嫁が勇者に寝取られたので盗賊団を滅ぼします
前回のあらすじ
最愛の嫁を勇者に奪われ、失意の底に沈むアイン。
真実を知ったアインの憎悪に惹かれてやってきた悪魔と称するウルゴスと契約し、その力を得たアインは世界への復讐を決意する。
復讐の序章として自らが生まれ育った村を滅ぼした彼は、勇者を探す旅を始めたのだった。
〝ドゴオオォォンッ!! ガラガラガラガラ━━━〟
凄まじい音と衝撃が周囲に響き渡る。
俺自身の十倍以上はあった巨大な岩が砕け散った音だ。
「やっぱりか。明らかに腕力が上がって・・・いや、腕力だけじゃないな。五感まで鋭敏になってやがる」
俺の身体能力は、村を滅ぼした時よりも明らかに向上していた。
『それが俺様の力、〈霊魂吸収〉。自分が殺した生物の魂を喰らい、吸収して、自分を強化していく能力だ。難点は喰ってから能力に反映されるまでに多少なり時間がかかるって事だな』
「飯と同じで、喰らってから消化、吸収するまでに時間が必要って事か。しかし、早く強くなれる事に違いはない。ホント、良い能力を貸してくれたよ」
『急激な身体能力や五感の向上は良い事ばかりじゃないぜ? 今までの感覚の違いから、致命的なミスを犯す可能性は低くはない。注意しておくんだな。とは言っても、今回みたいに急成長する事は滅多にないだろうが・・・』
ウルゴスの忠告に耳を傾ける。
なるほど。
身体能力の大幅な変化による知覚の狂い、か。
確かに注意しておいた方が良さそうだな。
強くなって殺されるなんて笑い話にもならない。
『大きく力を増す機会は三つある。一つ目、自分に近しい者の魂を喰った時。二つ目、契約によってお前に縛られた状態の魂を喰った時。三つ目、これはほとんどないだろうが、自らがお前の糧となりたいと望んでいる者の魂を喰った時だ。今回、お前は自分の両親の魂を吸収したから、一つ目にあたる訳だな』
「・・・契約ってのは?」
『本来であれば三つ目の条件を満たした魂を喰った時が最も大きく力を増すんだが、生物である以上、自ら喰われたがる奴なんていないと言っていい。だから契約によって魂を縛り、強制的に従わせる事で三つ目の条件を満たした状態に近付けてやる訳さ。契約自体は俺様がやってやるから、心配しなくていいぜ?』
「わかった。その時は頼む」
無差別に命を奪っていくだけじゃなく、機会があれば契約する事も検討していこう。
遠回りになったり手間がかかるようならやるつもりはないが。
どの道、力を蓄える為には多くの魂が必要という事だな。
* * * * * * * * * * * * * * *
日が暮れ、辺りが暗くなってきたので、睡眠をとる為に大きな木に登り、太い幹と枝に身体を預ける。
襲われた所で返り討ちにしてやればいいのだが、その満身の積み重ねで身を滅ぼす事になるかもしれない。
復讐を遂げた後ならどうなろうと構わないが、それまでは油断なく生きていくのが良いだろう。
目を閉じて、周囲に生息する動物や魔物の気配を探りながら浅い眠りにつこうとした俺の耳に、金属同士が打ち合うような音が聞こえてきた。
この辺りに生息する魔物達は、知性を持たない。
ゴブリンやコボルトなら剣くらいは使うかもしれないが、同族で争う事は考えにくい。
よって、かなり高い確率で人間と魔物が、又は、人間同士で争っている事になる。
ウルゴスから教わった条件を満たした魂と、無差別に殺した魂の違いを確めるいい機会だな。
身体を預けていた大木から飛び降りた俺は、戦闘音の聞こえてた方角に向かって走り始めた。
走り始めてから然程もせずに、戦闘が行われている場へと到着した。
どうやら争っているのは人間同士らしい。
片方はどう見ても盗賊だな。
もう片方は・・・、冒険者か。
冒険者達は三人組で、対する盗賊達は十人程。
純粋な力量では冒険者達の方が勝っているが、盗賊達は冒険者達を取り囲んで距離をとり、じわじわといたぶるような攻撃で消耗させているな。
このままだと冒険者側はもうすぐ力尽きるだろう。
どうせ死ぬんなら、盗賊共々俺の糧になってもらおうか。
そう決めた俺は、すぐさま一人の盗賊の背後へと移動し、一瞬で首の骨をへし折った。
