嫁が勇者に寝取られたので王都を強襲します
前回のあらすじ
聖竜王ヴェルセウスと対峙したアイン。
アインの凄まじい実力に動揺したヴェルセウスは、彼の逆鱗に触れてしまう。
激情に任せてヴェルセウスを蹂躙したアインは━━━。
ようやく、ようやく辿り着いた。
眼下に広がるのは緑鮮やかな自然に囲まれた、国の権威を示すかのように建てられた王宮と、遠目にもわかる程に賑わいを見せる城下街。
聖竜王の命を奪った後、その亡骸を消し飛ばしてから下山し、普通の行程では一週間程かかる旅路を四日間で走破した。
その途中に宿場町がなければ、そして冒険者や商人、旅人達がいなければ、もう少し早く着いていたかもしれない。
例に漏らさず、そいつらは黄泉の旅路へと送り出してやったがな。
さて、この街ごと消し飛ばすのは簡単だが、まだ勇者の姿が確認出来てない。
消し飛ばすにしても別の場所へ行っている事も考慮して、自分の目で奴の存在を確認してからがいいだろう。
今回はリューガ達みたいに利用出来そうな奴はいないし、正面から行く。
さぁ勇者、積もりに積もった俺の想い、存分に味わってくれよ?
* * * * * * * * * * * * * * *
「む、止まれ」
巨大な扉の前に着いた所で、両脇にいた門番兵達が槍をクロスさせて進行を阻む。
「怪しい奴だな。見た目は人間の様に見えるが・・・。身分証か何か持って━━━ガッ!?」
門番兵達の首を掴んで持ち上げながら、扉の先に進む。
「「止まれ!」」
対応が素早いな。
城下街に足を踏み入れると同時に、数名の兵士達に取り囲まれてしまった。
「貴様、自分が何をしているかわかっているのか!? 早くそいつらを解放しろ!」
「・・・いいだろう」
〝ゴキャッグギンッ〟
太い骨が折れる鈍い音が響き、今までジタバタともがいていた門番兵達の動きがピタリと止まる。
動かなくなった二つの骸を、叫んでいた奴の前に放り投げる。
ついでに兵士達が持っていた槍を一本奪っておく。
「な、な、何を!?」
「何を、と言われてもな。お前が解放しろと言うから解放してやっただけだ」
この世からな。
仲間の死が予想外だったのか、目に見えて狼狽している。
侵入者への対応は早かったが、実戦経験は乏しいようだ。
死体を見て震えているようでは問題外。
さっさと勇者の情報を吐いて貰おうか。
動揺し、隙だらけの兵士の一人に近付き、無造作に槍を突き付けて問い掛ける。
「さて、勇者はどこにいる?」
「狙いは勇者様か!? だ、誰が貴様になど教えるも━━━グァッ!?」
そのまま相手の喉に槍を突き刺してやった。
情報を話す気がないのなら死ね。
大量の血を噴き出しながら倒れる兵士を尻目に槍を引き抜き、隣にいた兵士に目を向ける。
「勇者は、どこだ?」
「し、知らない! た、助け━━━ぐげっ!?」
役に立たない奴だな。
知らない奴を生かしておく必要はない。
「次」
「━━━━ッ!?」
恐怖で声が出ないか。
必死に頭を振っているが、何が言いたいのかわからん。
こいつに構うだけ時間の無駄だな。
さっさと死ね。
勇者の居場所を吐かせるだけで随分と時間がかかる。
まさか、すでに王都を出たか?
