嫁が勇者に寝取られたのでその肉体を滅ぼします
前回のあらすじ
嫁の魂を吸収し、圧倒的な力を得たアイン。
その力を持って勇者を完膚なきまでに叩きのめし、四肢を破壊する。
敗北を認め、全てを諦めた勇者の口から出てきたのは、自身が転生者だという突拍子もない話だった。
「まずは・・・〈崩壊の牢獄〉」
禍々しいオーラを放つ檻を再度出現させる。
しかし今度は防御の為ではなく、その対象は勇者。
「あ、がっ・・・! い、いたぶり殺すつもり? 相当、性格が悪い、ね」
お前にだけは言われたくないな。
すでに四肢のない勇者に〈崩壊の牢獄〉を抜け出す術はなく、手足を使って接地面を減らす事も出来ない為、世間からすれば美丈夫と見られるであろう顔が無惨に焼き爛れていく。
勇者へ苦痛を与える他に別の目的もあるのだが、今はいいだろう。
「こ、このまま僕が力尽きるまで、待つつもり? そんな余裕、見せてて大丈夫、かな」
そんな楽な死に方、させるつもりはない。
「そんな訳ないだろう?〈崩壊の針地獄〉」
「いぎゃああああああああああっ!」
魔力で構成された無数の針が突き刺さり、まるで針鼠のようになっていく勇者の絶叫が癇に障る。
「この程度で騒ぐな。嫁が受けた苦しみは、こんな物じゃないぞ」
「あ、がが・・・あん、べ? 」
何故〈崩壊の牢獄〉の中に魔法が届くのかわからないといった表情だな。
確かにあらゆるモノの遮断する〈崩壊の牢獄〉だが、それは俺の魔法だ。
〈崩壊の牢獄〉に魔力を送り込み、その魔力を操作して檻の内部へ魔法を放つ事は可能なんだよ。
そして、“いたぶる”という表現は的外れだ。
〈崩壊の牢獄〉も〈崩壊の針地獄〉もお前の存在を確実に滅ぼす為に必要な措置に他ならない。
「ギ・・・ぁ・・・」
俺の魔力が続く限り半永久的に効果が続く二つの魔法の前には、勇者の高い自己治癒能力も焼け石に水・・・むしろ下手に回復している分、ない方がマシかもしれない。
そう、〈崩壊の針地獄〉は自己治癒能力を抑える為の布石。
傷口全てに針が刺さっていれば、元通りになる事もない。
「・・・ぁ、ぅ」
「もう、まともに喋れないか」
僅かに痙攣するだけまでに弱り、生と死の境を彷徨う勇者を見下ろしながら手を翳す。
「〈崩壊の劫波動〉」
魔力を〈崩壊の牢獄〉へと流し込み、その内部に〈崩壊の劫波動〉を放つ。
だが、強大な破壊力を持つ〈崩壊の劫波動〉であろうと〈崩壊の牢獄〉を破壊する事は出来ない。
結果、それは牢獄内部で乱反射し続ける事となり、勇者の身体を跡形もなく消し飛ばした。
『う~ん、やっと死ねたか。ちぇ、最後の最後に痛い目に会っちゃったな。全く・・・村人の癖にあんなに強いなんて反則だよ』
ついさっきまで勇者の身体が存在していた場所から、声が聞こえる。
『まぁいいや。あそこに呼ばれる前に、次に転生する世界の希望でも考えとくかな』
そこに生物の気配は感じられず、その姿を視認する事も出来ない。
『勇者・・・は飽きちゃったし、魔王とか面白そうだよね。気に入った女の子がいたら無理矢理ヤっちゃえばいいし。あー、でも毎回それだと飽きるのも早そうだよなぁ。魔族に可愛くて従順で僕に惚れてる部下がいるようにして貰おうかなぁ』
だが、その虫酸が走る声音の持ち主は、一人しかいない。
「随分と、楽しそうだな」
『勿論だよ。やっぱり設定考えてる時が一番楽し・・・えっ、何で!?』
表情こそ見る事は出来ないが、明らかに慌てている様子が声色から伝わってくる。
『うわああああああああああっ!?』
突如、胸糞悪い絶叫と共に〈崩壊の牢獄〉の一部が至極色にスパークする。
恐らくこの場から逃げ出そうとして〈崩壊の牢獄〉に触れたのだろう。
〈崩壊の牢獄〉はその特性上、あらゆるモノを通さない。
物質も、魔法も、そして・・・魂すらも。
「お前の話を聞いて、むざむざ逃がしてやるとでも思っていたのか?」
お前の魂を逃がさない為に、自分の手で殺したい衝動を抑えてまで魔法で止めを指したんだ。
それに、ただ殺しただけでは勇者の魂を取り込む事になってしまう。
俺の中に取り込むというだけでも我慢出来ないが、すでに嫁の魂が融合しているのだ。
その中に勇者の魂を取り込むなど、冗談ではない。
『こ、これ以上何をするつもりだよ!? もういいだろ? 僕は十分に報いを受けたじゃないか!』
「十分、だと・・・?」
本当に、人の神経を逆撫でする野郎だ・・・!
