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目を覚ますとそこには・・・。

通称貧民街。


街とつくせいで、聞こえは良いが、実は定職に着けていない者

もしくは、闇の世界に身を落とす者などいわゆる掃き溜めである。


街の城壁壁沿いに何本も出る、排水路沿いに伸びる貧民街。


戦争や魔物の襲撃で親や身内を失った者、怪我が元で通常の生活の出来なかった者などの

弱者がその8割以上を占める現代では想像しづらい世界であった。


だが、その小さな世界の中で生活できる者たちはまだ幸せなのかもしれない。


日々の糧を得る為に盗みなどの犯罪に手を染める者。

当然の様に、捕まれば死罪。運が良くても犯罪奴隷となる。


その世界に生きる者達には当然の様に市民権などは与えられていない。

ごくごく一握りの者が貴族などの目にとまるか有事の際の徴兵時、

生き残った場合にそのまま新兵として市民権が与えられる場合もある。


貴族の目にとまった場合は男と女では当然の様に行く先が変わる。


見た目の良い女が目にとまれば妾として召し上げられる。

男の場合は、運が良ければ出兵時の弾除けの一人として家族に少ない金銭を残す事が出来る。

さらに、その際に生き残るか、功績を少しでも積むことが出来ればさらにその機会が増える。


だが、その際に命を落とす事も少なく無いどころかほとんどの者が命を落とす。


この世界の命とは吹けば消える蝋燭の灯火と変わらぬものだった



家族は弟達だけだと言っていたマルコ。


しかしながら、自分の少ない食事すら近所の老夫婦に分け与えていた。


兵士の詰め所では、ロクに傷の手当もされないまま床に転がされていた新兵達。


なんだこの世界は?


俺が思い描いていた異世界とはこんなものだったのか?


剣と魔法。現代に生きていた俺には本当に夢の様な世界に感じた。

たしかに、力が無ければすぐに死が隣に来るような世界なのはわかる。


だが、力あるものが弱者を助けるなんて事が少なからずあって良いのだと

思っていた時もあった。


だが、実際はどうだ?


力なき貴族が権力を振りかざし、身分の低いものから搾取する世界。


運良く兵士になれたとしても、まともな練兵などされている様子など伺えなかった。


力あるものに何時刈り取られてもおかしくない命。


まるで家畜の様な生活を強いられている。


俺の中で怒り以外の感情がどんどん小さくなり。


反面怒りの感情が爆発しそうな位、大きく膨れ上がっていくのが感じて取れる。


だが、連日の寝不足で頭がはっきりしないのが事実だった。


しかし、まどろむ思考のなか床の冷たさが心地よくもあった。


ん?床が冷たい?


