表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

おおっ、初めて予想された展開と食い違った!

 校長の指示通り、教室で大人しく待っていたのは、多分、少数派のはずだ。


 初等部(小学校)から高等部まで、全員等しく、廊下や屋上に出て、がやがやと不安そうに話していたと思う。いや、俺がまた屋上に出ると、そこから他の校舎も見えたのだ。


 特に、初等部の方は、かなり混乱が激しい。




「初等部は、もう泣いてる子が大勢いるなあ」


 クラス内で唯一の友人である、岡辺おかべが話しかけてきた。


「それもアレだが、食料が困るんじゃないか……このままだと。俺、既に腹が減ってるんだが」


 俺が肩をすくめると、岡辺は目を瞬いた。


「おまえの言う通りだ。今頃、コンビニじゃ人だかりだったりしてな」

「もう、そうなってる」


 俺が指差した方を見つめ、岡辺は「うわぁ」と声を上げた。

 ここから一番近いコンビニの前には、既に列ができていた。


「震災の時も一時的にスーパーやコンビニから食料が消えたけど、今回もそうなるか……」

「多分、もっとひどいと思うぞ」


 悪いとは思ったが、俺は正直に答えた。


「だって今回は、補給する手段がないだろ? 周囲は全部荒野ときた」

「先生達が、あの城の方へ交渉に行ってるから、なんとかなるんじゃないか?」


 もちろん俺だって、そう思いたいところだが、もしも俺の設定通りだとしたら、そうはならない。……この奇妙な一致、そのうち大きく外れるといいんだが。


 俺は密かにそう思った。

 なにしろ序盤は、不吉なシーンが多かったように思う。





「一度、家に帰りたい」


 俺が呟くと、岡辺も頷いた。


「全くだ。アニメの録画は当然、失敗だろうなぁ」


 ……いや、俺はそういうことを心配しているんじゃない。

 当時ノートに書き殴った設定を、確認したいのだ。もしかしたら、まだあの古いノートは家に残っているかもしれない。


 あるなら持ち出さないと、文字通り、俺を含めてみんなの命がかかっている。





 しかも今のところ、俺の設定通りに事態が進行していた。


 校長と一緒に同行した先生達は、二時間が過ぎ、三時間が過ぎても戻ってこなかった。そのうち、屋上で呑気に騒いでいた連中も口数が少なくなり、夕方になるにつれて、葬式会場のような静けさに包まれた。


 誰かたまに話しても、声を抑えてひそひそと会話する有様である。


(俺の設定通りなら、そろそろだな?)


 そう思って時計を見た瞬間、待ってましたとばかりに田沼が大声を上げた。





「おい、いくらなんでも遅すぎだろっ。途中まで迎えに行こうぜ」


 一人で行けばいいのに、こういう時、必ず人を巻き添えにするのが、この手の奴だ。いじめっ子の田沼も、ご多分に漏れない。

 幸か不幸か、賛成する奴が大勢いた。


 田沼党とも言うべき、取り巻きばかりだが……他クラスの連中を含めて、総勢十名ほどいる。むさ苦しい野郎共ばっかで、むしろ「あ、ご苦労さん」と見送るのにためらいはないが。


 俺の設定通りなら、こいつらは全員死ぬ。

 考えた末、俺はため息をついて意見を表明した。




「なあ、自転車で行ったとしても、あの城までは」


 俺は遠くに見える城を指差し、


「だいぶかかるんじゃないか?」

「だからどうしたよっ。途中で先生達の車に拾ってもらえりゃ、済むことだろ?」


 田沼は早くも喧嘩腰だった。ああ、予想通りだっ。


「臆病者はすっこんでろっ」


 高等部に進学してあのクラスになってまだ二ヶ月なのに、この嫌われようである。


「じゃ、じゃあせめて人数減らしたらどうなんだ? 十名近くで遠征して、大勢死んだらどうする?」

「馬鹿か、てめぇ」


 田沼は鼻で笑った。


「こんな平和な光景のどこに、そんな心配する必要が」

「見えてるの荒野と、遠くの城だけだ。ここが平和だなんて、なんでわかる?」


 途端に田沼がぎょろりとした目で睨んだ。


「……おまえ、そういや担任にも忠告してたな。え、どんだけお節介なんだよ? いつからそんなお偉い立場になった、えっ」


 拳を固めて近付いてきた田沼に、俺は自分の失策を悟った。

 ああ、どうせ聞いてくれないと思ってたよ……連中の命がかかってるとはいえ、黙っとけばよかったか。


 殴られるのを覚悟したが、途中でなぜか神野が間に入った。


「……忠告は人の自由だと思うわ。あなたが受け入れるかどうかは、別として」

「なんだよ、おめー」


 田沼は戸惑ったように神野を上から下まで眺め、顔をしかめた。


「あんな野郎の味方するのかよっ」

「味方というか、確かに生徒だけで出かけるのは危険だと思う」


 神野が目を逸らさずに言い切ると、田沼は二秒ほど押し黙り、結局、「臆病者は、仲間ができるもんだなっ」などと嫌みを言ってのしのしと立ち去った。


 おおっ、初めて予想された展開と食い違った!

 確か俺、ここでは殴られてたからな……当時ノートに書き殴った設定と、ズレてる。


「気を遣わせたな」


 俺はなるべく驚きを表明せず、神野に低頭した。


「そんなこと、気にしないで」


 微笑する神野の心臓あたりに、またなにかが見えた。明らかにゲージに似たものが。

 どうも俺が、「この子はどういうつもりなんだろうなぁ」と気にした途端、見えるらしい。


 これは……設定にあったかどうか忘れたが、ぜひとも研究の必要があるな。

 なにせ、一瞬だけ見えたゲージはいろんな色があったが、赤色のゲージが天井まで来ていたのだ。あれはなにを示すものだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