面倒事ばかり起きるのはキノセイか?
俺はとんらんしている!!
さて、おふざけをしている場合ではない。
状況の説明が必要な為少し時間を遡って説明する。
「おう、おっさん久しぶりだな。」
「相変わらずお主はブレぬのぉ。」
「おう、俺の長所と取ってもらっても構わないぞ?」
「ふむ。どう考えても短所としか取れぬはずなのだが、お主と言う人物を知ってるワシとしては
納得出来なくも無い。
しかし、だ。
お主を知らぬ者からすれば不敬としか取られぬ。
それがお主には理解出来ているのか?」
「理解しているからブレ無いんだろ?相手がどんな立場だろうが俺は俺だ。」
領主のおっさんは頭を抱えて唸る。
「解っているからこそ・・・・か。
そして、新たな火種を起こした原因とも言える。」
「あー。あの偉そうなおっさんか?」
「お主はもう少し貴族や爵位と言う物を勉強し直した方が良いと思うのだが
あえて言うまい・・・。
しかし・・・だ。
お主が見捨てた貴族らしき者と言うのが問題なのだ。
彼は貴族は貴族だが、隣の領を納める領主なのだ。
しかも、ワシより爵位は上じゃ。」
「あー、なんとなく解る。爵位持ちってのも大変だなぁ・・・。」
「お主、完全に他人事だと思っておらぬか?」
「そりゃ、俺のせいじゃねぇし。」
「事の発端はお主じゃろう!」
「ほう。たかが旅人に通りすがりに出会った貴族を助ける義務が生じる・・・と。
そう言いたいのか?
それこそ横暴だろう。
冒険者であれば緊急の依頼って意味で解らなくもない。
貴族や、領主お抱えの騎士であっても同じ事が言える。
でも、だ。あの場に居たのは俺とマルコの二人だぜ?」
「お主はそうかも知れぬ。だが、マルコはワシの私兵じゃ!!」
「おっさん、前提を忘れてるぞ?マルコは俺がこの春まで借り受けているはずだが?」
「む!?お主なんと言う逃げ道を・・・。」
「じゃ、そう言うことだ。」
踵を返し、そのまま部屋を出ようとした所に突如小さな影が扉から飛び込んできた。
「!?」
突然の事に俺は驚き足元を見る。
そこに居たのはどこかで見た事のある少女だった。
その少女は俺の脚にしがみ付き離そうとしない。
少し強めに振ってみたものの、足にしがみ付いたまま取れなかった。
厄介事かと思い、さらに力を込めようとした所でおっさんの声がかかる。
「これ、いい加減にせぬか!!」
その途端少女は俺の脚から離れる。
「おい、おっさんコイツはなんだ?」
「なに!?お主覚えて居ないのか!?」
「どこかで見た事があるような気もするが、正直覚えてねぇ!」
自信満々に言ってやると、呆れた顔をするおっさん。
そして、俺の足元に居た少女はあっと言う間に瞳に涙を貯め大声で泣き始めてしまった。
しまったと思った時には時既に遅く、扉の前に待機していた兵士が何事かと中に入ってくる。
そして、隣の部屋に居たのか先ほどあった隣領主夫妻も驚いた顔で飛び込んできた。
これは事が大きくなりそうだと、マジックの要領でばれない様に空間収納から麦芽とサツマイモに似た芋で作った茶色い水飴を取り出し少女に渡す。
すると、大泣きしていた少女は一転笑顔になり黙々と水飴を舐めていた。
そして、立ち話をしていた所に現れた隣領主夫妻も交え机を挟んでソファーに座り話を事になったのだ。
そこまでは、まだ許容範囲のなかだった。
しかし問題はここからだった・・・。
「で、なんでこのお嬢ちゃんは俺の膝の上に座ってんだ?」
その声に一瞬俺の顔を見る少女。
ニコッと笑顔を向けてくるもすぐに水飴に夢中になる。
「ったく、お主が原因を作ったとさっきも言ったであろう。」
「なんで俺が悪くなるんだ?意味がわからねぇよ。」
「お主が去り際に渡した物が原因なのじゃ!」
「あ?たかだか水飴と焼き菓子じゃねぇか!なんでそれが原因なんだよ!!」
「お主本当に解ってないのか?」
「あ?水飴ならおっさんにも少し融通してやってんだろ?」
マルコ達を連れて開拓村へ行った際に倉庫で麦蒔き用の目の出たばかりの大麦を見つけた為
街で買い込んで居たサツマイモに似た芋と混ぜ水飴の様な者を作ったのだ。
塩や砂糖が貴重なこの世界。産地に行けば良いのかも知れないが
産地が解らない俺には貴重な甘味だった。
そして、森の中で見つけた蜂の様な小型の魔物の巣からも蜂蜜が取れた。
それを使って焼き菓子などを作って、村のみんなと食べていたのを領主のおっさんに見つかって
少量でも構わないから融通してくれと頼まれたのだった。
だが、売るほど沢山作れる訳も無く月に一度の楽しみとして冬の手作業の合間などに振舞っていた。
当然おっさんに渡る分もたかが知れている。
「だから、お主が送ってくれる分があまりにも少ない為近隣の領主達からワシは白い目で見られておるのじゃ!!」
「なんで、そこで俺のせいになるんだよ!!」
「お主が製法を教えぬのが原因じゃと気づかぬか!!」
「あ?そこでなんで教える必要があるんだ?
俺が考えたものだから欲しけりゃ自分で考えろよ!」
「じゃから、何度も対価を払うと言っておるじゃろ?」
「ほう、なら金貨1億枚だな。」
「そんなふざけた金額がまかり通ると思っておるのか!!」
「教える義務の無いものを教えろと言うのが間違ってんだよ!
