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嫌な予感的中そしてデジャヴ?

厄介事を終えて休むべく日の落ちかけた頃に宿に着いた俺の目の前には衝撃の光景が広がっていた。


「おい、女将さんよー!今夜の飯はどうなんてやがんだよ!!」


「そうだそうだ!昼に喰いに来た時の肉入りスープはどうしたんだよ!!!」


「俺は、昨日の"さらだ"って奴がもう一辺食いたく来たのに、

こいつは、野菜を切って盛っただけじゃねぇか!!


こんのなのウチのカカァでも作れるぞ!!」


罵詈雑言が飛び交う酒場兼食堂。

それどころか、宿に入りきれない人々が山のような人だかりを作り出していた。


「あんたたち、いい加減にしなよ!昨日のは特別だって何度も念押ししたじゃないか!


調理したのもアタシじゃないし、文句言われたってどうしようもないさね!!!」


あぁ、女将さんも売り言葉に買い言葉・・・。


こりゃ、さっさと逃げた方が身の為だな・・・。


「あれ?ナナシさんどうしたって言うんです?」


頭を抱えて逃げる算段をしていたところで後ろから声を掛けられ飛び上がる俺。


(おぃ!でかい声で人をよぶんじゃねぇ!!)


振り向いた先に居たマルコの口を塞ぎ、耳元で囁く。


「モガッ。んーんーんー!」


(いいから、ちょっとこっちにこい!!!)


口を押さえたまま、マルコを裏路地へと引きずりこむ。


「ぷはっ!!ナナシさん、俺は金なんて持ってないですよ!!」


「はぁ、なんでそうなるんだ!」


「え?だってこんな人気の無い所に連れ込むなんて他には・・・!?


ボクはそっちには興味ないですよ!!??」


人気の無い裏路地に拳骨の音が響き渡る。


「いったーい!!!」


「お前は本当に人の話を聞かねぇんだな?」


「じゃぁ、一体なんだって言うんですか?」


涙目でこちらを見上げるマルコ。


「理由は後で話すから、今夜はお前の家に泊めろ。」


「え!?なんでウチに・・・?」


「いいから、黙って案内しやがれ!!」


「はっはい!!!」


「ちょっと待て、買出しに行くのを忘れてたわ。お前も付き合え。」


「もう、急ぐのか急がないのかどっちなんですか!?」


「お前の家に俺の分の飯があるわけないだろ?


今日は、朝飯以外食えてねぇんだよ!ここままで寝られるかってんだ!!」


それから、文句を言うマルコを連れて、食材屋を回り適当に食材を買い込む俺。


「ナ、ナナシさん・・・・。もう、これ以上は重たくて持てないっす!!」


「喋る余裕があるなら、まだ持てる心配するんじゃねぇ!」


「なんで、そんな事が解るんですか!?」


粗方の買い物を終え、貧民街の入り口に着いた所でマルコが力尽きる。


「おいおい、兵士様の癖になんで力尽きてるんだよ?」


「無理っす!もう、本当に限界っす!!」


「喋る体力があるならまだ歩ける!ほら立て!!」


「そう言うナナシさんは手ぶらじゃないですか!少しくらい持ってくれたっていいじゃないですか・・・。」


「ったくしょうがねぇなぁ・・・。」


一番上に乗せた小さな籠を手に持つ。


「ほら、行くぞ・・・。」


「うぅ・・・。あんまりだぁ・・・。」


泣きべそをかきながら歩くマルコを尻目に歩く事数分でマルコの家に着いた様だ。


「にいちゃん、手が塞がって開けれないから誰か扉を開けてくれないか?」


扉と言うには心苦しい、ただ板を立てかけた様な入り口。


家と言うには余りにもお粗末。


廃材を集めて作った壁に廃材を乗せて石で押さえただけの屋根。


地震や台風でも来れば一発で崩れそうだ。


「にいちゃん?」


「あんちゃん?」


「お土産?」


「御飯?」


「おかえりー?」


「ただいまー?」


様々な返事が家の中から返ってくる。


「おいおい、お前の家は一体何人兄弟なんだよ?」


「そんなに驚く事ですかねぇ?ウチは弟が5人と妹が一人ですよ?」


7人弟妹って多いんじゃねぇのか?


