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嫁が勇者に寝取られたので勇者が救った街を滅ぼします

前回のあらすじ


盗賊から助けたリューガ達を利用し、うまく街に入り込む事が出来たアイン。

冒険者ギルドでギルドマスター直々に勧誘されたが即座に断ってしまう。

その後、酒場で食事をしていたアインの耳に勇者の情報が入ってきたのだが・・・?

勇者(クソ野郎)の情報を手に入れた夜。


俺は街の裏路地に立っていた。


あの後、心配して声を掛けてきたリューガ達に「いつもの(呪いの)発作だから大丈夫だ」と言って誤魔化し、勇者(クソ野郎)に関しての情報を集めた。


幸いな事に、酒の肴は奴の話に移り、態々聞き出す手間もなく簡単に集まった。


予想通り、勇者(クソ野郎)大きな(この)街では怨みを買う行動は控えていたらしい。


酒場で聞いた話は、どこかの聖人かと思わせる話ばかりだった。


リューガ達も話に参加し、この街を救ってくれた事や自分が勇者に憧れている事を聞きもしていないのに熱弁していた。


適当に流して相槌を打つのも一苦労だった。


だが、この街に来て良かった。


勇者(クソ野郎)の居場所が、わかったから。


勇者(クソ野郎)への憎悪(おもい)が、更に募ったから。


本性を隠して外面を取り繕う勇者(クソ野郎)に向けた溢れ出る憎悪が、それを疑う事なく信じきっている街の連中への感情をも侵食していく。


抵抗するなら、好きにしろ。


俺はただ、あの勇者(クソ野郎)を殺す力を得る為だけに街の連中(おまえたち)を殺すだけだ。











夜も更け、本来であれば暗闇と静寂に包まれている筈の街は、紅い炎と恐怖に支配された阿鼻叫喚の地獄と化していた。


それはあの日も見た、村の最期と同じ光景。


少し違うのは、街の周囲を半球体状に覆ったオーロラの様なものが見える事くらいだろう。


僅かに生き残った者が必死に外へ出ようとするが、そのオーロラに阻まれ、街の外に出る事が出来ない。


『流石にこの規模の街から一人も逃がさずにってのは難しいだろ? 直接手を出す事は出来ねぇが、ほんの少しだけ手伝ってやるよ。楽しませてもらってる礼さ』


ウルゴスが張ってくれた、物理的な物から精神的な魔法まで、完全に遮断するらしい結界だ。


正直、少なくない人数に逃げられたり、魔法での救援要請から情報が漏れると予想していたから、ウルゴスのサポートはありがたかった。


寝入っている者から、殺していった。


住民達が異変に気付き、騒ぎだした頃には街全体の三分の一は殺せていたんじゃないかと思う。


次に、手間のかからない者(弱い者)から順に、暗闇に引き摺り込みながら殺していった。


親しい者の死体の側で泣き喚く者を。


恐怖に怯えてあてもなく逃げ惑う者を。


物陰に隠れて震えている者を。


大方片付いた所で、視界に入った者を例外なく屠っていった。


どこに視線を移しても、必ず目に入るのは死体の数々。


傷一つないように見える死体(もの)もあれば、引き千切られてバラバラになった死体(もの)もある。


「ア、アインさん! 一体何をやってるんだ!?」


息絶えた子供の亡骸をぶら下げて、声のした方を振り向く。


