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世界の異分子

 …ビックリした。


 誰かに怒られて、私は意識を戻した。


 今のは何だったんだろう?

 誰かの記憶にシンクロしてたような…?

 なんだか随分、悲しい記憶だったわ。

 仲間だと信じてた人に裏切られて、傷ついていたみたい。


 でも過去の記憶だとばかり思ってたのに、なぜ怒られたんだろ?

 なんか覗きがバレたって感じだった。

 怒られたってことは、今生きてる誰かの記憶ってことなのかなあ…?

 そりゃ勝手に見られたら嫌だよね。


 あの内容からすると、戦争があったのはもう100年以上も前だから、あの記憶の持ち主は、生きてるとしてもかなりのお年寄りだわ。

 英雄だとか魔王を倒したとか云ってたけど、もしかしたら勇者の記憶?でも勇者って生きてるんだっけ?たしか行方不明とか…?

 うーん、それとももっと別の人の記憶だったんだろうか…。


 それにしても、さっきからいるこの空間はどこだろ?

 やっぱり亜空間なのかな。

 辺りが歪んで見えるし、上も下もよくわからない不安定な感じ。

 それに…。

 私を抱えて、このおかしな空間を飛ぶように移動している魔族。この人、誰なんだろう?立派な角だなあ。

 チラ、と見上げてみる。

 すると、目が合った。


「誰かの思念に引っ張られたな。あまり入り込むと戻れなくなるぞ」


 そう云う彼は、逆の手でウルクという魔族を抱えている。

 でも、なぜかウルクは固まったままの状態に見える。

 まるでそこだけ一時停止状態になったみたいに。


「おまえは何だ?」


 ふいに角の魔族が問いかけてきた。


「何って言われても…」

「…普通の者はこの空間ではこのように動けなくなるものだ」


 彼はウルクの方を向いた。

 ああ、なるほど。あれが普通なんだ。


「おまえはなぜ、この空間で動ける?」

「そんなのわかんないわよ。でもきっと、魔王のせいかもね」

「魔王だと?」

「以前、魔王が空間魔法で作った隠れ家に連れてってくれたことがあったの。それで免疫ができたんじゃない?」

「ほう…?」


 その魔族は私をじっと見つめた。

 なんだか頭の中がうずうずする気がして、視線を感じる。

 さっき怒られた理由がわかった。


「あ…私の記憶を見てるわね?」

「…記憶というより思念の痕跡を追っている。お前の思念は意図的に隠されているな」

「え?どういうこと?」

「おまえ自身がそう望んでいる」

「よく…わからないんだけど…?」

「それはおまえ自身の問題だ。我は関知しない」


 彼はそっけなく云った。


「あなた、誰なの?」

「イシュタム」

「イシュタム…?どっかで聞いたような」

「人は神と呼ぶな」

「えっ?神?神様なの?」

「そのようだ」

「ってゆーか自分で神だって名乗る人ってだいたい詐欺だと思うんだけど」


 イシュタムはピクッと眉をひきつらせた。


「おまえが訊くから名乗っただけだ」

「あふっ、マジだったの?」

「我が神だと何かおかしいか?」

「いや、あの…神様ってあんまりこんな風に話したりするイメージないからさ…」

「おかしなヤツだな、おまえは」

「だって…神様ってアレでしょ?全知全能で人の運命とかも操ったりなんかする…」

「間違いではないが正解でもない」

「それそれ、そーいう言い方!神様っぽーい!」


 私の云い方が気に障ったのか、イシュタムは抱えていた私を空間に降ろして、私の前に立った。


「あああ、ごめんなさい、怒った?だからってこんなとこに置いてかないでよ?」

「神だとて全能ではない」

「え?」

「おまえは魔王と親しいのだな」

「あー、私の記憶を盗み見たわけね…」


 そーすっとあの恥ずかしいハグの一件も見られてるわけだ…。

 なんともいたたまれない気持ちになってしまった。

 人の記憶見る時はちゃんと許可を得てからにするって決まりを作った方がいいわ。


「魔王は兄弟のようなものだ」

「え?嘘、兄弟?…ぜんっぜん似てないけど?」

「あれは、自分の肉体を再生維持できる能力を与えられて創られた者だ。だが我の身体は依り代だからな」

「神様の兄弟ってーことは…つまり魔王も神様ってことになるの?」

「そういうことだ」

「なんか思ってたのと違う…」


 魔王が神様?

 つまり、私は神様とハグしたわけ?

 うーむ、神様とハグした!って喜ぶべきなんだろうか、それともセクハラ神だと怒るべきなんだろうか…。


「おまえは魔王に好意を持っているな」

「えっ?」

「隠さずとも良い」

「いやいやいや、なんで急にそんなこと確認すんのよ?」

「なかなか面白い見世物だ」

「覗き魔!最ッ低!」


 この失礼な神様はどうやら私の記憶をまた覗き見したらしい。


「おまえの記憶から、だいたいのことは理解した。おまえは魔の者を癒すことができる聖魔の力を持っているのだな」

「ほんと、人の記憶を無断で見ちゃうの、良くないと思うわ…」

「魔族に回復魔法がないのは、人間という種族との均衡を守るためだ。それは見えざる意思により定められたこの世界の(ことわり)だ」

「見えざる意思って…何?」

「この世界を創りし大いなる意思だ」


 神様を作った神様がいるってことかな…?