身体の力が抜け、その男は糸の切れた人形の様に崩れ落ちる。
「な、何だテメェは!? こいつらの仲━━━ガッ!?」
詰め寄ってきた男の首を、首の骨を折った盗賊が持っていた剣で無造作に突く。
「自分の仲間が殺されたのにお喋りか? 随分と悠長な事だな」
剣を抜いてやると吹き出した鮮血が所構わず降り注いだ。
あと、八人。
「アンタ達、コイツらは俺が片付けるから、自分達の身だけ守ってろ」
せっかくの糧だ。
わざわざくれてやる必要はないだろう。
「わ、わかった! 救援感謝する!」
尤も、盗賊共を片付けた後はアンタ達の番だがな。
冒険者達に話し掛けながらも、いきなり仲間を二人も殺されたショックから立ち直れていない盗賊共を斬り裂いていく。
盗賊達を半数程に減らした所で、奪った剣が血脂で斬れなくなってきたようだ。
そのまま捨てるのも勿体ないので、適当に投げ付けておく。
運良く(いや運悪くか?)刺さったみたいだな・・・頭に。
あと、四人。
どう見ても戦意喪失してるようだが、逃がすつもりは毛頭ない。
完全に及び腰の連中に向かって、無防備を装いわざと隙を見せて歩み寄る。
「う、うおおおおおっ!」
「し、死ねぇぇえっ!」
やはり正常な判断が出来なくなっているらしく、偽装に釣られた二人が斬りかかってきた。
斬りかかってくるタイミングも大きくズレている。
手前の男の行動に引っ張られたって所か?
避ける事は難しくないが、敢えて一歩踏み込み、初撃に力が乗る前に男の手首をとって握り潰す。
痛みに堪えかねて手放した剣をそのまま奪い、後から斬りかかってきた奴に向かって突き飛ばしてやると、お互い避けきれずに衝突。
大きくバランスを崩し、絡み合うように倒れこんだ。
「うぐっ」
「い、いてぇ・・・」
重なって倒れている上の方の男の首に目掛けて、剣を一振り。
目の前で噴水の様に吹き出した血を浴びて、言葉を失った下の男の首に狙いをつけて、そのまま一突き。
あと、二人。
剣を引き抜きながら視線を移すと、残った盗賊の片方が背を見せて逃げている姿が目に入った。
もう片方は腰が抜けてしまっているらしく、座り込んだまま動かない。
逃げた方の男を追い掛けてみる。
・・・全力で。
結果、かなりの距離があったにも関わらず、数秒とかからずに追い付いてしまった。
驚愕に目を見開く男の武器を叩き落とし、後ろから首を掴んで持ち上げる。
「は、はなせぇっ!」
何とか逃れようとジタバタ足掻く男だったが、その程度でどうにかなる腕力ではない。
だが、どうしても離して欲しい様だから、希望通りに解放してやる事にしよう。
逃げる為に俺から距離をとりたいだろうから、出来るだけ遠くに放り投げてやる。
「う、うわあああああ━━━ちゅべっ!?」
男を投げた先に偶然にも硬い岩壁があったらしく、潰れたトマトの様になってしまった。
あと、一人。
「ひ、ひぃ!? 許してくれ! もう抵抗しない! 逆らわない! 大人しく捕まる! 二度とこんな事はしないと約束する! あんたの奴隷になってもいい! だから、命は! 命だけは見逃してくれぇ!!」
盗賊達の返り血で赤く染まったまま悠然と戻ってきた俺を見て、最後の男は恥も外聞もなく命乞いを始める。
聞き入れるつもりはないが、な。
「や、やめ━━━ぎゃあああああああああっ!!」
盗賊達の方はこれで終わりだ。
片付いた所で、少し距離をとっていた冒険者達が近寄ってくる。
・・・さて。
「あ、ありがとうございます! 危うくやられてしまう所でした」
「救援感謝します。正直もうダメだと思ってました」
「本当に助かりましたよぉ。おにーさんは強いんですねぇ」
お前達は、どうやって殺して欲しい?
ジャンル:ヒューマンドラマ[文芸]にて日間ランキング2位、総合でも170位を頂きました。
まだ一話しか投稿してないのにこの反響・・・。
すでにメインのはずの“忌み子と呼ばれた召喚士”を越えてしまい、喜べばいいのやら落ち込めばいいのやら複雑な心境です。
応援して頂いた読者様方の期待に応えられるかはわかりませんが、手を抜かず執筆に取り掛かりたいと思います。
お時間があれば、評価や感想を書いて頂ければ幸いです。