「・・・あぁ、アンタ達か」


そこには驚愕に顔を歪めながらも、俺を睨み付けるリューガ達と冒険者らしき者達がいた。


流石にこの状況を理解出来ない程頭は悪くないらしく、すでに臨戦態勢だ。


「見ての通りだ。態々聞かなくてもわかるだろう?」


リューガ達に向けて、その亡骸を放り投げてやる。


「てめぇ!」


怒りの感情のままに突っ込んできた男の顔面に、カウンターの要領で拳を叩き込む。


男の頭が()ぜ、統制を失った身体が崩れ落ちる。


「次は、誰だ?」


リューガ達の顔は青ざめ、冷や汗をかき、生唾を飲み込む。


あの間延びした口調のメリアでさえ、口を(つぐ)んで震えているようだ。


「ま、待ってくれアインさん! 呪いの影響なのか!? そうだよな!? そうだと言ってくれ!」


「呪いの話は嘘だ。いや、丸っきり嘘って訳でもないが、俺は自分の意思で殺している」


俺の返答に納得出来ないのか、リューガは大袈裟に頭を振る。


「そんな訳ない! 盗賊達から俺達を助けてくれたのは、アインさんじゃないか!!」


「それはお前達を利用する為に助けてやっただけだ。思惑通りにすんなりと街に入る事が出来たよ」


「そん、な・・・」


信じられないのか、それともショックを受けているのか。


リューガはよろめくように後ろに下がる。


「なん、で・・・どうしてこんな事をするんだ・・?」


力なく、呟くように問い掛ける声。


答えてやる必要はない・・・が、勇者(クソ野郎)の本性を教えてやったらどんな反応をするかな?


「アンタ達は、この街は勇者に救われたって言ってたよな?」


「・・・あぁ。だがそれと何の関係が━━━」


「俺の嫁はな、勇者の野郎に奪われたんだよ。田舎の村で、平穏に暮らしていただけの俺が望んだ、たった一つの幸せを・・・」


あぁ、ダメだな。


「だから、殺す。勇者(あいつ)も。勇者(あいつ)を尊敬しているというお前らも」


冷静でありたいのに、自分から話しているというのに、この事を思い出すだけで感情が暴れ出しそうになる。


「勇者様は俺の、いや、俺達の憧れなんだ!そんな事をする訳がない!」


「だが事実だ。俺にとっては憎むべき、いや、殺すべき怨敵以外の何者でもない」


勇者(クソ野郎)の本性も知らず、外面だけを見て憧れだ何だとほざく奴の言葉を聞くと反吐が出る。


盲目的に勇者(クソ野郎)を崇めるリューガ達(こいつら)は、俺の話を信じようとしな━━━


「例えそれが本当だったとしても、復讐からは何も生まれない! こんな無意味な殺戮はやめてくれ!」


「無意味、だと?」











━━━思考が、途切れた。











「くっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!」


あまりの怒りに、笑いが止まらない。


無意味だと?


何よりも、誰よりも愛しい嫁が奪われたというのに、その復讐が無意味だと!?


「お前達は何よりも愛しい者を奪われた事があるか!? 自分の命よりも大切な者を奪われた事があるのか!? 復讐からは何も生まれない? 本当に大切な者を失った事がないからそんな舐めた口が聞けるんだよっ!!!」


