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夜明け前の襲撃。再びであったソイツ

「だいぶ、ここも手狭になってきたなぁ・・・。」


資材小屋の地下にある薬品庫の棚を見る。


壁一面薬品棚が並び足元には大きなガラス製の瓶に詰め込んだ回復薬などが所狭しと並んでいた。


まぁ、実際空間収納にはコレの数倍の量が保管してはあるものの、これらをすべて収納になんて言ったら不可能では無いのは確認しているだがそれこそ国に囲われるか命を狙われ続けてロクな目に合いそうも無い。


実際ここにある分の一部は子供達にも手伝ってもらい材料の調達はほぼマルコ達がしていた為

俺がやったのは調合したと言う事位だった。


それも、最初は手作業でやっていたのが余りにも素材の量が多すぎて

途中からは、調合書を書きながら横にメニューを開き自動化させていたから

実質何もしてないというのが正直なところだ。


一括作成バンザイ。ものぐさな俺には便利な昨日だが、

他の人から見れば、何もしてない空間で勝手に素材が薬品に代わっていく様は異常としか映らないだろう。


念の為地下の入り口は中から鍵を掛けて空かないように作業をしているから問題は無い。

作業している体裁作りの為、夜は寝てないように思われているが睡眠もバッチリだ。


ゲームの3徹や5徹と違って、作業しながらの徹夜なんて一晩でも無理だめんどくさい。


覚えている限りの初心者用の調合書を書き写す作業をしていたら上の方で人の走る足音やなにやら話し声が聞こえてきた。


それもだんだんと近くで聞こえる様になり、やがて地下倉庫の入り口がノックされる。


「ナナシさん、今大丈夫ですか?」


マルコの声が聞こえる。


すぐに作成メニューを停止させクローズ。


書きかけの調合書も机の隅に片付ける。


鍵を開け、少し扉を開ける。


「こんな時間に一体どうしたんだ?」


メニューを閉じる際に隅に表示されていた時間は午前3時を少し過ぎた頃だった。


夏場でもみなが起きるのは5時少し前。

何かが起きたとしか思えない。


「魔物の襲撃はいつもの事なのですが、今回の毛色は少し違うみたいなのです。」


「なんだ?亜種でも混じったか?」


ゴブリン、オークなどは毎日とまではいかないがちょくちょく森から彷徨い出てくる。

特に食料の減る冬場は頻繁に起きていた。


しかし、最近は春の訪れが近づきその数もかなり減ってきていたところだった。


それでも、適度に森に入り魔物の間引きはしていたはずだ。


外に出て、探索スキルの範囲を広げる。


まぁ、俺にしか見えないマップ(自分を中心にしてある程度の範囲)を展開し

確認をすると、入り口付近にある程度の魔物の集団がいくつかと少し離れた所に大きな反応が三つほど見えた。


「ちょっとヤバイかもしれねぇなぁ・・・。子供や老人の避難は済んだか?」


「その辺は抜かりなく。手紙を持たせて街へ荷馬車ではしらせました。」


「そうか、お前らは森の入り口で迎撃。回復薬とかの準備は大丈夫だろうな?」


「えぇ、回復薬などは寝床にも多少準備があったので他の連中に先に向わせています。」


「奥まで入る必要は無い。出てくる魔物を重点的に叩け。

常備している分だけじゃ心配だから追加でこれも持ってけ!!」


常備しているのは、わざと質を落とした低品質の物がほとんどだった。

だが、それだけでは回復が間に合わなくなる可能性も高い。


低級ではあるものの品質は高品質、下手な中級回復薬より効果の高いものをいくつか持たせることにした。


「なんかいつものと違いませんか?」


ふむ、やっぱり気がつくか。


「大丈夫だ。材料は同じで出来の良いのは確保して溜め込んでただけだ。」


出そうと思えば、高級回復薬のクリティカルですら樽単位である。

四肢欠損でもしなけりゃ出番は無いだろう。


千切れた部分が残ってりゃ中級の高品質で大丈夫かもしれない。

人体実験をした訳ではないのであるにこしたことは無い。


「そうっすか・・・。じゃぁ、自分も持ち場に急ぎます。」


マルコを見送った後俺は俺で森の奥の強そうな気配のするところへと急ぐ。


鬱葱と生い茂る木々の中を気配を殺しながらも急ぎ走る。


ものの数分で目的の場所まで走り抜けると、そこに居たのはこの世界で始めて遭遇した魔族達だった。


