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街へ行った先生達は、二度と戻ってこられませんっ。みんな殺されてしまうんです!

 周囲が荒野になり、校内放送が中途で切れたというのも、俺は小学校の頃に、最初の妄想で考えた気がする。


 問題は、所詮は小学生の頃にノートにまとめた設定にすぎず、一応は「ゲーム設定のつもり」で書いたものだが、実際はゲームはおろか、文章でまとめてすらいない。


 ノートに書き殴られた、気まぐれな設定の断片だ。


 もうあれから四年は経っているし、記憶だってかなり危うい。本当にこの世界が俺の妄想と一致するというのなら、是が非でも思い出す必要があるが。





 そんなことを考えているうちに、体育館に着いた。


 途中で放送は切れても、体育館へという部分は聞こえていたので、続々と生徒が集まりつつある。

 うちの高校は、実は敷地が仕切られているだけで、初等部(小学校)に中等部(中学校)、それに俺達が在籍する高等部(高校)が、全て固まって存在している。


 いわゆる、小学校からのエスカレーター式である。


 大学だけが街の外れにあるのだが、そっちはどうなっているかわからない。

 ひとまず今は、高等部は高等部だけで体育館に集合させられた。

 ……集合が終わると、壇上から校長先生が話しかけてきた。やはりマイクは使えないのか、地声である。





「もう気付いてるかと思いますが、これは異常な事態と言えます。私達にも説明はつきません。先程、警察に電話も試みたのですが、電話すら通じません。街中でも、大勢の人々が外に出て、不安そうに話しているようです」


 そこで校長は微かに首を振った。

 説明のつかない事態に、かなり参っている様子だった。


「――ただし、ここは全くの荒野というわけではなく、遥か北の方に微かに街……のようなものと、城が見えます。観光地にある城であんなのは見覚えがありませんが、しかしなんらかのヒントがあるかもしれない。そこで我々のうち半数が、あそこまで向かおうと思います。幸い、車はありますから」


 あとは、生徒の諸君は校内敷地から出るなとか、残った先生方の言うことを聞けだのとか、普通の注意事項が続いたが――俺はのんびり聞いている気分じゃなかった。

 未だに、かつて書いたネタの断片についてはよく思い出せないが、それでも周囲の連中よりは、先の展開がうっすらとわかる。


 まあ、本当に俺の妄想ネタと、ここのリアルが被っているのかどうかは、まるでわからないが。

 ……俺の記憶が正しいとすれば、様子を見に街を出ていく連中は、みんな死んだはずだ。

死ぬというか、殺されるのだが。


 校長の話が終わった後、再び俺達は教室へ追い返されそうになったが、俺だけは、気が進まないながらも、担任の元へ駆けつけた。


 体育教師であって、普段から逞しい肉体を誇示するような嫌な先生だが、担任は担任である。




「三宅先生っ」

「ん? 城崎か? 早く教室へ戻れっ

 素っ気なく言われたが、俺は途中で遮った。

 話はついているのか、今にも出発しそうな様子だったからだ。


「遠くに見える城の方へ行くんですよねっ」

「ああ、俺も車を出すんだ」


 うるさそうに言われたが、俺はめげずに続けた……声を潜めて。



「街へ行った先生達は、二度と戻ってこられませんっ。みんな殺されてしまうんです!」



 途端に、ぎょっとしたように先生が俺が睨んだ。


「なぜおまえにそんなことがわかるっ」


 大声だったので、周囲にいた同じクラスの連中が、何人かこっちを見た。

 まずいことに、その中にはあの田沼もいた……またなにか嫌がらせされそうだ。


「どうした、理由は言えないのかっ」

「……あ、とにかくそう思うとしか」 


 まさか小学校の時に考えた妄想が進行してるなんて、言えない。


「ちっ」


 たちまち関心を失い、三宅は俺をごつい手で押しのけた。


「もういい、教室へ戻れっ。おまえの遊びに付き合う暇はないんだ!」


 苛ついたようにドスドス去って行く。

 俺としては、見送るしかなかった。


 腹は立つが、ある意味、三宅の反応は当然だろう。本当に出ていった彼らが殺されるかどうか、俺にだって絶対の自信はない。


 なによりもまずいのは、本当にそうなるとしても、止めるだけの証拠がないことだ。


 ため息をついてふと振り向くと、少し距離を置いて、神野が俺をじっと見つめていた。


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