだ。

 戦いを終えた者は、無意識にその安堵感を求めて彼女の元へ戻るのかもしれないと思った。


 黒色重騎兵隊や聖騎士たちと共にオルトロスの蛇落としに協力していた将とゾーイも、後を隊の兵士たちに任せ、アマンダとエリアナに合流した。

 中央広場では多くの市民たちが、彼らと魔族たちが魔獣を倒すのに協力してくれたところを見守っていた。だが、助けられたものの、このまま市内に魔族がいることはいけないことなのだと市民たちは感じていた。

 オルトロスという脅威が払われた今、その始末が終わればおそらく彼らの矛先はこちらに向かってくることは魔族たちにも容易に想像できた。リュシーに化けたカラヴィアが、聖騎士や市民たちに彼ら魔族は自分の支配下にあるから安心しろと、不安を払拭するために説明をしていた。


 勇者候補たちも、騒ぎ出す市民を横目に、なんとかしないといけないと考えながら魔族と一緒にいるトワの所へやってきた。


「おまえたち、このままここにいるのはマズイぞ。市民が騒ぎ出してる」


 魔獣を共に倒してくれた魔族たちに将が忠告した。

 イシュタムがまた移動させてやろうかと云ったが、優星はどうしても将と話したいことがあるので、ここに残りたいと云った。

 すると、ゾーイがここからなら自宅が近いので、一旦家に避難してはどうか、と提案した。

 ゾーイの意見を受け入れて、一行はとりあえず彼の自宅へと向かうことにした。

 広場を後にした彼らの背後では、聖騎士たちと共にリュシーが残って市民らの整理にあたった。


 市内を移動中、トワはエリアナに声をかけたが、返事がないのを不思議に思った。

 近くに居た将が、エリアナの状況について説明をした。

 すると、それを聞いていたイドラが、エリアナを診てくれた。


「これは精神スキルで操られているな。しかも相当な上級スキルだ」

「治せるのか?」

「もちろん」


 イドラは将に対し、余裕の表情で答えた。

 イドラがスキル解除の呪文を唱えると、ようやくエリアナの瞳に光が戻ってきた。


「あ…れ。私、どうして…」

「エリアナ!」


 彼女の目の前にはトワがいた。


「え…?本当にトワ…なの?」

「エリアナ、久しぶりね」


 半信半疑で恐る恐る近づいたエリアナだったが、トワが笑ってくれたので、喜んで彼女にハグした。

 その様子を見て、将もアマンダもホッと一息ついた。

 将とアマンダはイドラに礼を云ったが、イドラにとって勇者候補たちは監視対象だったので、なんだかむず痒い感じがした。


「今までどうしてたの?ずっと死んだものだと思ってたわ。やっぱりあの施設で魔族に攫われたの?」


 元に戻ったエリアナはトワに矢継ぎ早に質問をしたが、トワが答える間もなくいつもの感じで自分の仮説を云いまくっていた。

 そして隣に立つジュスターをチラと見た。


「ねえ、あんたジュスター様と知り合いなの…?」

「あ、うん…」

「なんで?どうして?どういう知り合い?まさか恋人とかいわないわよね?」

「ち、違うわよ」

「わかった、あんたも彼についてきたんでしょ?追っかけ的な?」


 傍から見ても、明らかにトワは困っていた。


「おい、エリアナいい加減に…」

「もういい加減にしなよ。君のそのテキトーな推理には皆迷惑してるんだ」


 将がエリアナを注意しようとした時、同じように優星だと名乗る魔族も彼女に忠告した。


「…ちょっと、その言い方…」


 エリアナには、今の云い方が本物の優星のように思えた。

 将も、同じような思いを抱いた。


「あんた、優星みたいなしゃべり方するよね…?もしかしてホントに…?」

「だから、そう言ってるじゃないか!」

「だって、あんた完全に魔族じゃないの」

「だから、これには事情があるんだって」


 力説する必死な魔族を見て、将もエリアナも何かを感じ取ったようだった。


「じゃあ、何か俺たちしか知らないことを言ってみろよ」


 将が優星を名乗る魔族に提案した。

 彼はしばらく考えて、話し出した。


「うーん、そうだなあ。じゃあ、僕たちがグリフォンを退治しにいったアレサって集落のこと、覚えてる?あそこでさ、ゾーイが鎧の下に着るアンダージャージを初めて見せてくれた時のことは?全身タイツみたいだって超ウケたよね?…クッ…あの時のゾーイは今思い出しても笑えるんだけど」


 将とゾーイは驚いて顔を見合わせた。


「ホントに優星なのか…!」

「今の話は、我々3人しか知らないことです」

「本当に僕は優星なんだ。信じてくれよ!」


 エリアナとアマンダも、アレサでのことを思い出していた。

 3人が楽しそうに笑っていたあの夜のことを。

 皆で不平をぼやきながらも、まだ平和だったあの頃。もう随分昔のことのような気がした。


 優星はようやく自分の言葉が彼らに通じたと思った。

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