 それってなんか考え出すと堂々巡りになるような…。いやもう考えるのやめとこう。


「おまえはその理から外れている」

「そんなこと言われても…」

「おまえは異分子だ。本来ならこの世界にいるべき者ではない」

「まあ、異世界から来たし?」

「たとえ異世界から召喚されし者でも、この世界の理には準ずるはずなのだ」

「そうなの?」

「だがおまえは異端だ。この世界には決して存在してはならぬ者だ」


 その言葉は、私の心に突き刺さった。

 まるでここに私の居場所はないって云われているみたいに。


「そ…そんな意地悪言わなくったっていいじゃない…!好きでこうなったわけじゃないもん」


 私自身、この世界の人間じゃない。ましてや魔族でもない。

 マルティスたちが普通に接してくれるから、そんなことすっかり忘れていたけど。


「だったらどうしろっていうのよ?出て行けとでも?」

「元の世界へ戻してやろう」

「…えっ?そ、そんなことできるの?」


 想像だにしなかった提案に驚いた。

 大司教公国では、元の世界へ戻る方法はないと断言されたので、完全に諦めていたことだ。


「おまえは肉体を持っていないからな。意識だけならその思念をたどって送り届けることは可能だ」

「さっすが神様…!」

「だが今はお前の力を借りたいという者がいる。問題が片付くまでは力を貸してもらうぞ」

「いいけど…。出て行けって言ったり力を貸せって言ったりさ、ちょっと都合が良すぎない?」

「ふむ。一理ある」

「でしょ?あとでなんかご褒美的なもの用意しといてよね」


 イシュタムは「考えておこう」と云い、再び私を抱きかかえた。


「では戻るぞ」

「あ、うん。…もしかして私と話すためにここで止まってた?」

「ああ。他者に聞かれると面倒だからな。だが心配するな。ここには時間の概念はない。今我と話しているように感るのも、現実に会話しているわけではなく、思念で意思を伝達しているにすぎん」

「難しいこと言うのね…。ねえ、もしここで戻れなくなったらどうなるの?」

「元の世界へ戻れなくなる。時間のない世界で、永遠に漂い続けることになるな。あるいは…」

「あるいは?」

「誰かの意識に飲み込まれて自意識を失う」


 さっきみたいに、誰かの記憶の中に入って出られなくなるってことかな?

 楽しそうだけど、それはちょっとやだな。

 それに、さっきみたいな悲しい記憶に呑まれたらウツになっちゃいそう。


「ここが元の場所だ。では戻るぞ」



 亜空間から戻った現実世界は、どこだかよくわからない地下の洞穴みたいな所だった。


「どこ、ここ…」


 隣を見ると、私を連れてきたイシュタムがウルクを降ろしていた。


「トワ様!」


 声がした方を見ると、ゼル少年の騎士団にいた銀髪の魔族が、なんか仮面を付けたキモイ人を抱えている。


「トワ…?本当にトワだ。っていうか、トワサマってトワのことだったのか…!その髪はどうしたの?」


 そう云いながら、見たことのない魔族が近寄ってきた。

 誰?いきなり呼び捨てにするとか気安いなあ…。知らない人のはずなんだけど?


「あなた誰ですか?」

「僕だよ、優星だよ!」

「んなわけないじゃない!」

「だから!聞いてくれよ!」


 その魔族は、必死で自分が優星だと説明した。

 外見は結構クールなイケメンなのに、話すとなんだかナンパくさい。

 うるさいので、彼のことはとりあえず後回しにした。

 ウルクが急いで診てほしいと云うので、とりあえず優先事項を片付けることにした。

 銀髪の人に抱えられていた仮面の人物は死にかけていた。

 キモイなんて思ってごめんなさい…。

 その人はカラヴィアという、妙に気になる名前だった。

 ずっと銀髪のイケメンの腕にしがみついたままなんだけど、もしかして恋人なのかな?

 仮面を取ったその下の顔は、ひどい火傷を負っていて一瞬言葉を失った。


「ひどい火傷…!辛かったでしょ?今、治してあげるからね」


 私はカラヴィアという人の傷を、顔の火傷も含めてすべて癒した。


 すると間もなくカラヴィアは目を覚ました。

 私の顔を見るなり、両手を上げて万歳をした。


「はわわぁ~~!治してくれたのね!!痛くない!ひきつれない!治った?ねえワタシの顔、キレイ?」

「あ、ああ…」


 カラヴィアはまずジュスターに確認を取って、それから飛び起きて、その場にいた人々に自分の顔が奇麗かどうかを聞いて回った。

 イシュタムにも聞いて、「ああ、奇麗だ」とか云わせていたのには、ちょっと笑ってしまった。あなたが聞いてる相手は神様なんだけどね。


「やったーー!」


 カラヴィアは喜びのあまり再び万歳して、私に抱きついてきた。


「ンフフ。トワ~~!アリガト!お礼にもうアナタにちょっかい出すのは止めるわ。あとなんでも言うことを聞いてあげる!」


 そう云って、私の頬や額にキスをしまくった。

 私はこの人のテンションの高さに押され気味だった。

 本当に誰なんだろう、この人。


「トワ、君すごいんだね!どうして魔族を癒せるんだい?」


 優星を名乗る魔族も、興奮して私に声を掛けてきた。

 その彼をぐい、と押しのけて、また別の美人の魔族が前に出てきた。


「トワ、良かった。いなくなっていて心配していたんだ。会えてよかった」

「ちょっとイドラ!押しのけるなんてひどいよ」


 イドラ、ね。この人も私を知っている口ぶりだ。

 困った…本当に記憶にないことばかりだ。

 魔王の云ったことはどうやら本当だったようで、知らない間に私、なんかいろいろやらかしてたみたい。

 とりあえず、今は笑ってごまかして、後で皆にはちゃんと話そう。


 それより問題はこの優星を名乗る魔族だ。

 どうみても魔族なんだけど、どうして優星を知っているのかしら。

 ていうか自分を優星だって云ってるんだけど、何なの?

 一応、彼の話を聞いてみることにした。


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