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嫁が勇者に寝取られたので反撃を開始します

前回のあらすじ


勇者の凶刃から身を呈してアインを守った嫁。

どうにかして嫁を助けようとするアインだったが、彼女はアインの手で死なせて欲しいと願う。

彼女の願いを聞いたアインは涙を流し、最期の口付けを交わしながら、愛する人の胸を貫いた・・・。

穏やかな表情で永久の眠りについた嫁と、その血に塗れた自分の右手を茫然と眺める。


俺は、屑だ。


嫁から拒絶される事を恐れてこれまで自分がやってきた事を隠し、何より大切な人を、誰よりも愛する嫁を、自らの手で殺した。


それだけではなく、もう二度と彼女が誰かに奪われる事はないと、安堵すらしている。


自分自身が、おぞましい。


吐き気を催す程に・・・。


〝パチ、パチ、パチ、パチ〟


気の入っていない拍手の音がした方向に視線を向ければ、生き残った二人の戦乙女を従えた勇者(クソ野郎)がゆっくりと歩み寄ってきていた。


「いやぁ、中々面白い茶番劇でしたよアインさん。これ、演劇にでもしたら王都で流行るんじゃないかなぁ。演出家にでもなったらどうですかね?」


いつの間にか、〈崩壊の牢獄(コラープスプリズン)〉は消えていたらしい。


見下した視線と共に挑発してくるが、嫁を失ってしまった俺には最早どうでもよく思えた。


「無視なんて酷いなぁ。もっと僕を楽しませて下さいよっ!」


横っ面に衝撃が走ると同時に、地面に倒れ伏す。


どうやら、蹴られたようだ。


「どうしたんですか? 彼女を殺したのは僕ですよ? さっきまでの殺意はどこに行ったんですかぁ? あっははははははっ!!」


高笑いしながら俺を蹴り続ける勇者(クソ野郎)だが、起き上がる気力すら湧かない。


然程、痛みは感じなかった。


嫁を失ったショックで、感覚が麻痺してしまったのだろうか。


それとも勇者(クソ野郎)が俺をいたぶる為に、わざと加減しているのだろうか。


「これでも反応なし、か。つまらないなぁ」


ピタリと高笑いをやめた勇者(クソ野郎)から髪を掴まれ、無理矢理に顔を上げさせられる。


あれ程憎かったはずなのに、今はもう、何の感情も湧いてこない。


「ま、元々ただの村人だし、こんなもんか。久し振りにちょっと楽しめたのになぁ」


戦乙女から剣を渡された勇者(クソ野郎)が、俺の喉元にそれを突き付ける。


「・・・早く、殺せ」


「そうですね。彼女も死んじゃったし、腑抜けたアインさんを生かしておいても楽しめそうにないし、もういいかな」


剣が僅かに喉元に食い込み、血が流れる感触がする。


「ま、彼女は僕を庇って貴方に殺された、という事にでもしておきますよ。ピンチの勇者を庇って死んでしまう想い人。彼女が身を呈して僕を守ってくれたお陰でアインさん()を倒す事が出来た・・・いかにも大衆が好きそうなシチュエーションで━━━」


