始まりのアクシデント
目が覚めると目の前に広がるのは一面の緑、そして山々があちらこちらに背伸びしていた。
田舎に住んでいた俺にでも見慣れないほどの大自然だった。
「なんだよ・・・ここ・・・。」
呟きつつ信じられない状況を整理しようと辺りを見回す。見慣れない風景の中に(というか俺の真後ろに)見慣れた物があった。
「車?てか事故ってる?」
大自然の中にポツンとある青い車。そのフロントバンパーは見事なまでに凹んでいた。
その車をみて、あることを思い出した。
そういえば俺は───
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俺は長谷川幸人。26歳フリーターである。
高校卒業からの就職活動に失敗して無闇に都会に飛び出し、アルバイトで食いつないでいるどこにでもいそうな平凡な男なのだ。
今日は仕事終わりにバイト仲間2人と飲みに来ていた。
「かんぱーい!」
グラスを掲げ豪快な音を立て一気に喉に流し込む。
「くは〜!!!いや〜やっぱ仕事のあとはこれだよなぁ」
「だな、これがないと締まらないよな」
「明日から盆休みだな、お前ら予定とかあんの?」
「んー、決めてないなー」
「俺もだアハハハハ」
酒を片手にいつも通りの何気ない会話、一緒に遊ぶだのナンパに行こうだの。
休みの前だったからかいつもより楽しさが増し増しだった。それに伴い酒の量も増し増しであった。
宴も酣、三人はそれぞれ帰路に着いた。
夏の夜風が心地よく頰を掠める。更に上機嫌になりつつ千鳥足で歩いていると車道の傍らで子猫がこちらを見て鳴いていた。
「なんだ?猫坊、構って欲しいのかー?それとも腹が減ってたりするのかなー?」
上機嫌ついでに話し相手もゲットという感じで子猫を抱き上げた。首輪は無いので野良猫か?
鼻歌混じりで、俺の住むアパートは確かペット不可だったような気がするなーさてどうするかーなどと思いつつ歩いていると、不意にピョンと俺の腕から子猫が脱出したのであった。
子猫が走っていった方向は車道方向、しかも夜更けというのにも関わらず車の量は少なくなかった。
おい、と声を出すと同時に俺の体は勝手に動いていた。
酔っ払いとは思えない俊敏な動きで子猫を救助、成功、セーフ。
丁度縁石を飛び跳ねた所でジャンピングキャッチ!いや、ジャンピングしてたのは猫の方だがな。
ホッと一息ついた時忘れていた事を思い出した。俺は酔っ払っていたのだった。
「おっとっと」
足元がよろつきケンケンパの要領で車道に出てしまった。
全てがスローモーションになって見える。そしてそのまま意識が消えていく。
───
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「そういえば俺は事故ったのか。それで死んじゃったのかな?」