「お前が死ぬ程度で、嫁にしてきた事が償える訳ねぇだろうが!」
『ヒッ!?』
すでに何の力も持たない勇者は、ただの恫喝に過剰過ぎる程怯えている。
「安心しろ。お前にはまだやらせたい事が残ってるんだ。それが終わるまでは消さないでおいてやるよ・・・〈霊魂の演操〉」
『あ・・・ぐ・・・何、が? 動け、ない?』
精神体である霊魂に干渉し、意のままに操る魔法だ。
神とやらに貰った強靭な器は消滅し、脆弱な魂だけとなった勇者に、抗う術はない。
「〈不滅の傀儡〉」
続けて、勇者と寸分違わない外観の人形を魔力で構成した。
最後に、〈崩壊の牢獄〉を解除し、俺の支配下に置かれた勇者の魂に、命令を下す。
「さぁ、お前の新しい身体だ。“入れ”」
『い、いやだ! イヤだああああああああっ!』
これから始める事がわかっている訳ではないだろうが、俺の言葉に危機感を覚えたらしい勇者は拒絶の叫びをあげる。
しかしその抵抗も虚しく、〈不滅の傀儡〉の眼に濁った光が宿った。
「ぐっ! この!!」
即座に身体を動かそうと・・・恐らくは俺に攻撃を仕掛けようとしたのだろうが、動くのは目と口ばかりで身体はピクリとも反応しない。
〈霊魂の演操〉の干渉を受けているのだから当然だが。
「気は、すんだか?」
「さっさと解放しろよ! 僕は早く次の世界に行きたいんだ!」
どうやら、まだ立場がわかってないらしいな。
「おぐっ!?」
直立不動の腹を目掛けて膝蹴りを入れてやる。
防御も回避も許されない勇者人形は、倒れ込む事も出来ずに苦悶の表情を浮かべた。
〈不滅の傀儡〉には普通の人間と変わらない感覚が備わっている。
更にはどんな致命傷を受けても、致死量以上の毒物を摂取したとしても、俺の魔力が尽きるまで死ぬ事のない不死性も備えているのだ。
「気は、すんだか?」
「ふざけんなよ! 何でこん━━━ガッ!?」
無言で拳を叩き込む。
「気は、すんだか?」
「冗談じゃ━━━げぅ!? かはっ!?」
殴る、蹴る。
「気は、すんだか?」
「わ、わかったからやめ━━━」
殴る殴る殴る蹴る殴る殴る蹴る蹴る殴る蹴る殴る殴る蹴る殴る蹴る蹴る蹴る蹴る踏む蹴る蹴る蹴る蹴る踏む蹴る踏む蹴る蹴る潰す蹴る踏む蹴る蹴る蹴る潰す蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る・・・。
「気は、すんだか?」
「は、はひ・・・も、申ひ訳、ございまへんでひた」
いい返事だ。
これで、勇者の生殺与奪は俺の手の中。
「お前には、この世界を滅ぼす引き金になってもらう」
さぁ、始めようか。
終わりませんでした(土下座)。
話中にも書いてますが、ただ殺しちゃうと勇者の魂吸収しちゃうんですよね。
勇者に完勝したので次話は蛇足になる気がしないでもないですが、まだまだ勇者には苦しんでもらう予定です。
その後はアイン君かな?
作者の技量によりますが、後一~二話程続きそうです(二回目)。
お時間がありましたら感想や評価を頂けると幸いです。