瞬間、勇者(クソ野郎)の片腕が飛んだ。


「ひぎゃああああああああああああああああああっ!!?」


否、俺が斬り飛ばした。


側に控えていた戦乙女が慌てて引き剥がそうとしてくるが、腕を無造作に振り払うだけで首から上が消失する。


「嫁のいない世界で、生き続けるつもりはない」


勇者(クソ野郎)の胸元を掴みながら、立ち上がる。


「嫁のいない世界で、お前がどう振る舞おうがどうでもいい」


痛みに顔を歪ませている勇者(クソ野郎)を、自分の正面に見据える位置まで引き寄せる。


「だがな・・・嫁を奪ったお前が、嫁の存在を汚す事だけは許さん!」


「あがっ!? ぐぅ・・・」


勇者(クソ野郎)の腹部に全力で拳を叩き込むと、開いた口から血の混じった涎を垂らす。


貫通するまでには至らなかったが、拳に伝わった感覚からしていくつかの内蔵が破裂しただろう。


最後の戦乙女が勇者(クソ野郎)を助け出そうと襲い掛かってくるが、繰り出される槍撃はやけに遅く感じられた。


その攻撃を片手で難なく受け流すが、気が逸れた一瞬の隙に勇者(クソ野郎)の脱出を許してしまう。


「ひゅぁー・・・ひゅぁー・・・」


呼吸もままならないのか、喉元を押さえて苦しむ勇者(クソ野郎)を守るように立ちはだかる戦乙女。


盾を構えて俺の攻撃に備える戦乙女だったが、吹き飛ぶどころか上半身と下半身が泣き別れる事になった。


勇者(クソ野郎)も、戦乙女も、ここまで(もろ)かったか・・・?


『忘れたのか? その急激なパワーアップは、お前が嫁さんの魂を吸収した事によるもんだ。俺様と契約した奴は過去にもいたが、第三項を満たした奴はお前と嫁さんが初めてだよ』


そうか・・・俺は嫁の魂まで奪い、縛り付けてしまったんだな。


計り知れない罪悪感が沸くと共に、心の中に今までにない暖かさを感じた。


それは勝手な思い込みなのだろうが、嫁の魂は確かに俺の中にある。


そんな事を考えながら、淡々と作業を進めるように勇者(クソ野郎)の残った四肢を潰し、砕き、引き千切っていく。


周囲に響き渡る悲鳴が心地好い。


当然反撃もあったが、回避するまでもない弱々しいモノばかりだった。


勇者(クソ野郎)には高い自己治癒能力が備わっているらしいが、今回はそれが仇となっている。


欠損した四肢を瞬く間に再生するまでには及ばないらしく、切り口が塞がり、血が止まる程度だ。


やがて達磨となった勇者(クソ野郎)は、もぞもぞと(うごめ)きながら、自嘲気味に笑い始める。


「あははは。負け、ちゃった・・・か。そんな力を隠してただなんてズルいなぁ」


「・・・随分と余裕だな」


そう、すでに四肢はなく、自力で動く事すら出来ない割には勇者(クソ野郎)に余裕が見られる。


まさかとは思うが、この状況から逆転する術が残っているのか?


「あぁ、心配しなくても大丈夫。この戦いはアインさんの勝ちで終わりだよ」


訝しげに様子を伺っている事に気が付いたのか、勇者(クソ野郎)はクツクツと笑いながら話し始めた。


「この際だから教えてあげるよ。僕はね、この世界の住人じゃないんだ」


「そんな与太話を信じるとでも思うか?」


死に恐怖するあまり気でも狂ったか?


「いやいや、それが本当なんだよ。何か神様の手違い?って奴でさ、前に生きてた世界で死んじゃったんだよね。で、この世界に転生させてもらってさ、好き勝手に生きていいって言われたからその通りにしただけなんだ」


「だから何だ? まさかその神様のせいだから許せとでも言うつもりか?」


聞くに値しない話だ。


が、もしその話が本当だとするならば、全ての元凶はその神様・・・いや、神という事になる。


「別に命乞いをするつもりはないよ。だって、その神様との約束で、死んだとしても生き返るんだもん。この世界とはまた、別の世界で、ね」


醜悪な笑みだ。


こいつの余裕は死んでも生き返らせて貰える確信があっての事か。


「さ、早く殺しなよ。もうこの世界にも飽きてきた所だったしさ。村人に殺されてってのは納得いかないけど、次の世界ではもう少し上手くやるさ」


こいつはすでに自身の生を諦めている・・・いや、元から執着していないのか。


だから死への恐怖は感じていないし、死んでもいいとすら思っている。


つまり━━━


「つまり、お前の魂そのものがなくなれば、生き返る事は出来ないって訳だな?」


「・・・え?」


俺の前で、その話(転生した話)をしたのは、失敗だったな。

復讐に入るつもりが入れなかったです。

四肢潰した程度では復讐に値しませんよね!(錯乱)

次回は勇者に地獄すら生温く感じる絶望を味わって頂きましょう。


お時間がありましたら感想や評価を頂けると幸いです。

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