嫁が勇者に寝取られたので聖竜王を滅ぼします
前回のあらすじ
ヴァルネロを倒した事により、更なる力を得たアイン。
王都に向かう道中、勇者に力を与えるという、聖竜王ヴェルセウスが棲む山脈へとやってきた。
ヴェルセウスを引き摺り出す為、山脈に棲まう生物を虐殺して回るアインの前に現れたのは・・・?
「ソノ辺ニシテモラオウカ」
振り向いた先にいたのは、金色の鱗に身を包んだ大型の竜。
身体のデカさはヴァルネロ以上だな。
眼光は鋭く、蒼の瞳が俺を捉えている。
口元に並ぶ牙の一本一本が人間の子供程の大きさがあり、合計十六本の手足の爪は刀剣の様な輝きを放っていた。
「小サキ者ヨ。何故、我ガ縄張リニ棲ム者達ノ命ヲ奪ウカ?」
「アンタがなかなか出てこなかったからさ。引き摺り出すなら、これが手っ取り早いと思ったもんでね」
絶命したオークから手を離し、首を竦めてみせる。
「我ニ会ウ為トナ? ソノ真意ヲ述ベヨ」
「アンタ、勇者に力を与える存在なんだってな? 勇者の味方なら、俺の敵だ。だから、殺す」
真っ直ぐ睨み付けてやると、俺を見下す様に頭を動かす聖竜王。
「愚カナ。貴様如キガ我ヲ害セルト思ウテカ。ソノ傲慢、完膚ナキマデニ打チ砕イテヤロウ!!」
巨大な両翼を動かし、巻き起こされた旋風が鎌鼬へと変化する。
攻撃範囲が広すぎるな。
下手に回避するよりは防御に回った方が良さそうだ。
鋭い鎌鼬が、俺の肌を切り裂く。
常人であれば真っ二つにされていてもおかしくない切れ味だろうが、その対象が俺ならこんなものだ。
「ホウ? コノ程度デハ死ナヌカ。デハ、コレナラドウカナ?」
ヴェルセウスの周囲に、無数の魔法陣が現れる。
「〈聖竜王ノ光星〉」
一つ一つの魔法陣から眩しいまでに輝く光弾が現れ、まるで流星の様に俺へと降り注ぐ。
『うははっ! すっげーなコイツ。ヴァルネロの野郎より強いんじゃねぇか?』
ウルゴス、気が散るから少し黙っててくれ。
「〈崩壊の連弾〉」
空間に生み出した、至極色の矢弾で迎え撃つ。
流星の如く迫り来る光弾に至極色の矢弾が次々と着弾し、小規模な爆発が空間を埋め尽くした。
その爆風に煽られて僅かに後退するが、煙幕が晴れた先のヴェルセウスは微動だにしていない。
「フム、コレデモ倒レヌカ。人間ニシテハ中々ヤルナ」
「はっ! アンタは聖竜王なんて持て囃されている割には大した事ねぇな」
「フン、減ラズ口ヲ。ナラバ、ソンナ口ガ利ケヌヨウ消シ飛バシテクレルワ!!」
ヴェルセウスの口を中心に、膨大な魔力が収束していくのがわかる。
あれはまともに喰らうとヤバそうだな。
ヴェルセウスの攻撃に備え、こちらも魔力を収束させる。
「〈聖竜王ノ断罪〉」
「〈崩壊の波動〉」
ほぼ同時に放たれる光輝く熱線と至極色に染まった波動がぶつかり合う。
凄まじい魔力が込められた魔法の余波が周囲の木々や岩石を凪ぎ払い、地形を変えていった。
「ムッ!?」
「ふん」
自分の攻撃が防がれた事が意外だったのか、ヴェルセウスが焦りの声をあげる。
その隙に、俺は〈崩壊の波動〉を放つ右手をそのままに、左手へと魔力を収束させる。
「〈崩壊の連弾〉」
「ムッ!?〈二重魔法〉ダトッ!?」
思った通り、〈崩壊の連弾〉の方に意識を移したな。
そっちは撒き餌だ。
必要最低限の魔力しか使ってねぇよ。
「〈崩壊の刧波動〉」
〈崩壊の刧波動〉は〈崩壊の波動〉を二重掛けした魔法だ。
規模も威力も〈崩壊の波動〉の比じゃねぇよ。
「グオオオオオオオオオオオッ!?」
一瞬にして拮抗は崩れ、ヴェルセウスを呑み込む至極色の波動。
〈崩壊の刧波動〉を真正面から喰らったヴェルセウスは、消滅こそしなかったものの、大きなダメージを受けたようだ。
その巨躯の所々から煙があがっている。
「グッ・・・。マサカ、我ノ方ガ、圧シ負ケル、トハ」
苦しげにこちらを睨み付けてくるが、舐めて掛かってくる方が悪い。
俺は敵を挑発する事はあるが、格下だと思って相手をした事は一度もないぞ。
敵が絶命する、その時まで。
「〈意志の拘束〉、〈磔刑の楔〉」
不可視の魔法がヴェルセウスの精神を捕らえ、魔力で構成された至極色の楔が、その手足に突き刺さる。
「ウグッ!? キ、貴様ァッ!!」
まずは機動力を奪う。
ヴェルセウスが逃げの一手を選択した場合、空を飛べない俺が追い続けるのは難しいからな。
