嫁が勇者に寝取られたので崩壊の序曲を奏でます
前回のあらすじ
ついに自分の手で勇者を殺したアイン。
しかし憎悪に侵されたアインは、勇者を自由にするつもりは更々なかった。
勇者を生き返らせ、奴隷人形に仕立てあげたアインは━━━
侵入した窓から屋根へと跳び移り、街の様子を伺う。
街の住人共は勇者の言葉に律儀にも従っているらしく、教会の周辺にはいないようだ。
だが、王国の兵士達はその限りではないらしく、陣形を整え、教会の方角を警戒しながらじりじりと接近してきていた。
(準備は整った。最早、嫁のいない世界に未練の欠片もない。この世界に生きる者達には、勇者を苦しませる為に利用させて貰う。まずは、この国からだ)
兵士達が教会の入り口が視界に入る距離まで到達すると、その扉を開けて勇者が姿を見せる。
その姿を捉えた兵士達が、駆け足で近寄っていく。
「おぉ! 勇者様、御無事でしたか! 協会には近付くなとの御指示でしたが、逃げてきた男に勇者様の危機と聞いて居ても立ってもいられず、こうして駆け付けた次第であります!」
恐らく兵士長と推測出来る男が安堵の笑みを浮かべて前に出るが、勇者は動かない。
『よぉアイン。ま~た面白そうな事やってんなぁ』
ウルゴス、前にも言ったが、お前を楽しませる為にやってるんじゃない。
この国の奴等が・・・この世界に生きる奴等があいつを勇者などと持て囃さなければ、嫁を失う事はなかったかもしれない。
魔王軍にしてもそうだ。
奴等が侵攻など企てず、大人しくしていれば勇者の存在は必要なかったんだ。
だから、滅ぼす。
勇者、人間、魔族、この世界に存在する奴等、全てを。
『つくづくお前は俺様好みだねぇ。嫁さんを失った時に自暴自棄になったのはちっとばかしマイナスだったが、勇者の野郎を殺すだけで満足せず、憎悪の炎を燃やし続けるのはポイント高いぜぇ?』
勝手に楽しむだけなら好きにしろよ。
そうこうしている内に、兵士長は無警戒のままに歩み寄っていく。
対する勇者は俯いたまま、反応を返さない。
俺が勇者に出した命令は二つ。
ひとつは「話すな」。
そしてもうひとつは━━━
「いやぁ、流石は勇者様。見た所、傷ひとつ負ってないようで。我々の救援など必要ありませんでしたな! わっはっは━━━」
豪快に笑っていた兵士長の首が、宙を舞う。
勇者が剣を鞘から抜いた勢いのままに兵士長の首をはねたのだ。
その首が浮かべる表情に変化はなく、笑いながら血飛沫を撒き散らす光景は狂気じみていると言えるだろう。
「え、は・・・ゆ、勇者、様?」
兵士達には、笑顔で転がる上司の生首が自分の足下に転がってきても、状況が理解出来ないらしい。
しかし、俺の命令通りに動く今の勇者には、そんな事は関係ない。
二人目の首が飛ぶ。
「ゆ、勇者様! 一体何を!?」
「乱心なされたか!?」
ようやく事態を把握した兵士達は動揺しながらも槍を構えて対峙し始めるが、曲がりなりにも魔王軍の幹部達と互角以上に戦い、勝利する程の実力を持つ勇者に対抗出来るはずがない。
瞬く間に、為す術もなく斬り殺されていく仲間の姿を見て、兵士達は恐怖の感情に侵食されていく。
「う、うわああああああっ!!」
誰が発したのかわからないその叫び声を皮切りに、周囲を取り囲んでいた兵士達は逃げ始め、勇者の動きが加速する。
二つ目の命令は・・・「命ある者を殺せ」。
今の勇者は無言で殺戮を繰り返す意思のある人形だ。
自分が積み上げてきた信頼や絆・・・それを自分で壊していくのはどんな気持ちだ?
俺が嫁を手に掛けた絶望に及ぶべくもないが、僅かにでも味わってもらおう。
そして、もうひとつ。
勇者に斬り殺された兵士長の死体が、ゆっくりと起き上がる。
周囲に散らばる兵士達の死体もそれに続き、ふらふらと何かを追い求めるように彷徨い始めた。
ふと、死体のひとつが進行方向を変え、一件の民家へと入っていく。
「ひっ!? あああああああああっ!!」
「お父さんやめてぇぇえっ!!」
少し間を置いて聞こえてきたのは、女と子供の悲鳴。
「や、やめろぉおっ!」
「うわあああああっ!?」
次第に、絶叫と悲鳴が王都を支配する。
恐怖と混乱に侵された住民達が逃げ惑うが、勇者を始め、起き上がった死体達に次々と殺されていく。
〈崩壊の連鎖〉、俺が勇者に仕込んだ魔法。
この魔法をかけられた者に殺された者は、自身に関係のある者に襲い掛かる亡者と化す。
そして、その亡者に殺された者も同様に、生前の関係者へと襲い掛かるのだ。
つまり、ひとつの死が、世界の崩壊を招く。
『えげつない魔法を使ったもんだぜ。生まれた瞬間から他人との関わりが皆無な奴なんざいねぇ。少なくとも血の繋がりはあるからな。おまけに勇者の野郎が無差別に殺して回るから、その範囲から逃れる事はほぼ不可能、か』
僅かな時間で、王都は地獄と化した。
事態の鎮圧に乗り出した王国軍だったが、増え続ける亡者達の前に、僅かな抵抗のみで倒されていく。
亡者を倒せるような強者には勇者が襲い掛かり、王族を含めた住民が死に絶えるまで、一日もかからなかった。
王都の外へ逃げようとした者は、足の腱を切って街中に放り込んでおいた。
今頃は亡者の仲間として這いずり回っている事だろう。
* * * * * * * * * * * * * * *
王国が滅亡した所で、勇者に与えた命令を解除した。
「僕じゃない・・・僕がやったんじゃない・・・操られてたんだからしょうがないだろ・・・そんな目で僕を見るな・・・僕は勇者なんだぞ・・・何で僕がそんな目で見られないといけないんだ・・・やめろ・・・やめろやめろやめろぉぉおっ!!」
虚ろな瞳で虚空を見つめ、ぶつぶつと呟きながら何かに怯えるように身体を震わせている。
存外精神は脆いんだな。
あの程度でここまで壊れるようなら、次かその次あたりで精神崩壊を起こしそうだ。
自分の本性を隠して善人と見られたかったこの男には、不特定多数の恐怖と嫌悪、憎しみに満ちた視線はさぞ辛かった事だろうな。
だが、まだまだだ。
お前を起点にして、この世界を滅ぼしてやる。
次の街へと向かう前に、外壁の扉を開いておこう。
死を運ぶ亡者の群が、外へ解き放たれた。
【悲報】まとめ方が下手すぎる件
何か終わるつもりがなかなか終われなくて困ってます。
書き始めた頃はあっさり終われる予定だったんだけどなぁ・・・。
さて、肉体的には割とあっさり死んでしまった勇者(笑)ですが、精神的に痛め付けようという案に至りました。
勇者(笑)のような承認欲求を満たしたい人間にとって、不特定多数から、それも自分の意思ではない事が原因で恨まれる事は堪えられないはず。
ただ身動きとれないようにして拷問というのも味気ないですしね。
(奴隷人形となってるのでいつでも痛め付ける事は可能ですが・・・)
次回には終われるといいなぁ(´・ω・`)
お時間がありましたら、感想や評価を頂けますと幸いです。