「おうおう、おめぇら何の用だ?」


三者三様の様相にてこちらを振り向く。


「あら?子供がこんな所で何をしているのかしら?」


最初に言葉を発したのはすらりと伸びた手足、その容姿はまさに美人と言って良いだろう。

だが、人としての姿しておらずその額には皮膚を突き破るようにして伸びた角があり

その両の目は真っ赤に輝いていた。


「コドモ?オマエ シッテル。」


次に行動したのは、エルフの里の爺の胸を貫いた腕の持ち主だった。


その背中には蝙蝠の翼を大きくしたような骨の間に皮膜が張られた異形の怪物。


「なんじゃ?お主の知り合いか?お主にヒトの知り合いがおるとは初耳じゃのぉ・・・・。」


声の感じからして男性であろうその老人。


そのどれもが、単体で街を壊滅させるであろう脅威の持ち主である事は容易に感じ取れた。


「しかし、我らを前にして臆さぬとはよもや勇者の生まれ変わりかのぉ?」


「それはあり得ぬ話ですわよ?数代前の魔王様の魂と共に砕け散ったと聞きます。


我等が魔王様と違ってただのヒト族、いくら神の加護を得たとしても砕けた魂の再構築なぞ出来る筈がありませんわ。」


「アイツ ウマソウ クッテイイカ?」


「まだ、話は終わってないからダメよ?」


話が終わったら良いのかと突っ込みたくもなるがここは我慢だ。


「しかし、あ奴は何かしら神に縁があると見えるのぉ・・・。


ワシらの会話をちゃんと理解しておるようじゃ・・・。


本来は理解どころか聞くこともできぬはずなのじゃ・・・・。」


あれ?そう言えば何で俺はコイツ等の会話が理解できてんだ?

時々ノイズが混じるように聞こえるものの言葉自体は理解出来ている。


「あら?聞こえているなら丁度いいじゃな。


ねぇ?貴方ウチのお馬鹿さんがこの辺りで落し物をしたんだけど知らない?」


「オレ バカ チガウ。 バカ イウヤツ バカ。」


「はいはい、貴方は黙っててね?」


静かに静止するその声にはしっかりと威圧の効果があったようで

バカ呼ばわりされた魔族が後ずさる。


そして、オレには一つ思い当たる節があった。


「どうやら、貴方何か知っているようね?」


「まぁ、知っていても教える義務は無いがね。」


とりあえず、要求を突っぱねてみた。


「あら?貴方とはお話で済みそうだと思ったのだけど・・・・?」


「お主もその短気な性格を直せとなんど言ったら解るのじゃ?」


「し、しかしですね?私はちゃんと質問しているのですよ?」


「お主、このままじゃとそこの小僧を殺そうとするじゃろ?」


「答えないのであれば仕方ないでしょ?」


「じゃから、止めるのじゃ。」


「何故です?答えないならこのまま探索を続ければ良い事では?」


「お主もいい加減学習せぬのぉ・・・。どうして見た目で相手を判断する癖が直らぬ。」


「どうゆう意味ですの?」


「そのまま舐めてかかると主が殺されると言っておるのじゃ。」


「仰る意味が理解しかねますが?」


「お主、小僧の身に纏う物が見えておらぬのか?」


「身に纏う物・・・・!?」


あ、バレタ・・・。


あの爺・・・・。余分な事言いやがって・・・。


「その物騒な物を引っ込めてはくれぬのかのぉ?」


「おい、爺・・・。余計な事すんじゃねぇよ・・・。」


「一応、これでもこやつ等の纏め役じゃからのぉ・・・。

むざむざ死なすわけにもいかんのじゃ・・・。


して、小僧望みはなんじゃ?」


「望みと言われてもなぁ・・・?」


爺にばれていた背中の魔方陣を消し答えを考える。


「お主等が扱うような金なんぞは我等は持ち合わせておらぬが他の物でなんとかならぬか?」


「ん~。じゃぁ、なんか貴重なもんくれたら考えてやっていいぞ?」


「貴重な物か・・・。」


そう言って、爺は先ほど止めた女に近づくと無造作にその角をへし折る。


「~~~~~~~!!!!」


女性は声にならない悲鳴をあげ蹲る。


「ほれ、魔人の角じゃ。お主にならそれなりに使い道があるじゃろう・・・。」


そう言いながら爺はへし折った角をオレに放り投げる。


「おい、爺!お前はバカなのか!?魔人の角って言やぁ確かに貴重品だ!


貴重なりに理由があるだろ!魔人ってのは角で魔力を操ってんじゃねぇのか?