俺がそれを公開した所で何の得がある?
今作ってる分ですらまともに材料が集まらないのにだぞ?
お前らはそれを下々の人々や奴隷をかき集めてでも量産しようとするだろ?」
「それの何が悪いのじゃ?」
「だから、教えねぇって言ってんだよ。
お前ら、貴族や爵位持ちってのは何でも金で解決出来ると思うだろ?
金でどうにかならなきゃ最悪力づくだろうな。
水飴の作り方を教えた場合なんてどうなるかなんて目に見えてるのさ。
年々の年貢はそのままでそこから更に水飴や蜂蜜を現物で収めろって言うに決まってんだよ!
そんな事してみろ、今ですら食う物にも困る農民が死ぬだけだ。」
解りきった事を説明したとたん、そこまで考えて居なかったのだろう。
領主のおっさんの顔は見事に青ざめる。
「しかしだ、そんな事は・・・。」
「絶対に無いと言えるのか?街に居る貴族連中の管理すらままならないのにだ・・・。
もし、今言った事が起こるようならば街毎殲滅するぞ?
それでも良ければ教えてやるよ。」
そして、製法を口にしようとした途端待ったが入る。
「ま、待つのじゃ!お主なら本気でやりかねぬ。これ以上無理強いはせぬ!!」
おうおう、手のひら返すように素直になったなぁ。
その上横に座る隣領主夫妻の顔まで青褪めちまってるわ。
なんの話か解っていないのか少女は舐め尽した水飴の棒切れを悲しそうに眺めていた。
「で?話は終わりか?終わりなら俺は帰るぞ?」
「ま、待つのじゃ!製法は言わなくても構わぬ、しかしもう少し量産出来る方法無いのか?」
「あ?量産してどうするんだ?どうせ金儲けに使うだけだろう?」
「金儲けと言われればそれまでじゃが、貴重な嗜好品の一つとして取引の材料に使いたいと思うのじゃ!」
「あ?取引だと?」
「そうじゃ、我が領には材木と魔物の素材以外に特産と言った物がほとんど無いのが実情じゃ。
じゃから、塩や香辛料などは殆どが近隣の領からの輸入に頼っているのが実情じゃ。
お主の作る水飴があれば今よりもっと有利に交渉が進むはずじゃ!」
「ほー。無い知恵を絞ったか誰かの入れ知恵か?」
そう言いつつ、隣領主の顔を見るとその顔に驚愕の色が浮かぶ。
「して、何か良い方法は無いものじゃろうか?」
「蜂蜜にかんしては正直無理だ。俺が作ってるものじゃねぇしな。
秋口に森中からかき集めても大した量は集まらなかったしな。」
「うむ。蜂蜜に関しては蜂蜜酒の製造もしてる事もあって量が取れぬのは解っておる。
じゃが、水飴の方だけでもどうにかならぬか?」
「何とかならない事もない・・・が。」
「なんじゃ?」
「現状の年貢を維持しながらだと俺が居なくなった途端小瓶一つ分作るのすら無理だ。」
「なんじゃと!?」
「当たり前だろ?さっきも言ったように開拓村の奴らは女子供に老人しか残ってねぇぞ?
男だって戦帰りの怪我人ばかりだ。
正直喰うものすら減らさなきゃ年貢すらままならねぇのが現状だろ?
量産する方法は無くも無い。
だが、水飴を作るとなると時間も労力もかかる。」
「どうすれば良い?人を送れば良いのか?」
「あぁ、他の人間を入れるならこの話はナシだ。今村に居る極一部の奴らにしか教えてないしな。」
「ならばどうしろと言うのじゃ?」
「単刀直入に言おう。年貢を今の半分にしろ。」
「は、半分じゃと!」
「おいおい、あの村の年貢なんてたかがしれてるだろ?正直村がなくなっても大した損害は無いと
言っていたのを忘れたのか?」
あのガマ蛙との一件を引き合いにだすと途端に黙る領主のおっさん。
「わ、解った・・・。」
「あぁ、ちなみに無理に聞き出そうとすれば契約魔法で話した本人が死ぬようになってるからな?」
「そ、そんな魔法があると言うのか!?魔法と言うより呪いではないか!!」
ま、当然そんな魔法を知っている訳もなくお馬鹿な領主のおっさんは簡単に騙された。
「あぁ、疑うなら実際に聞いてくればいいじゃねぇか。
それで本当に死んでしまったら誰も作り方が解らなくなるだけだがな。」
「それは、さっき製法を聞いて居たらワシらもそれをかけられていたと言うのか?」
「そりゃ、当たり前だろ?作れば飛ぶように売れるものだぞ?しかも正直材料だって
そんなに値が張るものじゃねぇ。
ただその材料集めや作る手間を考えると高く作ってだけだ。」
「じゃ、じゃがお主は先ほどからそこのアイシャに立て続けに渡しておるじゃないか!」
あ、ばれてたか・・・。
余りにも悲壮感の漂う目に負け二度ほど水飴を追加していた。
「俺の分を誰にやろうと俺の自由だろ?まさか、いい年下おっさんが子供の分を取り上げるのか?」
はっとした顔をする領主のおっさんを尻目にアイシャと呼ばれた少女の頭を撫でる。
んむ。前世?じゃ結婚どころか彼女すら居ない俺だったが子供は良いもんだ。
欲にまみれた大人なんて爆発すれば良い。
リア充もついでに爆発しろと念じてみる。
まぁ、冗談はさておき、これで話は終わりだなと部屋を出ようとする。
服の裾を掴まれたものの何とか説得し貧民街のマルコの所へ向う事にした。
最後にアイシャにちゃんと歯磨きを忘れないようにと釘をさす。