俺の剣幕に動揺し、たじろぐリューガ達。


俺はそれに合わせるようにゆっくりと歩を進める。


「「悪しき者の動きを封じよ!〈チェーンバインド〉!」」


魔力で構成された鎖が俺の身体に絡み付く。


「今だ!」


それと同時に発せられた号令に、リューガ以外の冒険者達が散開し、俺へと迫る。


どうやら俺とリューガが話している間に示し合わせていたようだな。


この程度の拘束ならどうにでもなるが。


特に気合いを入れる訳でもなく、僅かに力を込めるだけで魔力の鎖は脆くも千切れ落ちる。


「なっ!?」


「えっ!?」


「馬鹿なっ!?」


驚くのはいいが隙だらけだ。


どうやら拘束を破られるのは想定外だったらしいな。


すでに剣を振り下ろす体勢だった男の首を掴み、握り潰さないように手加減しながら持ち上げ、後から仕掛けられた攻撃への盾にする。


「あがっ!?」


「あっ!?」


「し、しまった!!」


盾の役割を果たした男が死なない内に、喉笛を握り潰して絶命させる。


仲間を攻撃した事に狼狽し、動きが鈍くなっている女に向かってその死体を放り投げてやると半狂乱になって悲鳴をあげた。


女の悲鳴に気をとられてる隙に、先程魔法を唱えていた二人の背後に回り込む。


気付いた時にはすでに遅く、二人の首を掴んで持ち上げた俺は、そのまま地面へと叩き付ける。


鈍く、生々しい、頚椎が砕ける音が聞こえた。


「あ、ああああああっ!? メリア! メリアァァアッ!!」


地面に叩き付けた片方はメリアだったようだ。


仲間を失って叫ぶリューガの方に向かおうとしたが、こちらに迫る風切り音に気付き、後ろに跳躍する。


僅かに遅れて、先程まで俺がいた場所に数本の矢が突き刺さった。


「リューガ! メリアを早く! まだ生きてるかもしれません! 彼は僕が抑えます!」


トリスに言われたリューガが慌ててメリアに駆け寄るが、彼女の状態を見てがっくりと肩を落とす。


まぁ、死んでるよな。


その間にもトリスは間断なく矢を射掛けてくるが、全て正面から避わし切り、距離を詰めていった。


「化け物ですね・・・」


憎々しげに俺を睨み付けるトリスの胸ぐらを掴みあげ、その腰に差している短剣を抜き取り、心臓に狙いを付ける。


「や、やめろぉぉぉぉぉおおおっ!!!」


〝ずぶり〟と、刃物が肉を抉る感触が伝わり、血が滴る。


そのまま短剣を抜き去ってやると、噴水の如く吹き出した鮮血を浴びる事になった。


心臓を貫かれたトリスは、数度痙攣した後、二度と目覚めぬ眠りについた。


「・・・ぃ」


聞きとれない程に小さな声で何かを呟くリューガ。


何が言いたいのかは容易に想像がつくがな。


「許さないぞ! アイン! 絶対に、絶対に殺してやる!」


リューガの瞳は憎悪に支配されていた。


それは俺と少しだけ同じで、全く違う復讐者の瞳。


「“復讐からは何も生まれない”んじゃなかったのか?」


「うるさい! お前は悪だ! 悪を倒す事は復讐じゃない!」


壊れたか。


すでに自分が何を言ってるかもわかってないらしいな。


尤も、俺の方が壊れてるのだろうが。


戦術も型もなく、我武者羅に剣を振り回しながら突っ込んでくるリューガの足を払って転倒させる。


リューガの剣を蹴り飛ばし、起き上がろうとする奴の胸を足で踏みつけて押さえ付ける。


「殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!」


呪詛の様に繰り返されるリューガの声。


その声を聞きながら、踏みつける力を徐々に増していくと〝ベギベギッ〟と胸骨が折れる音がして足に伝わる抵抗が小さくなった。


「がふっ・・・ごろじて、やる・・・ろじ・・る・・・・・・」


折れた骨が肺に刺さったな。


血を吐き、苦痛に顔が歪み、俺を睨み付ける目からは光が失われていく。


「・・・・・・・・・」


リューガの動きが止まり、その目から生の光が完全に失わなれた事を確認した俺は、ようやくその胸から足を離した。


周囲を見渡せば、まだ殺してなかった冒険者達は逃げ出したらしく、俺以外に生きた者はいなかった。


逃げた所でこの街からは出られない。


俺は生き残った者達を狩るべく、再び街の中を歩き始めた。

6/8 ジャンル:ヒューマンドラマにて[文芸]週間で1位、月間で2位を頂きました。


えーっと、嬉しすぎてコメントが見つかりません。

読者様方の応援のおかげです。

本当にありがとうございます。


こちらのランキング上昇につられたのか、“忌み子と呼ばれた召喚士”の閲覧数も上がっててビックリしました。

誤字や設定ミスが指摘されてましたが(笑)


お時間があれば、評価や感想を書いて頂ければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] >悪を倒す事は復讐じゃない その理屈だと勇者に救われた者や信奉してる者はすべからく「罪人」だから“裁く”のは罪じゃないんだよね なにせアインにとって勇者は“この世の全て”を奪った「大罪人」な…
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