第三話:迷った、迷った、本格的に迷子になりました。
うっそうとした森の中、出口は何処だろう?
餓えて死ぬか、干からびて死ぬか、人に出会うことになるのか物語はまだまだ始まったばかり。
「ふぅ、ふぅ、はぁ、はぁ・・・・。」
行けども行けども見える物は森の木々。
食べれそうな木の実なの影など欠片も見当たらず、獣の形跡すら見当たらない。
「ここは本当に森の中か?生き物の気配が全くしないぞ?
森の中なら鳥の鳴き声の一つや二つしてもおかしくないだろうに・・・。」
かれこれ二時間以上も歩き詰め、現代人の体力の限界は既に超えている。
「くそー!いい加減動き辛いわ!!!」
今更ながらに出勤時のビジネススーツに革靴と言うこの場に不釣合いな格好に違和感を感じ上着を脱ぎ鞄の持ち手に掛けネクタイをはずす。
靴は予備など持ち合わせて居る筈も無く裸足になる事に抵抗がある為我慢する。
「これで、少しはマシになったか・・・。」
木々の隙間から太陽が見える方角へと再び歩き始める。
「これが森の中心へ向う方向だったら完全に詰みだよな~。」
などとブツブツ呟きながらも、完全に足を止めたら最後再び歩き出す自信が無いため
少しづつ、歩き続ける。
本来であれば、その場から動かず救助の来るのを待つのが鉄則であるはず。
しかしながら、登山者でも航空機事故の生還者でも無い。
良く言えば神の悪戯、悪く言えば悪神の怠慢による犠牲者なのだから・・・・。
「くそー!いい加減喉がカラカラだ・・・。何で今日に限って電車に乗る前に飲み物を買うのを忘れたんだ・・・。」
本来、一時間程はかかる通勤電車、アパートから駅までの道中にあるコンビニ、もしくは駅の中にある自販機や売店などでお茶や水を買うのが日常だった。
だが今回に限ってはいつもの飲み物が事如く売り切れもしくは違う商品に入れ替わりで置いてなかった為会社のエレベーター横の自販機で買う予定だったのだ。
「あー冷たいお茶が飲みたいー!いや、贅沢は言わない冷えてない水道水でも構わない。
この際飲めれば何でもいい・・・。」
川すら無いこの状況で水が飲みたいなどと贅沢の極みである。
砂漠で望むなら解らなくも無いが日差しなど木漏れ日程度、現代人の贅沢さの露見する発言である。
しかしながら、突如として不可思議な現象が起こり始める。
「なっなんだ!?」
先ほど強く願ったはずの水が目の前にほんの小さなシャボン玉程度の大きさで現れたのだった。
「みっみず!?」
手を伸ばすもその瞬間水球は力を失い、落下。
そしてその後は言うまでも無く落ち葉に包まれた地面へと吸い込まれていった。
「はっ!?もしかして・・・。」
ある事に気がついたオレは再び強く念じ始める・・・。
水水水水水水水水水水水水水水水水水水水水水水水水水みs・・・・。
「ぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!」
すると再び小さな水の玉が目の前に現れる。
「足りない足りない、これじゃ、全然足りない!」
おぼろげながら感覚をつかみ掛けた機会を逃さずイメージする。
空気中の水分を集める。
少しずつ少しずつ。先ほどは集中力を途中で切らした為に失った水分。
逃してなるものかと、さらに集中しつつ水玉の下に手で受け皿を作る。
「よし、良いぞ。良いぞ・・・。」
拳大になってソレをこぼさない様に手で受けそのまま口へと運び一気に飲み干す。
「ふぅ・・・。冷えたビールなら文句はなかったかな・・・。」
さすがにソレは贅沢の極みと言うべきだろう。
「なんだ、考えてみれば簡単な事じゃねぇか。」
そう、神は言った。
『さぁ、ボクの作った世界は剣と魔法の世界だよ!』
「魔法が使えるなら現代人の知識なめんな!散々VMMOで鍛えた元廃人ゲーマー様だぞ。」
そう、今でこそ普通のサラリーマンをしているが、高校を卒業し、入った大学で遊びすぎた為
卒業目前に単位が足りない事が決定し、その後バイトをしながら足りない単位を取得すると言う名目で追加の二年浪人生活。
