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守護する者

 人間側の兵士たちは全軍撤退していった。

 前線で気絶していた人間たちも、魔族に叩き起こされて、逃げ帰って行った。


 ドラゴンと共に基地の屋上に降り立った私と魔王は、魔族の兵士たちから歓声を浴びた。

 そこで私はようやく仮面を外した。

 出迎えたサレオスから報告を受ける。


「戦死者どころかかすり傷を負った者もいないようです。お見事でした」


 今回、彼は出撃を魔王に止められていたので、基地の中から指揮を執っていたのだ。


「ドラゴンを駆るお姿は勇壮でしたな」


 サレオスからそんな感想を貰ったのは、私がドラゴンに乗って戦場を駆け回りながら回復魔法を使っていたからだ。

 昨日の大広間みたいに限定された場所じゃなく、不特定の広範囲の場所で大人数を回復させるには、回復対象が私の視界に入っている必要があるってことが、やっているうちにわかった。

 エリアナたち勇者候補の能力が軍の中では突出していたことはわかっていたから、彼らの動向を見ながらドラゴンを移動させていた。

 特にエリアナの範囲魔法は強力だったから、それが放たれた直後に回復魔法をかけていた。そうしないと死者がでていたかもしれなかった。

 私の隣にいた魔王は、その様子を見ていて、「おーすごい」だの「皆の者、回復したぞ!起きろ起きろー!」だのかなりはしゃいでいた。

 あんまり騒ぐので、途中で「ちょっとうるさい!黙ってて!」とか怒鳴った気もする。


 ひと仕事終えた私は、魔王に「少し休んでいけ」と彼の部屋に連れて行かれた。

 魔王は、派手に範囲回復魔法を使っていた私の魔力を心配していたみたい。

 私が魔力切れを起こすんじゃないかと気が気じゃなかったという。

 確かにちょっと疲れたかも。MPっていう形で目に見えたら良いのに。

 残念ながらこの世界では体力や魔力の限界は自分で感じるしかないみたい。

 体力や魔力がなくなると卒倒してしばらく動けなくなるから、そうなる前に自分で対策を取らないと命に関わるんだそうだ。

 あれだけ派手に魔法を使っても結構平気だと云うことは、私のMPって結構多いんだな。今度自分の限界まで魔法を使って調べてみよう。


「見事な手際だった」


 魔王は改めて私に云った。


「やだ褒められた…!」


 こっちに来てから褒められ慣れていないので、ちょっと感動が込み上げてきた。


「おまえのおかげで被害もなく、人間共を追い払うことができた。礼を言う」

「ゼルくんがドラゴンを出してくれたおかげだよ」


 そういえばドラゴンはどこへ行ったのかと聞くと、魔王は手にしたネックレスを見せてくれた。


「ここだ」

「このネックレスの中に戻ってるの?」

「正確にはこの先についている黒曜石の中だ」

「呼ばれて飛び出るツボの魔王か、ランプの精か、ってとこね」

「ん?」


 魔王という言葉に反応したらしい。


「ああ、ごめん、なんでもない。でもどうして石の中に?」

「カイザードラゴンは我が魔界より召喚した最強の眷属だ。我と共に勇者によって封じられたが、共に目覚めた。だが我は封印されていて魔力の供給が不安定なため、必要なときだけ呼び出すようにしているのだ」

「ってことは、この黒曜石の中は魔界と繋がってるの?」

「いや、我が空間魔法で異空間に繋げている。そこでは時間の流れがなく魔力も消費しないのだ」

「たしかに、あんな大きな体でいちいち出てこられても困るわね」

『聞こえているぞ、人間』

「わ!出てきてないのにしゃべった!」

「ククッ、異空間にいてもこちらの様子が見られるのだ。出て来い」


 魔王が呼ぶと、黒曜石の中から黒い影が飛び出してきた。


「ちょっと、こんなとこで…!」


 あんなでっかいのがここに出てきたら、部屋が壊れちゃう!

