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僕の隣には彼女がいる  作者: ペロリ
僕と彼女
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入学式

 今年の四月、僕は今の高校に入学した。中学で友達の少なかった僕は、高校では友達を作りたいと強く思っていた。いろいろ考えた結果、入学式に始発で行くこととなった。何故始発で行ったかと聞かれると返答に困るが、なんとなく自分の学年で最初に登校したのが自分であったら素敵なことが起こると思ったからだ。前日に母には一体何事だと言われたが、元中(同じ中学)の友達と約束したから、と言って納得させた。もちろんそんな相手はいなかった。


 朝四時半、家族が寝静まったなか家を出ると外はまだ薄暗く、電灯を付けて自転車に乗り駅まで向かった。静穏な駅に着くと大きな旅行カバンを持った中年の女性が一人立っていた。誰かを待ち合わせしているのだろうか、しきりに左右を見渡し僕と目線が合うと一瞬頬が緩んだ顔をしたが、すぐに別人とわかるとあからさまに落胆した顔をして携帯の画面を覗き込んでいた。僕はその人を横切り前もって買っていた定期で改札を抜け階段を降りてホームに行った。二分程して時間通りに始発の電車が来たので僕は乗り込んだ。

 列車にはヨレヨレのスーツを着たサラリーマン二人が鞄を抱えながら小さな寝息を立てて寝ていた。僕は少し離れて座るとドアが閉まった。ガクンッと列車全体が揺れると正面の窓から移る景色が動き始めた。するとさきほどの中年女性が帽子を被った別の中年女性と息を切らせながらホームにたどり着いたところだった。彼女等を置いて列車は出発した。


 三駅目で僕は電車を降りた。ホームには相変わらず誰もいなかった。駅を出て空を見上げると東の空が少し明るくなっていた。僕は無人のアウトレットモールをゆっくりと歩いて並木通りにまで向かった。そこは一面の桜色が広がっていた。

 左右にある桜の木は”大盛りの綿菓子”のようにこぼれ落ちそうな程の満開に咲き乱れていて、地面にはギッシリと花びらの道が出来上がっていた。


 十分程して学校へ着いた。顔上げると薄い霧のなかに校舎が見えた。校門に手をかけると外側から大きな錠がかけられていてビクともしなかった。しばらく校門に寄りかかりながら待っていたがあまりにも手持ち無沙汰になったので、結局近くのコンビニに行きしばらくの間立ち読みをすることにした。いつもは読まないタイトルの週刊誌を三冊ほど隅から隅まで読んで、来週号のお知らせまでしっかり見ると時計は六時半を回っていた。

 ガムを一つ買って店を出てゆっくりと来た道を戻り学校へ向かうと、ちょうど若い教師が鍵を開けて車を乗り入れるところだった。僕はそこへ行き「おはようございます」と挨拶をした。


「早いね、君。一番乗りかい?」

「そうみたいですね」

「校舎はまだ開けてないから、ちょっと待ってて」

 そう言うと車に乗り込みスムーズに駐車スペースに止めて校舎の鍵を開けてくれた。僕は礼を言って校舎に入り、下駄箱に靴を仕舞い用意していたスリッパを履いて一年の教室に行き、自分の名前が書かれた机に座り入学式の予定時間まで待った。窓から見える校庭の隅には野球部のバットとボールが片づけられず残っていた。

 七時を過ぎると徐々に校門のほうから声が聞こえるようになった。教室を出て廊下の窓から覗くと何人かの生徒が校舎をバックに写真を撮っていたりしていた。

 そして八時頃になると晴れ渡った青い空と小さく白い雲が一面に広がっていた。教室も賑やかな声と共に多くの生徒でごった返していた。クラスを見渡すと、同じ中学同士の生徒や今日会ったばかりなのにすでに仲良く話しているグループが出来上がっていた。そして担任が来て挨拶した後にみんなで体育館に移動し入学式を行った。その後簡単にオリエーテーションをしてその日はお開きとなった。

 僕は椅子に背中をゆったりと預けながら、それぞれグループがこれからどこかへ遊びに行こうかと相談しているのを聞いていた。決して目を合わせることはしなかったが、クラスの会話の全てを聞いていた。しばらくして連絡先を交換し行き先を決めたグループが出て行き、教室には二、三人が残っているだけになり、顔ぶれを見ると今日から部活に参加しようとしている熱血な男と下の中の顔をした女子が耳障りな声で何か話していた。僕は黙って教室を出た。

 そして無言のまま靴を履き替えて校舎出て、並木通りを通り電車に乗り家まで帰った。自分の部屋に入ると鞄を床に放り投げてベッドに倒れ込んだ。何も言えない感情に押しつぶされそうになった僕はそのまま夕食まで寝た。


 彼らは僕に何もしてくれかなかった。僕は何も出来なかった。結局次の日からも何も変わることなく今に至る。

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