高校生のストーカーにしびれを切らした。
最近、視線を感じる。
それは高校に通学する電車でのことだ。
視線の元は分かっている。
学ランをきたおそらく他校の高校生であろう男子だ。毎朝同じ電車、同じ車両に乗り合わせる彼は、熱烈な視線を送ってくる。
そして、先日知ってしまった。
実は彼が、行きも帰りも、最寄り駅と学校までの通学路、いつも後ろをついてきているということを。
他校なのに。彼は近くの学校に通っているのだろうか。
まあつまり彼は私のストーカーなのだ。
だが不思議とそれほど不快感は感じなかった。
原因は彼が割と好みの顔をしていることだ。
不覚にも、ちょっと話しかけて欲しいとか思ってしまう。
しかし彼は一向に私に話しかけてくることはない。
それが一年、一年続いた。
もう限界だ。
若干不本意だが、これは私から行動を起こすしかないのだろう。
まず、最寄り駅のホームでハンカチを落としてみた。
……失敗。
奴はチラチラとハンカチを気にしながらも結局拾わなかった。
なんだよ!お前私のストーカーなら普通喜んで拾うだろ!
次に、偶然を装って奴とぶつかってみた。
……失敗。
「あっ、ごめんなさい」
そして自分史上最高に可愛い上目遣いで奴を見る。
すると奴は、
「えっ、あっ、だ、だいじょ、です」
いやパニクりすぎか。
その後も何度か色々試してみたけれど、一向に話しかけてこない。
私はしびれを切らして、もう最終手段に出ることにした。
その日、私は駅で降りてから、トイレに入った。
そしてある程度駅から人がはけた頃になって、ようやくトイレを出る。
案の定奴はまだいた。
人が全然いないから丸わかりだ。
そして私は彼に、微笑みかけながら近づいた。
もうそれはまるで天使のように。
男なんて会った時の第一印象で全てが決まる、第一印象さえ良ければあとはこっちのもんだ。
奴と対面する距離まで近づいた。
奴は顔を赤くして口をパクパクするだけで、何も言わない。
私はまだ待つ。
微笑みを崩さずに待つ。
どれくらい経っただろうか、もう表情筋が限界を超えそうになったとき、奴はやっと声を発した。
「あ、あの!し、しょの……」
いや黙るんかい!
そこ頑張りどころ!
仕方ないので、悲鳴を上げている表情筋をフル稼働して、女神のような笑顔で、なんですか?と聞き返す。
するとようやく
「つ、付き合ってくだしゃい!」
と言われた。
やっと、やっとだ。
最早噛んでいるとかは今さら気にしない。
理由もなしに唐突すぎる、とかも気にしない。
そして私は返事をする為に口をひらいた。
「そうね……男なんて落としたらそれで終わり、ほっとかれちゃうのはいや、あと3ヶ月続けられたらいいよ」
……我ながらよくぞこんな高慢なセリフが言えたものだと思う。
しかし奴は本当に三ヶ月続けた。
私が何度ハンカチを落とそうと、偶然を装ってぶつかろうと、果てはまるでシンデレラさながらにローファーを階段に置き忘れようと、奴は自分から話しかけることはしなかった。
ある意味ストーカーの鏡なのかもしれない、と三ヶ月の間に思った。
そうして、私の妨害(?)にも屈しなかった奴と、私は連絡先を交換して、そして……
友達になりました。
いやほんとに、奴はどれだけ私を焦らす気なんだろうね?
と、友達からでお願いしましゅ!僕の精神が……!って……。
そんな奴に、自覚なく振り回されるのもアリかな、と、奴が彼氏になった今は思うのだ。
ストーカー作品2作品め。どんだけ好きだよっていう。