開く扉の奥には小さな子供達。


俺の事を不思議そうに見上げる。


「だれー?」


「おきゃくさん?」


「おにーちゃんだれー?」


「・・・・。」


「悪い人?」


「おにいちゃんの子分?」


「こらこら、ここに集まっちゃ中に入れないだろ?」


マルコの声に弟達は家の奥のほうに入っていく。


「おい、マルコ。お前両親は?」


「あぁ、両方ともいねぇっす。」


「軽いなぁ!」


「だって、居ないもんはしょうがねぇっす。」


「まぁ、あれだなんか俺が悪かった。」


「そんな事ねぇっす。こいつらも小さいなりは理解してるんす。」


「そうか。そういやお前ら飯はどうしてんだ?」


「大体自分が帰る時に買って来るか、帰ってきてから作りますね。」


「そうか、じゃぁお前も手伝え。」


「何作るっすか?」


「あるもんで適当に作るんだよ。」


「台所はどこだよ?」


「ウチにそんな大層なもんはねぇっすよ?」


「やっぱり無いか・・・。」


あばら家、それも弟妹含め7人に加え俺が入るとほぼほぼ、満員電車の様な状態になる。


「いつもは、家の裏で大体作るんすよ。」


そう言われて、家の裏に来ると石で囲ったカマドもどきがあった。


よくもこんなもので飯が作れるものだと感心する。


そして、余りにもお粗末過ぎて、そのモドキを蹴り崩す。


「ちょっ!ナナシさんいきなり何するんすか!?」


「お前も作るならもう少し頑丈に作れよ。


これじゃ、鍋を置くのも怖くて置けやしねぇぞ!」


「いや、大体黒パンを焼いたりする位だし、これでも十分・・・。」


「ほう、俺に黒パンだけで飯にしろと?」


「いや、いきなり泊めろと言われてもウチにそんな豪華な飯がある訳無いじゃないですか!!!」


「だから、買出しに付き合わせたんだが?」


「うっ!」


すべて見抜かれていた事に気づいたマルコが言葉に詰まる。


「でも、突然どうしたんすか?寝るなら宿に帰れば良いじゃないですか!?」


「あの状況で宿に入れると思うのか?」


また(・・)、何かやらかしたんですか?」


「またってどういう意味だよ?


俺はただ自分の飯を作ってたら他の客の分まで作らされただけで俺のせいじゃない。」


「おら、できたぞ。」


モドキを崩した石を組みなおし、隙間には泥を詰めて熱が逃げないようにする。

今にも崩れそうだったかまどは、鍋を置くくらいじゃなんとも無い位の安定するようになった。


背袋から中華鍋を下ろし、カマドに置く。


「水はどうしてんだ?」


「あぁ、それなら今弟達が汲みに行ってるっす。」


「にーちゃん、これで足りる?」


弟のうち年上二人が大きな木の桶を抱え帰って来た。


「お前たちえらいぞー。」


「「えへへへぇ。」」


マルコに頭を撫でられ喜ぶ達。


「ほら、みんなで仲良くこれでも食って待ってろ。」


背袋から保存食の干し肉を何枚か出し、そいつらに差し出す。


「いーの?」


「ほんと?」


「あぁ、ケンカするなよ?」


「「ありがとー。」」


「お前よりしっかりした弟達じゃねぇか。」


「うぅ・・・。面目ないっす・・・。」


鞄から出した大きめの木の葉で黒パンを包みカマドの傍に置く。


中華鍋にはオークの脂身を落とし、溶かす。


適当に切った野菜を炒めつつ、干し肉を放り込む。


先に水で練って固めていた小麦の塊を適当な大きなに千切って鍋に放り込む。


「なに作ってるんすか?」


「あ?名前なんてねぇよ。スープだけじゃものたりねぇし、この鍋一つじゃ何種類も作るのは無理だろ?全部まとめて済ませるんだよ。」


「ナナシさんってホントは料理人なんすか?」


「だから、俺はずっと旅をしてきたって言っただろ?