その角が無けりゃ、魔力が上手く使えないだけじゃなく魔族からもはみ出し物にされんじゃねぇのか?」


焦ったオレは、角を折られた女の傍に駆け寄り、折れた角を根元にくっつけながら手持ちの一番効果の高いポーションをかける。


ぼんやりと折れ口光り、光が徐々に収まると折れていた角がくっついていた。


「ふぅ・・・。爺さんむちゃくちゃやりすぎだろ?」


「しかし、ワシがさっき止めねば当の昔に骸に変わっておっただけじゃろう?


それが遅いか早いかの違いでしかないわ。」


あぁ、魔族ってそうだよなぁ・・・。


個の意思というよりは、魔王が心臓で後は変えの効くパーツのような物。


魔王に死ねと言われれば簡単に命を差し出すような奴らだった。


まぁ、あくまでも俺の想像でしかない部分が大半を占めるが。


「しかし、お主は本当にヒト族か?魔人の角をくっつける様なポーションを惜しげもなく使うとは

本物のバカとしか思えぬわ。


それ一つでヒト族の国であれば国が買えるであろう?それを見ず知らず、しかも敵である筈の魔族に使うなぞ馬鹿にしても度を越しておるわ。」


あれ?なんか俺おかしい事したのか?確かに高級なポーションは高値がつくのは想像できる。


だが、エリクサーやアンブロシアじゃねぇぞ?ただのポーションだ。

精々家が買える程度かと思っていたが国が買えるとかありえねぇ・・・。


「人の事を馬鹿馬鹿言いやがって・・・。俺からすれば仲間の命すら簡単に摘む様な魔族の方が馬鹿としかおもえねぇよ。


仲間どうしで何故殺しあう必要がある?」


「それはお主等ヒト族も変わらぬじゃろう?

毎日の様に小競り合いを起こして殺しあってるではないのか?」


「あぁ、確かにそれは否定はできねぇが、大半の奴らはのんびり暮らしたいと思ってんだよ。」


「ふむ・・・。その話は結論なぞ出ぬであろう。


それより、コヤツの聞いた質問の答えがまだじゃ。


お主は何かを知っておるんじゃろう・・・?」


「あぁ、多分な。少し前にこの森で拾った卵の事(正確に卵ではないが)だろ?」


「やはり死っておったか。それを返して貰えぬものかのぉ?」


「返してやりたい気持ちも無い事も無いが、既に俺の手元には無い。」


「なんと!?お主食ってしまったのか!!」


「あほか!?雛が孵って親がつれてっちまったよ!!」


「むぅ・・・。こまったのぉ・・・。」


ドラゴンの卵はその味は確かに美味い。だが問題は味だけではない。

栄養価が物凄く高く回復薬の代わりにもなる位だ。


「おい、爺さんコレじゃだめか?」


先ほどの物と同じポーションを爺に投げる。


「なんと!?まだ持っておったのか!?」


驚きのあまり取りこぼしそうになるものの何とかキャッチする。

まぁ、まだあるから落としても地面の雑草が元気になる位だ。


「あぁ、それで最後だ。それもってとっとと帰ってくれ。」


「本当はまだまだ持っておるんじゃろう?」


「疑うなら返せ!」


「スマンスマン・・・。しかしワシらには払える対価が・・・。」


そう言いつつ爺のする事が予想できた為、爺までの距離を詰め空いた片手を掴み止める。


「おい、爺さん何をしようとした?」


「ほれ、魔族の心臓ならお主にも価値があるじゃろ?」


爪先まで皮膚に食い込んだ所で片手が止まる。


「そんなもんいらねぇからさっさと帰れ!」


「大丈夫じゃ!ワシの心臓は三つあるから一つ位減っても平気じゃぞ?」


「そういう問題じゃねぇんだよ!貸しにしといてやるからさっさと行きやがれ!」


納得いかなそうな顔をしつつも爺は倒れていた魔人の女を脇に抱えもう一人と共に去っていった。


「あぁ、気持ちが悪い。ゲームならいざ知らず、目の前で引き抜かれた心臓なんて見せられれば卒倒しかねないなこりゃ・・・。」


そう手についた爺の血を見ながら一人呟く。


まぁ、この血でも十分価値はあるさと、手についた血を丁寧に小瓶に収める。


あぁ、ほんの10分位だろうか、マルコ達の修行に付き合ってきたコレまでの期間でもっとも疲れた気がする。


今日は訓練は無しにしてゆっくりと休もうと誓う俺だった・・・。

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