俺は素早くヴェルセウスの背中に飛び乗ると、その巨大な翼に手をかける。
〝ブヂブヂミヂィッ〟
両手両腕に力を込めると、肉が断裂する鈍い音を立てて片翼が千切れる。
「グオオオオオオオッ!?」
続いてもう片翼の付け根に手刀を打ち込み、翼に繋がる骨を掴んで勢いよく引っ張る。
〝ベギギッグジュジュルジュルッ〟
背骨に繋がる骨が砕けた後は、抵抗も少なく引き抜けた。
「ガアアアアアアアッ!?」
「五月蝿いな。叫ぶ事しか出来んのか。これならヴァルネロの方がよっぽど強かったぜ」
“ヴァルネロ”という単語を聞いた瞬間、ヴェルセウスの顔付きが変わる。
荒い息を整えながら、俺の方へ首を向けてきた。
「キ、貴様! 魔王軍六魔将ヴァルネロヲ知ッテイルノカ!?」
「知っているも何も、二日三日前にぶっ殺したばかりだ。ウルゴスはアンタの方が強いと言っていたようだが、命を賭けた闘いにおいてはヴァルネロの方が上手だよ」
「六魔将ノ一角ヲ倒シタダト!? ナラバ勇者ノ側トハ味方ノハズデアロウ!? 何故コノヨウナ真似ヲスル!?」
「・・・ア"?」
両翼を失って出来た傷口に、無理矢理両腕を突っ込んでかき回す。
「ゴアアアアアアアアアッ!?」
「おい、誰が、あの、勇者の、味方だって?」
勇者の仲間扱いされた怒りをギリギリの所で抑え込み、淡々と手刀を突き刺してダメージを与えていくついでに、ヴァルネロにやった時の様に自分の魔力も撃ち込んでいく。
たっぷりと魔力を撃ち込んだ所で、苦痛の悲鳴をあげるヴェルセウスの角を掴み、こちらを向かせる。
次いで、無理矢理口を開けさせて爬虫類独特の長い舌を握って引っ張り出す。
「もう一度言うぞ? 誰が、あの勇者の、味方だって?」
ヴェルセウスの表情が凍り付き、その瞳に怯えが浮かび上がる。
「あの勇者は殺すべき怨敵だ。そして、あの勇者に力を与えた聖竜王も俺の敵に他ならないんだよ」
制御しても、制御しようとしようとしても、溢れ出てくる勇者への怨嗟を言葉に変えてヴェルセウスにぶつけていく。
「あの勇者を助けた奴が憎い。あの勇者に助けられた奴が憎い。あの勇者に憧れている奴が憎い。あの勇者を尊敬している奴が憎い。あの勇者と共に飯を食った奴が憎い。あの勇者と同じ宿に泊まった奴が憎い。あの勇者と出会った事がある奴が憎い。あの勇者と同じ街に住んでいる奴が憎い━━━」
次第にヴェルセウスの瞳は恐怖に揺れ動き、滴り落ちる唾液を気にする事すら忘れ、その巨大な身体をガクガクと震わせ始めた。
俺は更にヴェルセウスの瞳と触れ合う寸前にまで顔を近付ける。
「あの勇者と!! あの勇者に僅かにでも関係する全てが!! 憎くて憎くて仕方がないんだよぉぉおおおっ!!!」
叫びながら、握っていたヴェルセウスの舌をその手で巻き取り、全力を込めて引き千切る。
〝メヂメヂヴヂヂィッ〟
「!? ※*#∥%ー|~#‐¨`^,*∥¨/*!?!?!?」
翼をもぎ取った時よりも鈍く、生々しい音を立てて舌が引き千切れると同時に、ヴェルセウスの声にならない絶叫が周囲に響き渡る。
恐怖と痛みに耐えきれずに暴れ始めるヴェルセウス。
ヴァルネロより魔法耐性は高いらしく、〈意志の拘束〉は自力で解き、〈磔刑の楔〉は力任せに抜き去ったようだ。
「〈苦痛の呪縛〉」
「ッ!? &∥¨#※%※∥^>∥%%#|"‐!?!?」
先程、ヴェルセウスに叩き込んだ魔力が、俺の言葉に反応して暴走を始める。
体内で暴れ回る魔力に抵抗する術を持たないのか、ヴェルセウスが体制を整える様子はない。
「アンタが勇者に力を与えなければ、俺の嫁は奪われなかったかもしれない。今でもあの村で、俺は嫁と幸せに暮らせていたかもしれない」
ヴェルセウスは驚いた表情になった後、何かを否定するように頭を振るが知った事じゃない。
「だから、殺す」
俺にとって目の前の爬虫類は、憎むべき敵で、ただの糧なのだから━━━。
更新が滞ってしまい、申し訳ありません。
前回分は早めに書き上がってはいたのですが、文字数は少ないしキリが悪いという事で今回の話と同時投稿の形を取らせて頂きました。
今回の話を終えて、舞台はいよいよ王都へ、と言った所でしょうか。
(面白そうな話を思い付けば間に入れるかもしれませんが)
アイン君と勇者のバトルは文字数多くして盛り上げたいですね。
お時間があれば、評価や感想を書いて頂けると幸いです。