保存食ばかり喰ってりゃ嫌になるからな。


自分で作れば固くなった黒パンだって旨く食えるし、不味いものばっかりじゃ

旅も続かねぇだろ?」


「なるほどー。勉強になるっす。」


「なんだ?お前も旅人になる気か?」


「うん。それは無理っすね。弟達が大きくなる頃にはそんな体力はないっす。


それに、自分はそこまで強く無いんで、精々衛兵まで昇格できれば御の字ですねぇ。」


「それもそれで夢がねぇなぁ。」


「まぁ、親無しの自分たちが餓えずに済むだけでも十分ですよ。」


「まぁ、確かにそうだわなぁ。俺だって同じ親無しだからその辛さは解るぞ?」


「ていうか、ナナシさんと一緒にされるのは無理っす!」


「なんだよ?無理って!?」


「いや、自分は貴族様や領主様相手にあんな態度は恐れ多くてできねぇっす。」


「ん?嫌になったらトンズラするだけさ。別に世話になった記憶もねぇしな。」


「それは力のある人のセリフっす。自分達みたいな貧民には夢にも思えないっす。」


「おいおい、俺だって最初は何も出来なかったさ。


それこそ、一人で森の中を彷徨って生きてたしなぁ・・・。


死んだ親父と何度か猟に行ってた事を思い出しながら、罠をかけたり火を起こしたり。


なんど餓えて死ぬかと思ったが、なんとか死なずにここまで来たんだ。」


俺もよくここまで嘘が次から次えと吐けるものだと自分自身に関心しならがら適当に誤魔化す。


「よし、こんなもんだろう。」


良い臭いをさせる鍋を目に俺は満足げに頷く。


「おや、お前ら自分の器を持って並べ。」


チビ共にそう声をかけると、大きな器を持ったのが三人並ぶ。


「おい、他のはどうした?」


「あー、すいやせん。ウチにはそんなに器の数が無くて順番に喰うんでさぁ。」


「ったく、そう言う事は先に言えよ。」


背袋にかけてあった器を持たせて他のチビどもにも出来た飯をよそう。


「おら、お前らこぼすんじゃねぇぞ?足りなかったらまだ残ってるから腹いっぱい喰えよ?」


「ちいさいにーちゃんありがとー。」


うん、確かにマルコに比べて頭一つ分小さいのは認める。

だが改めて言われると傷つく。


マルコがでかすぎるんだよなぁ・・・。


チビどもは思い思いの場所に座り、そのまま飯を食い始める。


「あれ?マルコは何処行った?」


「ん?にいちゃん?たぶんじーちゃんたちのとこかな?」


「なんだ?爺さんが居るのか?」


「うん、すぐ裏にじいちゃんとばぁちゃんが居るよ?」


「だったらさっさと呼んで来ればいいじゃないか?」


「じいちゃんも、ばぁちゃんも目が見えないから歩けないよ?」


「!?」


「いいか、お前ら大人しくそれ喰ってろよ?」


「あぃ!」


チビ共に教わった裏の家に着く。


「おい、マルコお前の晩飯はどうした?」


ちょうど戸口から手ぶらのマルコが出てくるところだった。

マルコの分は確実に俺が手渡しはずだ。

それが手ぶらで出てくるという事は聞くまでも無いだろう。


「いや、なんでもないんすよ。今日はちょっと腹の調子が悪くて・・・。」


「短い付き合いだが、何故隠し事をするんだ?」


「いや、隠しているというか、これ以上迷惑をかける訳には・・・。」


「いいから、これで食材買い集めて来い!!」


今日の昼間、領主から貰った金貨の袋をマルコに投げつける。


「!?」


「良いから、黙って全力で行って帰って来い!」


「はっはい!!」


言うが早いか、マルコは大急ぎで街の方へと消えてゆく。


戸口から中の様子を覗くと爺さんとばあさんの二人が一杯の汁を泣きながら啜っていた。


「おやぁ?マルコじゃないねぇ・・・・?」


「どちらさんですかぁ?」


「ウチには泥棒さんに差し上げるものは何も残ってはおりませんよぉ?」


こちらの気配を感じたのか、ばあさんの方がこちらに向って声をかけてくる。


「あぁ、俺はナナシ。マルコの友達さ。


マルコのやつ二人居るのに一人分しか持って行かなかったから、もう一人分持ってきただけだよ。


熱いからゆっくり食べるといいさ。誰も盗りはしないから・・・。」


そういって、ばぁさんに俺の持っていた晩飯を手渡し、俺はチビ共の所へ戻る。


「おぉ、見事に空になったなぁ。」


「まんぷくー。」


「おなかいっぱいー。」


「まんぞくじゃー。」


全員が満足そうに笑みを浮かべ、お腹をさする。


「さぁ、喰ったばかりで悪いんだがまた水を汲んできてもらえるか?」


「ん?まだ何か作るの?」


「あぁ、俺達の御飯は終わったけど、今日も御飯の食べれない人たちが居るだろ?


お兄ちゃんが領主様から寄付をもらったから、今それでみんなの御飯を買いに言ってるんだよ。」


「そっかー。」


「わかったー。」


「がんばるー。」


「頑張るのは良いが、走って転ぶんじゃないぞ?」


「はーい。」


かまど一つでは絶対に足りない事はわかる。


こっそりと収納から寸胴鍋を取り出し、石をチビ共と一緒に集めカマドを追加する。


新たなカマドが完成する頃には、マルコが戻り食材も程なく食料品店の丁稚が届けに来た。


そのまま炊き出しが始まり、昨日に続き夜中まで鍋を振るい続けるハメになったのは言うまでも無い。


「うぅ・・・。二日連続とかマジで無理・・・。」


俺はマルコの家の戸口で力尽きそのまま意識を手放したのだった。




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