王都にいるという情報を仕入れてからかなり寄り道してしまったから、その可能性もあるが・・・。
まぁ、いなければいないでここも滅ぼすだけだ。
俺の殺る事に変わりはない。
そんな事を考え始めた時、一人の兵士が恐る恐る前に出てきた。
「こ、この時間なら! 多分、教会の礼拝堂にいるはずだ!」
兵士が顔を青ざめさせながら口にしたのは、俺の欲しかった勇者の情報。
「お、おい!」
「うるさい! 教えなきゃ殺されるんだ。俺はまだ死にたくない! それに勇者様なら何とかしてくれるさ!」
情報を吐いた奴の隣にいた兵士は非難するようにその男の肩を掴むが、半狂乱になった男は声を荒らげて聞こうとはしない。
〝グサッ〟
「・・・えっ?」
その男は自分の胸から生えた槍を視認するが、何が起きたのかわからないような顔を俺に向けてきた。
男を非難していた兵士も、信じられない物を見る視線で俺を見ている。
情報を吐いた兵士は自分の胸から溢れ出した赤い水溜まりに身を沈め、数度痙攣した後、動かなくなった。
「な、な、何故殺した!? こいつは勇者様の情報を教えたじゃないか!」
「勇者の居場所がわかればお前達に用はない。それに、情報を吐けば助けてやるなんて一言も言った覚えはないぞ?」
特に意図した訳でもないが、自然と口許が緩んでしまう。
生き残っている兵士達からはすでに戦意は感じられず、中には恐怖のあまりに座り込んで失禁している者さえいた。
絶望に染まりきった残りの兵士達を難なく一掃した俺は、情報にあった教会のシンボルである十字架を目指して移動していた。
騒ぎを聞き付けて正門前に向かう有象無象共を避ける為に屋根を伝って。
街中の騒がしさと教会までの距離を考えると、この騒ぎはまだ勇者の耳には入ってないと予測が出来る。
であるならば、こちらが先に勇者を見つけ、奇襲を仕掛けた方がいいと考えた訳だ。
そうなると、正門前に集まる冒険者や野次馬は時間的な都合で後回しにすべきである。
勿論、楽観視はしていない。
勇者が何らかの方法でこちらの存在を知り、奇襲に備えている、逆に奇襲を仕掛けてくる可能性も考慮している。
むしろ勇者の方から仕掛けてきてくれた方が探す手間が省けて面倒がないんだがな。
そんな事を考えている間に、目的地である教会の屋根にある十字架に到着。
予想通り、まだこの場所までは情報の伝達が追い付いていないらしく、街の住民達が騒いでいる様子はない。
とは言え、情報が回ってくるのも時間の問題だろう。
屋根の上から礼拝堂と内部に侵入出来そうな窓の位置を確認した所、空気の入れ換えの為か片方が開きっぱなしの窓を軽くノックしてみる。
・・・よし、部屋の中に何かが動く気配はない。
直ぐ様その窓から部屋へと侵入し、身を潜めながら礼拝堂に向かう。
幸いに、と言うべきだろう。
特に人と鉢合わせる事もなく礼拝堂に辿り着く事が出来た。
気配を消し、ゆっくりとした動作で礼拝堂の様子を伺う。
そこには教会の神父らしき男と何かを話している勇者と、その会話を聞こうとしているのか、奴等を囲う教会の関係者や住民達の姿が見えた。
ミツケタミツケタコロスコロスコロスコロスクビヲシメテクビノホネヲオッテシンゾウヲサシツラヌイテハラヲカッサバイテナイゾウヲヒキズリダシテイキチヲヌイテミズニシズメテソノイノチガツキルマデナグリツヅケル!!!
コロシタイ、コロシタイ、コロシタイ!コロシタイ!コロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイコロシタイ!!!
身を潜めテイるといウノに感情のコントろールが出来なイ。
際限ナく沸キ上ガリ、溢れ出ス殺気を抑エキれナい。
コノマまでハ奇襲を仕掛ケル前に勇者ガ俺の存在ニ気付いテシまウ。
・・・いッソの事、こノ感情に全テヲ委ネてミヨうカ。
『ほぉ、アレが勇者、ねぇ? 聖竜王の加護を受けていた割には、あまり嫌な感じはしねぇなぁ。むしろ、どちらかと言えば悪魔が好きそうな感じがするぜ? 俺様は好みじゃねぇが』
(━━━━━━━━━ッ!?)
頭の中に直接伝わるウルゴスの声に、憎悪のあまりに持っていかれそうになった意識を取り戻す。
『クックックッ。勇者の姿を見たと同時に随分と余裕がなくなったじゃねぇか? まぁ、気持ちはわからなくもないが、激情に任せて殺っちまうより、冷静に、坦々と殺る方が記憶が残る分、復讐の実感は残ると思うぜ? ようやくお前の復讐が叶うんだ。もっと楽しめよ、アイン』
ウルゴスの言う通りだ。
憎くて憎くてどうしようもない勇者を殺せるチャンスなんだ。
楽しむかどうかは別として、冷静な判断が出来なかった為に奴を取り逃がす事にならないように、少し余裕を持つべきだろう。
しかし勇者の姿が視界に入るだけで、汚泥のような、ドロドロした憎悪の感情が侵食してくる。
少しだけクリアになった頭で判断し、勇者の姿を視界から外す為に奴の逆側、礼拝堂の出入り口の方へと視線を移動させた。
そこには・・・無表情で俯き佇む、嫁がいた。
お久し振りです。
更新期間が一ヶ月以上空いてしまい、申し訳ありませんでした。
メインの“忌み子と呼ばれた召喚士“の執筆を優先させていたのと、当作品がスランプに陥り上手く表現を書けなかったりした為に更新が遅れてしまいました。
更新が止まっている期間にも感想やコメントが書かれてた事に驚きを隠せません。
当作品を読んで頂いている読者様方に感謝ですね。
お時間がありましたら、評価や感想、コメント等をして頂けると嬉しいです。