昨日はマルコの家で力尽きたところまで覚えている。


床の冷たさとは言え、まだ冬ではない。


むき出しの土でもここまで冷たくは無いはずだ。


寝返りをうとうとするも、まともに身動きが出来ない事に気がついた。


「ん?なんだ?」


知らない天井だ。


よし、夢の一つが叶った。


違う。


よくよく目を凝らすと格子窓からの薄明かりで自分が牢屋に転がされている事に気がついた。


「あ、ナナシさん気がついたっすか?」


「ふむ。なんでお前まで牢の中に居るんだ?」


「さぁ?自分にも良くわからないんです。


夜も明けないウチに先輩方がウチに着て、ナナシさんを簀巻きにすると

自分にもついてくるように言われて、牢に入れと言われたのが鐘二つ分位前っすかねぇ?」


「ふむ。って事はまだ夜が明けて間もないって事か。」


「ん~。そうっすね。そろそろ朝飯の時間だとは思いますよ。


あ、弟達は近所の人に頼んどいたからたぶんしばらくは大丈夫です。」


「たぶんって、どういう意味だよ。」


「まんまっすよ。しばらくは昨日のお祭り騒ぎのお陰で弟達の面倒を見てくれるとは思うっす。」


その一言で納得が出来た。


いくら近所に住んでいても、赤の他人をずっと面倒を見るなんてそんな余裕があるはずも無い。

この状況が何時までも続けばそのうち弟達は自分たちで生きていかねばいけなくなる。


日々の糧を得るのもただ待つだけでは不可能だ。


「ったく、なんでこんなに面倒事ばかり起こるのかなぁ・・・。」


「ん~。難しい事は良くわからないっんすがナナシさんが悪い訳じゃないっすよ。」


「自分も、最初に話を聞いた時はどんな大男かと思いましたが、

実際に会ってみれば自分より年下だって言うじゃないですか。


みんな得体の知れないものが怖いだけじゃないんですかねぇ?」


「お前はなんでそんな楽観的なんだよ?」


「下手に逆らっても殺されるだけですからねぇ。


大人しくしてればすぐに殺されるって事は無いっすよ。・・・多分。」


「おい、そこは言い切ってくれないと心配になるじゃねぇか。」


「現状は、二人とも生きてるんで大丈夫ですよ。」


何かを完全に悟っている目をしたマルコ。


あぁ、そうか俺の知ってる異世界物とは違う点が良くわかった。

ゲームとは違うリセットの無い世界。


死んだら終わりだ。


諦めているようで、自分の行き先が死に向わないように必死になっているだけだ。


少しでも、怒りを買えばすぐに死が待っている。


だが、力があれば跳ね除ける事も出来る。


力が無ければ怒りを買わない様にただ静かに待つ事しか出来ない。


「おい、マルコちょっと俺に背中を向けて座るんだ。」


「へっ?なんすか?自分の背中になんか付いているっすか?」


「黙って言う事を聞くんだ。」


「あ、はい。すいません。」


首をかしげながらも俺に背中を向ける。


マルコの背中に半分もたれかかる形で手を当てる。


「なんすか?なんかしてるんすか?」


「ん?もう感じてきたのか?」


思ったより、飲み込みは早いようだ。


「良いか、そのもやもやしたものが自分の心臓から湧き出て足から手、手から頭と体をぐるぐる回るようにイメージするんだ。


ゆっくりで良い。とまらない様にゆっくりゆっくりだ。」


「なんか、変な感覚です。わかる様なわからない様な。」


「理解出来なくても良い。そう言うもんだと思え。」


ん?何をしてるかって?


マルコと最初に会った時に気がついては居た。


コイツ素質だけは下手な冒険者たちより持ってやがったんだ。


誰かに教わった訳でもなく、剣術スキルが生えていた。

それ以外にも、魔法の素質は無くても身体強化のスキルも

持っていたのには驚いた。


スキルは0と1では大きな違いがある。


0と言うのは意識して使う事が出来ず、使い方を知りある程度の訓練を経て1となる。


だが、使い方を知らなければ永遠に0のままだ。


この世界に来る前に、あのクソ野郎が言っていた。

ごく一部の天才と呼ばれる者たちはそれを感覚で覚える物だと。


そして、運良くその天才の弟子になれた者達に関しては

訓練次第でスキルの習得が出来るとも言っていた。


だが、素質が無いものは素質のある者の10倍、100倍努力しても

スキルとして成立するかは保障どころか確立に1%未満と言う話らしい。


俺が何で、魔法や身体強化が使えるかって?


俺はあれだ、素質自体はこの世界に来る時にカミサマに頂いた。

後は、お得意のイメージだ。


現代知識のある俺には何故火が燃えるのか。何故水が出来るのか。

難しい話ではないはずだ。


だが現代知識の無いこの世界の人々には、魔法の詠唱にてイメージの補完をする。


無詠唱で魔法が使えれば化け物扱いをされても不思議ではない。


まぁ、その辺については割愛させて頂く。


「ナナシさん。なんかおかしいっすね?」


「ん?何がおかしいんだ?」


「なんて言うんすかねぇ?体があったかいんすよ。

で、それだけじゃなくて力が漲って来る感覚があるんすよ。」


「そうかそうか、その辺で一旦ストップだ。

一気に、やりすぎるとぶっ倒れて最悪死ぬぞ。」


「へ?!マジっすか!?」


「あぁ、おおマジだ。」


驚愕の事実に目を丸くするマルコ。


「お前は座っていながら、全力で走り続けているようなもんだ。」


「良くわからないっすけど、わかったっす。」


「よし、お前はしばらくここで休憩してろ。


俺はちょっと行って来る。」


「へっ!?この状態で何いってるんすか?」


縛られていた縄を引きちぎる俺。


「!?」


「お前は大人しくしてろよ?」


拳に力を込め、壁を破壊し外に飛び出る。


後ろで何かを言っている様な気もするが、すでに聞こえる距離ではない。


外に飛び出ると、領主の部屋目掛けて飛び上がる。


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