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これはひょっとして、いけない命令もアリなのか

 俺が「ちょっと私用で出てくる」と言うと、当然のように神野碧も「わたしもついていくわ」と申し出てくれた。


 俺は自分の私用がどんなものかバレるのを警戒し、当初は断ろうとしたが。


 しかし、ここで留守番している間に、神野になにか不慮の事故でも起きると困る。シャドウを置いているし、なにかあっても対処できるはずだが、なにしろこの子は狙われやすいだろうからな。



 それに、一つ気付いたことがある……よくよく観れば、この子には各種ゲージの他、赤いボタンのようなものも見えるのだ。



 左肩の少し下、心臓より少し上辺りに。

 観ようと思って注目すると、より鮮明に見える。


 ……これ、押したらどうなるんだ? まさか死にはすまいと思うが……人目のあるところで試すのはちょっとな。 

 そういや、ボタンについてなにか昔設定した気がするが、覚えてない。

 小学生の頃だし。


 試すにしても、せめて人目のないところじゃないと、まずいだろう。

 なので、俺はあえて断らず、二人で適当な自転車を選んで、学校を出た。





 自転車のライトに照らされる街は、想像以上に冷静さを失っていた。

 停電のせいで明かりのついている家はほぼ皆無だし、街灯も点灯していない。

 標準より遥かに明るい月明かりのお陰不自由はないが、家にいると真っ暗なせいか、住人達のほとんどが屋外へ出て、でたらめに動き回っていた。


 ただ、駅近くの広場で悲鳴やらが微かに聞こえるので、城から来た別働隊は、おそらくそっちに集結しているだろう。

 噂が伝搬して、既に騎士団の襲撃は皆の知るところとなっているのか、そろそろ住人達も、パニックに陥りそうになっている。




「神野は、家の方は大丈夫なのか?」


 どうせうちは一人暮らしなので、自転車で併走する神野に訊いてやったが……訊いた瞬間、なぜか神野は大きく息を吸い込んだ。


「どうした?」

「いえ……なんだか、両親の顔がすぐに思い出せなくて」


 頭が痛むという様子で、額に手をやる。


「どこか怪我してないよな」

「平気、そういうのはないの」


 感謝の目つきで低頭し、神野はようやく微笑んだ。


「よく考えたら、うちの家族はみんな海外出張だから」

「そうか、無事ならいいんだ」


 俺は愛想よく頷いたが、実は疑問に思っている。

 とっさにそういう事実が出て来ないっていうのは、少しおかしくないだろうか。

 まさかこの子、本当に俺が創造した子じゃないだろうな……。

 自転車漕ぎながらチラチラ見ていると、今度は逆に神野が尋ねてきた。


「すぐに城崎君の家に向かうの?」

「いや。まずは広場の方が先だな。連中が何名いるか確認して、学校の方と同じく、対処しないと」




 

 半時間後――俺達は無力化した騎士達を住人の手に委ね、広場を後にしていた。

 どういう基準で人数を振り分けたのか知らないが、こっちに来てた連中は学校の方より遥かに数が少なく、制圧するのが容易だったのだ。


 俺が住人達から気味悪がられたのは同じだが、ただ、学校よりは物わかりのいい連中が多く、ロープを持ち出して騎士達を縛るまで、想像以上にスムースにコトが運んだ。

 こちらはこちらで、当面、住人のうちの有志に任せるしかない。


 俺としては、小学生の頃に綴ったノートを見つけるまで、安心できないからな。

 願わくば、当時の俺が書いた創作ノートがちゃんと残っていて……しかも、向こう十年分くらいの未来がきっちり書かれていますように。




 一人で住んでいるマンションに着き、俺は三階までの階段を上がる。

 暗いのはわかっているので、途中のコンビニで懐中電灯を拝借してきた。そろそろあそこも略奪の対象になりかけていたので、先んじておにぎりやらパンやらも持ち出してきたりして。


 罪悪感は多少あるが、どうせ放置すれば他の奴が持ち出すだけだ。


「暗いから、足元気を付けてな」

「大丈夫、ありがとう」


 嬉しそうに礼を述べた神野に笑いかけた瞬間、俺はさっと手を伸ばして、胸の赤いボタンを押した。

 試すなら、ここが一番だろう……まさか本人に「神野のボタンを押したい」と申し出るわけにもいかないし、不意打ちは勘弁してもらうしかない。


 なにが起きるか緊張して身構えたが、神野はただ、ぼんやりと立っているだけだった。

 ……しかし、一切の予備動作なしに、いきなり脱力したように見えたぞ。




「ええと、神野?」

「……はい」


 返事があってほっとしたが、神野の瞳は俺の目を見ているようで、どこか茫洋としていた。

 まさかこれ――命令待機状態とか、そんなのか?


 俺がふとそう思ったのは、昔の設定を少し思い出してきたためかもしれない。

 まあいずれにせよ、真実はすぐ確かめられる。


「右手を上げてみて」


 おおっ、黙って右手を上げたじゃないか!

 なんか異様に心臓がドキドキしてきたが、これはひょっとして、いけない命令もアリなのか。


 い、いや、そんな命令しないけど……しないぞ、うん。



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