卒業が決まるも運の悪い事に就職氷河期の到来。
当然の如くその他大勢と共に百数十社の書類選考に落ち、就職出来ずにフリーターに成り下がる。
景気が良くなるまでと生活費を稼ぐ為の最低限のバイトをしつつ有り余った膨大な時間をVMMOに注ぎ込んできた。
ただ時間を注ぎ込むだけではなく、廃人お勧めと言われる加速型VMMOにのめり込んだのが不味かった。
現実時間の24倍。
簡単に言えばゲーム内で一日過ごしても一時間しか経過しない。
今でこそ規制が入り、運営によってログイン時間に制限が設けられたものの
初期の頃にソレは無く、睡眠時間とバイトの時間以外をほぼソレにつぎ込み数々の偉業を成し遂げたのだった。
大きく深呼吸をすると、目を閉じて何かを始める。
「よくあるラノベはこうやるんだったよな・・・。」
何を思ったか散々読み倒した異世界転生物のネット小説を参考に全身から力を抜き始める。
落ち葉の積もる土の上に胡坐をかき、膝の上に手を載せ瞑想を始める。
「会社の慰安旅行で社長の趣味の寺院巡りをさせられた時は地獄かと思ったが変なところで役に立つものだな・・・。」
雑念に駆られたのは最初のうちだけ。
徐々に集中し、以前の感覚と違う所を見つける。
見つけたソレを全身くまなく張り巡らせはじめる。
すると、風が突然やみ、風が止まったはずの木々の枝にある葉っぱがザワザワと揺れ始める。
当人は意識してなのか無意識なのかソレは体から離れるも体の回りを回り始め徐々にその渦を大きくしていく。
ザワザワ ザワザワ ザワザワ・・・。
本物の風のように葉を揺らし、枝を揺らしあまつさえ自身の二周り以上の太さの幹を持つ木々まで揺らし始めた。
するとどうだろう?
あたりの景色が所々ブレ始めるではないか。
あたり一面に光が満ち、次の瞬間彼の首筋に光る何かが突きつけられる。
「き、キサマ!そこまでだ!!」
渦巻いていたソレがピタリとやみ彼が目を開ける。
「ん?女?」
振り向こうとするとナイフが皮膚に食い込む。
「動くな!」
「おっと、失礼。右も左も解らず森の中で彷徨う旅人にこの扱いはあんまりじゃないのか?」
「貴様が旅人だと?ふざけるのもいい加減にしろ!
得体の知れない魔力をその身に纏い、長老様の作られた結界の中で本来なら力尽きてもおかしくない途方も無い時間彷徨わせたはずが力任せに結界もろとも吹き飛ばすような輩がただの旅人であるはずが無い!!」
「得体も知れないも何もオレだってさっき気がついたんだから説明しようにも無理ってものだろ?」
「そこまでじゃ!エレーヌ、お主も監視の役割を逸脱しすぎじゃ。
いい加減にせねばそこなる少年に怪我どころでは済まぬ傷を負わされるはめになるぞぃ?」
「し、しかし長老!こんな子供に我等が遅れを取るとは思えませぬ!
こんな子供私一人で十分です!」
おいおい、確かに童顔で酒を買うのに身分証を出せと言われたり、取引先の受付嬢に入社式の会場に連れて行かれそうになった事は否定しない。
だが、いくらなんでも少年だとか子供だとか言われる筋合いはないず・・・。
「少年よ、我等も血を望むわけでは無いゆえ、大人しくついて来てはくれまいか...?」
「オレとしても争いごとが好きなわけじゃないんだがコレをどうにかして貰わないと・・・・・」
そう言いつつ首に当てられた刃物らしき物を指差す。
すると、長老と呼ばれた老人は目配せ(長い眉毛と深いシワのせいで目線はほとんどわからない)すると後ろで人が引きずられていく音が聞こえる。
「これでよいかな?お主が村のすぐ近くに来た事に気がついてすぐに結界を・・・。
おっと、こんなところで立ち話もなんじゃ、ウチまで来るがよい・・・。」
老人は言うが早いか踵を返し歩き始める。
このままここに居ても良い方向に事が進むとは思えず後をついていく。
空腹になり続ける腹をさすりながら・・・。
毎日更新目指してがんばりますのでよろしくお願いします。
前作から引き続きの読者様、今作が始めての方合わせて末永くお付き合いいただけると幸いです。