ウズボス
地球に帰りたい。
酸素が吸いたい。
ベッドで寝たい。
いつになったらここから抜け出せるのか。暗くて何も見えない。誰もいない。誰か助けてくれ。
ウズボスが広大な宇宙のただなかで、ただ闇に包まれて、途方に暮れていると、一筋の光が駆け抜けていった。光の渦がらせんを形作って、ウズボスの空間を満たしていった。
「どれくらいここにいるの?」
光が言った。
「3光年くらいだろうか」
ウズボスは答えた。
「助けてあげようか?」
「お願いします」
翔太郎は、西麻布の自宅で目を覚ました。悪い夢を見ていた。
翔太郎は、ベッドから降りると、一階の台所へ降りて行った。
母親が台所で、キャベツを切っている。
どんぶりいっぱいのキャベツの千切りと、みそ汁ととんかつを食べた。
父親はもう家を出たようだった。
朝食を食べ終わると、翔太郎は家を出た。
学校には行きたくない。ただぶらぶらと、渋谷を歩いた。デパートをうろつき、家電量販店をうろつき、ゲーセンをうろついた。
何も起こらない。世界は平穏に時を刻んでいる。つまらない。壊したい。
「その気持ちわかるよ」
センター街を歩いていたら、声をかけられた。
茶髪で、耳にピアスを付けた、ちゃらちゃらした雰囲気の男だ。
翔太郎は、その男を見た。
「その気持ちはわかるよ」
男は言った。翔太郎はその男に殴りかかったが、男は身をひるがえして、翔太郎のパンチをよけた。
「わかるよ」
翔太郎は前かがみに路面に這いつくばった。知らぬ間に間合いを詰められ、男に一撃を食らわせられていた。
「この世界を、君はどうしたいのさ」
男は翔太郎を見下ろしながら言った。
翔太郎は路面にあおむけになって、空を見上げた。道行く人が翔太郎をじろじろ見ている。視界には、ビルの先端と、男の顔と白い雲と青い空が映っていた。
あの頃を思い出す。あの巨大な宇宙船を。
いやそれは違う。人の記憶だ。ショッカは今どこで何をしているのか。別の身体を手に入れて、この惑星のどこかにいるのだろうか。すべて忘れてしまったのだろうか。
「おまえは誰だ」
翔太郎が聞いた。
「山波新伍」
男は答えた。翔太郎は、右足で地面を蹴り上げその反動を利用して、山波の顔面を思い切り蹴り飛ばした。山波は5メートルくらい吹き飛んだ。