 焦った私の目の前に現れたのは、フヨフヨと宙に浮くてのひらサイズのミニドラゴンだった。


「え~~!?ちっちゃ!!」

『フフン、どうだ。これならば邪魔になるまい。魔力の消費も抑えられて一石二鳥なのだぞ』

「そうね、これならいいわ。ね、触ってもいい?」

『ム?構わんが…ムギュッ』


 私はミニドラゴンをぎゅうっと胸に抱きしめた。

 鱗もミニサイズになってて硬くもなく、ムチムチコロコロしていて弾力がある。抱き心地はバルーンボールみたい。


「バフバフしててか~わい~!」

『く、苦しいぞ…』

「気に入ったようだな」

「うん。こんなちっちゃくなれるなんて思わなかった」

「ならばこれはお前に渡しておこう」


 魔王はカイザードラゴンの出てきたネックレスを私に渡した。


「え?いいの?」

「ああ、カイザードラゴンもまんざらでもないようだしな」

『フン。たしかに、人間にしては大したものだ。認めてやる』


 かわいい見かけに反して、かなり上から発言するヤツよね。

 魔王が最強の眷属というからには、たぶん相当強いドラゴンなんだろうけど。


「さっきも言ったが、こいつを召喚している間は魔力を吸われるから気をつけろ」

『人聞きの悪いことを言うな。確かに魔力供給を受ける必要があるが、普通に生活していれば問題ないレベルだ』

「ふ~ん、つまりあんたのご飯は私の魔力ってわけね」


 私はネックレスを受け取って、自分の首にかけた。


「カイザードラゴン、おまえに命ずる。トワを守れ」

『我が召喚主である魔王の名に懸けて、必ず果たそう』



 ・・・・・・・・・・・・・・・・


「そろそろ戻らないと」と私が云うと、国境砦近くまでドラゴンに乗って行けばいいと魔王は助言してくれた。


「魔族を癒せる能力があることは人間には言わない方がいい。そのネックレスのこともだ。人間は疑り深く、ちょっとしたことで他人を陥れるものだからな」


 魔王はそう私に忠告してくれた。


「うん、わかってるわ。魔族に助けられたってわかったら、魔族のスパイだと思われるものね」

「ああ。いいか、人間には気をつけろ」

「私も人間なんだけどな…。でも、ありがとうね」


 魔王が基地の前の広場でカイザードラゴンを呼び出し、重力魔法を掛けてくれた。

 広場には魔王をはじめ、サレオスやアンフィス、ケッシュらが見送りに来てくれた。


「いつでも戻ってきてよいのだぞ」


 ドラゴンの背に乗ろうとしていた私に、少年魔王が声をかけた。

 私は少年魔王に目線の高さを合わせるようにしゃがんで、彼にハグした。


「いろいろとありがとう」

「…ああ」


 少年魔王の小さな手が背中に回されるのを感じた。


 大広場で私が癒した大勢の魔族たちにも見送られて、私を乗せたドラゴンは基地を飛び立った。


「魔王様、あの娘、あのまま行かせて良かったのですか」

「なに、すぐに戻ってくるさ。運命はすでに巡り始めているのだ」



 ・・・・・・・・・・・・・



 砦から見えない所でカイザードラゴンは着地した。誰かに見られていないかとあたりをきょろきょろ見回してみた。

 私が降りると、カイザードラゴンはネックレスに戻った。

 そこからは1人で砦へ向かって歩いていく。ついさっきまで戦場になっていた場所だ。

 辺りは昨日の戦いでの遺体が転がったままだ。

 蘇生魔法って使える人いないんだっけか…。

 この人たち、どうなるんだろう。誰も回収に来ないのかな。まさかこのまま野ざらし…?それとも野良の魔物なんかに食べられちゃうんだろうか。

 そんなことを思いながら、遺体を避けて歩いていく。


 歩いていると服の下につけていたネックレスから、カイザードラゴンが語り掛けてきた。

 ミニドラゴンの姿なら出てきてもいいと云うと、ネックレスから出て、私の肩の高さにフワフワと浮いている。


