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布を被せたあの下には、出ていった先生達の首と、後を追った田沼達の首が積まれているはずだ

 放送を終えた俺は、神野と打ち合わせをした後、予定通り、一人で宿直室へ移った。


 ここから先が予想通りに行かなかったら、全てはご破算だったが……幸い、そうはならなかった。

 窓の外を見張るうち、一時間もしないうちに、本当に連中が来た。


 騎士の格好した連中ばかり、およそ百騎。当然、補給や従卒などの戦闘員以外の者も大勢いる。そいつらを含めれば、倍以上になるだろう。


 なにより、最後尾でガラガラと引かれた荷駄が見えるが、布を被せたあの下には、出ていった先生達の首と、後を追った田沼達の首が積まれているはずだ。


 そんなの別に見たくないので、俺は運び出す際は、わざと目を逸らしていた。


 やがて、遠くから悲鳴の数々が聞こえたので、俺みたいに眺めていた連中や、グラウンドに出た連中が首を見たとわかった。





『静まれ、異教徒どもっ』


 声を限りに喚くのが聞こえ、俺はまたカーテンの影から外を見る。

 俺が殺すべき男が、校舎を前に警戒しつつ叫んでいた。既に馬は降りていて、一人だけ色違いの鎧を纏っている。


『私は、この地を治めるリューイック伯爵の元で一軍を預かる、ジャガンと申す者っ。おまえ達の代表は我が城で妄言を吐いたため、全て誅殺ちゅうさつしたっ。残りの大人や子供は、速やかに外へ出てくるようにっ。さもなくば、彼らと同じ目に遭わせることとなるぞ!』


 髭のジャガンが顎をしゃくった先には、もちろん首だけとなった先生や生徒が、並べられた机の上に乗っている。


 これほどわかりやすい脅しもあまりない。





「二十分待つ! その間に、この敷地内にいる全員が出てくるようにっ。そうすれば、命までは獲らぬっ。しかし、我が命を無視するなら、すぐに建物内へ入り、仲間と同じく首を獲ることになろうっ。心せよ!」


 言いたい放題言った後、腕組みして待つ構えを見せた。

 ……途端に校内中からざわめきが聞こえたし、街の方でも微かに悲鳴や罵声が聞こえる。ここにいる彼らだけではなく、他にも騎士や兵士が出向いているらしい。


 あいにく、そちらはどうすることも出来ない。

 俺が今なんとかできそうなのは、あのジャガンとやらだけだ。


 この地では珍しい、戦闘系のスキル持ちの男で、バレたら主君に警戒される恐れがあるので、ひたすら自分のスキルを隠している。

 あいつを殺すことでそのスキルが手に入る――というのが俺のかつての設定だが、外れていたら、もう俺の死は決まったようなもんだな。

 

 しかし、こうなった以上、やってみるしかない。



 降伏したってどうせ奴隷にされるし、女子生徒なんか兵士達の性奴隷確定だからな。






 地球で見るより巨大な月のお陰で、別に明かりがなくとも状況はわかる。

 今は続々と校舎から生徒達が出てきて、連中の前に心細そうに集まっていた。生徒や先生達はほぼ固まっていたが、その数が予想より多かったせいか、眺めているジャガンは首を振っていた。


 あまり嬉しそうな顔じゃないのは、もしかしたらこの後の運命に同情しているせいだろうか。

 たとえそうでも、俺のやることは変わらないが。


 宿直室にあった果物ナイフをポケットに忍ばせ、俺はひたすら時を待った。

 ここまで、重要な部分はほぼ昔の設定通りなので、これからの一番重要な部分も、そうあってほしいものだ。



 

 ジャガンが設定した、制限時間二十が来る直前に、打ち合わせ通り、神野が校舎から出てきて、ジャガンの元へ歩み寄った。


 従卒みたいなのが止めようとしたが、ジャガン自身が兵士を遠ざけたようだ。


 無事に神野がジャガンと話を始めてくれたが、今度はジャガンも普通の音量で話しているので、会話内容は聞こえない。


 ただ、二人が校舎の方へ移動を始めたので、俺は作戦が上手くいったことを悟った。




『密かに宿直室へ隠れている男子生徒がいます』


 そう密告するのが、神野の役割である。

 なので、これはもう成功と言えるはずだが……まずいことに、ジャガンに他の騎士が二人、ついてきた。


 指揮官の護衛ということらしい。

 普通に考えて当たり前のことだが、俺の設定とは違う。


 俺が昔書いた断片設定では、ここで神野と来るのはジャガンだけだったのに。

 神野もなんとかしようと、いろいろ話しかけているようだが、どうもならないらしく、ジャガン達がズカズカと校舎内に入ってくる足音が聞こえた。


 当然、三名、いや神野を入れて四人分の足音が、こっちへ接近してきた。……まとめてこられたら、ジャガンだけを倒すのは難しいんだが。



 想像したより、遥かに危ない賭けになりそうだった。



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