満月ロゼ
“満月の夜にロゼを飲むと恋が叶うらしい”
確かどこかの大型スーパのCMのフレーズだったと思う。
それを今日の昼休みに後輩の口から聞いた。
彼女は好きな人がいるらしく
その人が自分を好きになってくれるよう願掛けとしてやろうかどうか考えているらしい。
その場に居た数人は企業に踊らされている。とか
他力本願過ぎる。などいろいろと言っていたが
私はやる分には別にいいと思った。
誰だって何かしらの願掛けはやりたくなるものだ。
それに、企業の宣伝CMであれそれをやってドキドキするのが楽しいわけだし、本人がやりたいならやらせてあげればいい。
そして、なにより。
“満月の夜にそういうことをするのはロマンチックだし、
やりたいと思うと思うし”
確かに、あの場で口にしなかったものの私はそう思った。
・・・思ったのは認めるのだが。
「何故、私は買ってしまったかなぁ」
私の手には通勤用の鞄と大型スーパーのマークの入った大きな袋が握られていた。
言い訳をすると、昼にあんな話を聞いてしまったから。
そして、今日は満月だったからなのだが、
今年23の後輩ならともかく
もうすぐで28な私がやるのは不釣合いすぎるだろう。
しかも私は
「好きな人が居ないのにやってどうする」
2年前に当時付き合っていた彼と分かれた以来
特に男の人を好きになれそうもなくて
今も特に誰が好きって訳でもないのだ。
「はぁ・・・」
道端で頭を抱えそうになった。
しかし、買ってしまったからには仕方がない。
今日は雲が少なく、私のアパートからでも満月は見えるはずだし、
それを見ながら少しだけ飲んでみるか。
そう思い。
私は自分のアパートへと早足で帰っていった。
「ふぅ。
さっぱりした」
お風呂から出て、私は髪の毛を拭きつつ
部屋の真ん中より少し窓に寄せたテーブルへと向かった。
丸いドーナツ状のクッションの上に腰を下ろし、
テーブルの上に置いておいた大型スーパーの袋から
ロゼワインとおつまみとして買ってきたお菓子などを取り出し
テーブルの上に広げる。
「ワインなんか飲むのは久しぶりだからなぁ。
ちゃんと飲めるかな?」
元々、アルコール自体の味が苦手なので家ではお酒はあまり飲まないので少し不安な気持ちがかすめつつ
私はグラスにロゼを注いだ。
少しオレンジがかった濃いピンクの波がグラスの中を踊った。
その並みが収まるのを眺めた後
私はグラスを持って、匂いを嗅いだ。
「うん。
いい匂い」
多分いけるだろう。
そう思い、今度はグラスに口を付け、
グラスを傾けた。
さっきまでグラスを見るために下を見ていた目線が上に上ると
目の端に一瞬満月が見えた。
そのたった一瞬の月を頭に思い浮かべながら
少しだけ口に含んだロゼをゆくりと飲んでいく。
ワインよりブドウ感はなく、さっぱりした飲み口と甘みのある味は
お酒が苦手な私でも飲みやすい感じがした。
「うん。
これなら少しづつだけど私でも飲めるかな」
とりあえず、もう一口飲んでみてから窓の外を見る。
さっき一瞬だけ見えた月が
柔らかい光を放ちながら夜空に浮かんでいる。
想像していたよりも小さく、想像していたより明るい月。
小さい時にはその光に魔法の力があるのだと思っていた。
この年になって魔法とか魔力とかを信じているわけではないけれど
それでも、その光には何かしらの力があるような気がする。
「ムーンライトパワー・・・何てね」
何かすごい恥ずかしいことをしてる気がするが
・・・酔ってるからだろう。
まあ、折角の夜だし。
今夜くらいはいいだろう。
2杯目を半分程飲んだ時だった。
“すとっ”
ベランダから何かが着地する音がした。
そして私の前に現れたのは
一匹のだった。
私は、すぐにガラス戸を開けて、近づき。
「わぁ。
猫君来たんだ」
彼は猫。
特に名前はない。
首輪などをしてないので、飼い猫ではないと思うのだけど
の割りに来るたびにエサを置いてはみるのだけど食べようとしないので
多分、エサを食べる場所は別にあるのだと思う。
だから今日も私の家のベランダで一休みしていくつもりなんだろう。
そう思っていると。
猫君は体の半分だけ私の部屋に入って
「なーおぅ」
鳴いた。
いつもは帰り際にお礼を言うかのように鳴くので
来てすぐに鳴くのはめずらしい。
「猫君どうしたの?」
日本語が通じるかどうかは知らないけど
一応聞いてみる。
「なーおぅ」
答えてくれた。
・・・けど、何が言いたいのかは分らない。
私がどうしたらいいのかと思って腕を組んで考えこんでいると
猫君はカリカリっと床を引っ掻いて
「なーおぅ」
また鳴いた。
そこでようやく私は猫君が何が言いたいのかが分った。
猫君が引っ掻いたのは私がいつもエサ皿を置く場所。
つまり、ご飯の要求だ。
私は急いでエサ皿に猫用のドライフード入れてきて
猫君の前に置いた。
「なー」
猫君はまた鳴いた後に
勢いよくエサを食べ始めた。
「今日はゴハンをもらえなかったの?」
また、答えてくれるのかと思ったけど
今度は無視された。
食べるのに夢中になるくらいお腹が空いていたのだろう・・多分。
本当にそうだったのか、猫君の食事はあっさりと終わった。
「なーお」
また、一鳴きしたので
「ごちそうさまかな?」
と聞いてみると
「なーう」
と答えてくれた。
そして、私の足元に擦り寄ってきた。
いつもなら近づこうとすると逃げるので
びっくりしつつ。
折角だし、と思い。
猫君の頭に手を伸ばしてみる。
すると、特に抵抗もされず、撫でさせてくれた。
少し温かくて、触ってて気持ちいい。
永遠に撫でていたい。
そう思ったのだが。
ある程度撫でると、猫君はすっと身を引いてベランダに戻って
いつもの場所で座り込んでしまった。
多分、もう触らせてはくれないのだろう。
そう悟った私は
また、クッションの上に座り
残りのロゼを飲むことにした。
こんどは満月と猫君を見ながら。
ゆっくりと。
“満月の夜にロゼを飲むと恋が叶うらしい”
私の場合は
エサをあげたり触ってみたかった。という猫君への恋心のようなものが叶い。
エサをあげたり触ることができた。
本当に満月とロゼという組み合わせは
何か力を持っているのかもしれない。
・・多分ね。
“満月の夜にロゼを飲むと恋が叶うらしい”
イオンのCMですね。
個人的に何となく好きなフレーズだったので
それを使って文章を書いてみました。
ワインが苦手なので
ウィキ先生やヤフー先生に味とかを教えてもらいながら書いたので
ロゼについての表現がおかしい部分があるかもしれませんが
ご容赦ください。
このおまじないで
本当に誰かの恋が叶えばいいのに。
などと思いつつ。
今回はここで失礼しますw