『ずいぶんと歩きにくそうだな』

「まあね。夕べはサレオスに運んでもらったから良かったけど、こんなに遠いとは思わなかったわ」

『これ以上運んでやれぬのがはがゆいな。主であるおまえが苦労しているというのに何もできぬとは情けない』

「主?私が?あんたの主は魔王じゃないの?」

『今の主はおまえだ』

「えー?いつの間にそういうことになったわけ?」

『おまえがネックレスを受け取った時からだ』

「なるほど、ホントに魔法のランプみたいねえ」

『ランプではない、ネックレスだ』

「はいはい、そうね。あんたはネックレスの魔人ってとこね」

『魔人ではなくドラゴンだ』

「いちいち細かいわね…。じゃあ私と主従関係を結ぶんなら、あんたの名前教えて?」

『名などない。カイザードラゴンだ』

「え~?呼ぶのに長すぎるじゃない?じゃあカイザーって呼ぶけどいい?」

『名前をくれるのか』

「そんな大げさなものじゃないけど、あった方が呼びやすいでしょ」

『感謝する』


 すると、ミニドラゴンの体がまばゆく光った。


「わ、何?」

『おお…っ』

「今の光、何だったの?」

『おまえと私の間に契約が結ばれた証だ』

「契約?」

『おおお…力が沸き上がってくる…』


 ミニドラゴンの姿が少しだけ変化した。

 赤い鱗に覆われた小さな頭に、ゴールドの小さなツノが生えた。


「おー、角が生えた!ちょっとカッコよくなったんじゃない?」

『そうか?能力も格段に上がったぞ』

「へえ~、契約するとこんな変化があるのね」

『おまえにはどうやら主従関係にある者を進化させる能力があるようだな』

「進化?…ずいぶん控えめな進化ねえ…」

『…しかもその能力、まだ続きがあるようだ』

「どういうこと?」


 ミニドラゴンはふわふわ飛びながら、私の顔の周りを一周した。


『おまえから魔力を貰っている私にはわかる。おまえにはなにか特別な力がまだある』

「本当かなあ?そんなのあれば、いらない子扱いされてなかったハズなんだけど」

『嘘は言わぬ。だがおまえの回復能力同様、人間には効かぬ能力なのかもしれんな』

「それ、意味ないよね…」


 それにしても遠い。

 結構歩いたと思ったけど、まだ砦の門すら見えてこない。


「もう足が棒だよ~」

『少し休んでいくか?』

「ここにサレオスがいてくれたらなあ。さっさと運んでもらえるのに…。ねえカイザー、あんたって人間にはなれないの?」

『人間?人型になれというのか?』

「そう。普通、ドラゴンってアニメとかだと人間の姿になれたりするもんよ?」


 すると、ミニドラゴンの体がまた光った。

 今度はさっきよりも短く。


「ん?また光ったわよ?」

『思った通りだ。新たなスキルを手に入れた。まあ、見ていろ』


 ミニドラゴンは、私の目の前でその姿を変えた。

 それはなんとサレオスの姿だった。


『どうだ?サレオスになったぞ』

「ええっ!?サレオスキター…って、なんで!?」


 藍色の髪、逞しい胸板。目の前にいるのはまぎれもなく砦で会ったあの魔族サレオスだった。


「何よ、やっぱり人になれるんじゃない!」

『なったわけではない。これは擬態だ。一度見た者の姿を真似ているにすぎん』

「声もそっくり…驚いた。ね、他の人にもなれるの?」

『一度見て記憶した者の姿ならば、擬態できる』

「どうせならイケメンが見たいなあ」

『そのイケメン、とはどんなものだ?私は人間というものを良く知らぬ』

「えーっとね…うーん、人間を良く知らないあんたに説明すんの難しいな…。あんたが知ってる人の姿って具体的に言うと誰?」

『先ほどの基地にいた者ならば大抵は記憶している』


 さっきの基地の魔族の中にイケメンなんていたっけか…。

 うーん…。


「ダメだ、魔王くらいしか思いつかない」

『魔王の姿か』

「イケメンつっても子供だからな~」

『封印前の魔王の姿なら記憶しているぞ』

「封印前のって…子供じゃなくて大人の姿?」

『今のお前の見かけよりは年長だな』

「オッケーオッケー!それいこう!」

『よし』


 カイザーが変身する時は黒い煙に一瞬包まれるので、まさに音をあてるとしたら「ドロン」って感じ。

 そうやって今度変身した姿は…。


 目の前に背の高い、黒髪の青年が颯爽と現れた。

 タキシードみたいな黒い服を着ている。


「うっわ…!マジイケメン…!!」


 私は青年の傍に寄って、じろじろと見た。


「すごい…カンペキなイケメンじゃん!ていうか、魔王の元の姿ってこんなカッコイイの?」

『私の擬態は本物に忠実だぞ。おまえのいうイケメンというのは魔王だったか』


 なるほど、あの美少年が成長するとこんなイケメンになるのね!

 モデルとかアイドルなんて目じゃない、ってくらいのビジュアルなんだけど。


「すごーい…こんな美形、間近で見るの初めてよ!…一目惚れしそう」

『魔王の姿は見る者によって変わるという。魔王を恐れる者には威圧的で恐ろしい姿に見えているはずだ。だがおまえには理想のイケメンとやらの姿として見えているのだな』

「え?それどういうこと?」

『おまえが魔王に好意を持っているということだ』

「意味わかんない…」

『わからなくてもよい。魔王という存在はそういうものだ』


 なんかよくわからないけど、とにかく魔王が超絶イケメンだってことはわかった。


「でもそれ、すごい便利なスキルよね」

『<人型擬態・変身>というスキルだ。たった今おまえが与えたスキルだぞ』

「え?私何にもしてないよ?」

『さっきおまえが言っただろう。人型になれと』

「確かに言ったけど…でもまさか、それだけで?」

『おまえが使ったのは、言葉にしたことを契約した相手にスキルとして与えることができる<言霊(ことだま)>スキルだ』

「ことだますきる…?」

『さっき私の体が光ったのは新たなスキルを与えられた証だ』

「なにそれ…!本当に私がやったの?っていうか、いつの間にそんな能力持ってたっての?」

『元から持っていたスキルだったのだろう。それもおそらくは魔族限定の能力ゆえ、魔族と出会うまで有効化されていなかったのかもな』


 そう云われても、ピンとこないんだけど。

 スキル使ってるっていう意識すらないんだから。


『ところで、人間。おまえのことは何と呼べばいい?』

「トワでいいわ」

『ではトワ』


 カイザーは、イケメン魔王の姿のまま私の手を取って、片膝をついた。

 こ、これは!!騎士がお姫様にするヤツ!


『おまえに私の忠誠を』


 そう云って私の手の甲にキスした。

 ギャーー!

 顔が真っ赤になって熱くなる。

 これ現実?イケメンにこんなことされるなんて、夢かよ!


『何か言え』

「え?あ、何かって何言えばいいの?」

『主従の誓いだ。おまえが私に願うことを言えばいい』


 そ、そうなんだ。


「えーっと、じゃあベタに…何があっても、私を守ってね?なーんて…」

『誓おう』


 すると、彼の体がまた光った。


「え?また?」

『<絶対防御>のスキルを得た』

「えーー!?」

『範囲バリアを張るスキルだ。側にいればあらゆる攻撃から守ってやれる』


 今、私が「何があっても守ってね」なんて口にしたから?

 これはなんかヤバイぞ。

 もしかして今のって、まんまとカイザーに誘導されたんじゃないだろうか…。


『もっと、いろいろなことを願って良いのだぞ?』


 カイザーはイケメン魔王の顔でニヤリと笑った。

 こいつ、スキルを貰う気満々だ。

 うーん、迂闊なことを口にできなくなった。


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