OHANASHIの時間です。
先日と変わらないのは領主のみで、何故か横にはガマ蛙が俺に縛られたままの状態で転がっていた。
「んむ。忙しい中ご苦労。」
「そう思うのなら、わざわざ呼び出すのをやめてもらいたいものだ。」
「そう言うでない。お主には聞かねばならぬ事がこの一晩で二つも増えたのだ。」
「断る。」
「何故だ?」
「別に、俺はおっさんの庇護を受けてる訳でも無いしなぁ。
生まれてこの方、ド田舎で生きてきてそのまま孤児になってからは旅生活だし。
わざわざ、貴族のお世話になる気も何処かの国に厄介になるつもりも無い。」
「ふむ。一理あるな。しかし、この街に来た理由はなんだ?」
「あ?答える義務は無いと思うが?」
「お主は、話し合いに着たのかそれともケンカを売りに着たのかどちらだ?」
「ん~。両方?」
そう言う俺を見て、領主のおっさんは何故か頭をかかえる。
「何が望みじゃ?」
「え?帰って良い?」
「話にならんぞ?」
「ったく、しょうがねぇなぁ。
この街に寄った理由は冒険者になれば街の出入りや他所の国に行くのに便利だろ?
ただそれだけの事だ。」
「ふむ。他に理由は無いのか?」
「しいて言うなら、肉ばかりの生活に飽きた。」
「なんと贅沢な・・・。その肉すら口にする事がままならぬ者がほとんどだと言うのに・・・。」
「へ?そんな馬鹿な事があってたまるか。冒険者の連中は何してやがんだよ?
俺が冒険者だったなら良い小遣い稼ぎになると思ってやるぞ?」
「ふむ。お主はその小遣いを稼ぐのに命をかけると言うのか?」
「おいおい、何と戦わせるつもりだよ?俺が言ってるのはオーク程度の話だぞ?
ワイバーンやドラゴンなんてまともに戦うもんじゃねぇしな。」
「その口ぶりからすると、ドラゴンなどと遭遇した経験があるのか!?」
「あると言えばあるし、無いと言えば無い。」
そう、ゲームの中じゃ星の数ほど倒してきた。
この世界に着てからも一応は遭遇してる。
「ドラゴンと遭遇して生きて帰って来た者なぞ、伝承にある勇者位しかしらぬ。
ワイバーンですら、一匹で町が未曾有の被害を受け二匹以上くれば街を放棄せざるを得ない。」
ナニソレ?不味い事言ったか?
「ワイバーンは森の中から空を飛んでるのを見ただけだ。
ドラゴンに関しては、答えても意味が無い。」
「何故意味が無いと言い切れる?」
「ったく、しょうがねぇなぁ。教えてやっても良いが高いぞ?いくら出す?」
「金貨5枚でどうだ?」
「そんな端金いるかよ。」
「っく、じゃぁ金貨50枚だ!」
あ、いきなり10倍になった。
「まぁ、情報だけだし、それでいいや。
たぶん、この街にも情報が入ってると思うがアレだ。」
「お主、あのドラゴンと遭遇したのか!?」
「あぁ、ばっちり遭遇したね。」
「して、どうやって退けた?」
「俺は、何にもしてねぇよ。たまたま飯食ってたら魔物の子供が寄ってきたんだ。
あんまりにも可愛かったから餌やってたら、その親が来てドラゴンの雛だったのが解ったんだよ。
まぁ、最初はワイバーンか地竜の子供かと思ったんだがな。
んで、俺は子供に気を取られてる隙に全力で逃げた。
ただそれだけだ。」
「まさか、あのドラゴンが街近くの森に来た理由がそんな事だったとは・・・。」
「だから聞く意味が無いって言ったんだぜ?
俺は最初にちゃんと忠告したからな?」
そう言いながら、俺は領主のおっさんに向けて手を出す。
「んむ。有益な情報であった。十分にその価値はある。」
「そう思うなら、さっさと手を離せ!」
差し出した金貨の入った布袋を頑として放さない。
「御館様、今月のお小遣いはもうありませんからね?」
金貨を持ってきたいかにもメイド長を体現する女性がにこやかに微笑む。
「ぐぬぬぅ。しかたない・・・。」
諦めて手を離すも、目は皮袋から離れない。
「お主があの村に居た理由もこれで判明した。そしてこやつの悪行も村長が全部話してくれたぞ。
しかし、不可解な事がいくつかある。
即死でなくとも、村長はそこの兵士から致命傷を受けていたはずだ。
その村長には傷も何も残っておらなんだ。
その事は村長に聞いても頑なに答えようとせぬ。
そして、数日前に弱りきっていた家畜がすべて元気に鳴いておった。
お主、何かしおったな?」
「ふん、それこそ金を貰っても答えられねぇなぁ。」
「それは肯定と取れる答えじゃぞ?」
「別にどうとらえようとおっさんの勝手だと思うが?」
「それを踏まえて頼みがある。」
「断る。」
「聞くだけ、聞いてもくれぬのか?」
「厄介事の臭いしかしねぇよ。」
「むぅ。金貨100枚だそう。」
「嫌だって言ってんだろ?」
「仕方ないか・・・。」
解りやすく方を落とすおっさん。
「まぁ良い、それで増えた聞きたい事のけんだが答えぬ場合は投獄せねばならぬ。」
「あぁ?俺は何にも犯罪は犯してねぇぞ?」
「だから、答えよと言うのじゃ。」
「内容によるな。」
「では、単刀直入に聞こう。お主は隣国からの間者か?」
「はぁ?なんでそんなめんどくさい事しなきゃいけねぇんだよ。」
「ふむ。昨日、冒険者ギルドに行ったのに登録もせずに帰るからじゃ。」
「厄介事に巻き込まれて忘れてたんだよ!」
「お主は、自分で厄介事に首を突っ込んでおる節があるのぉ。」
「あ?絡まれたから避けて逃げただけでなんでそうなるんだ?」
「年端も行かぬ子供が、大人相手にそんな立ち回りが出来てたまるか!」
「実際に出来たからしょうがねぇだろ?」
「言い訳にもなっておらんわ!」
「ったく、だったらどうすりゃ良かったんだよ?
あのまま、殴られてりゃ痛い目を見たのは俺だぜ?」
「最初の輩はそうかも知れぬ。
じゃが、後からのはわざわざ投げ返さなくても皮一枚で済んだはずじゃ。」
「それ、皮一枚切れてんじゃねぇか!!!」
「冒険者の洗礼の様な物だと諦めるのじゃ!」
「そんな面倒事なら冒険者は辞めだな。このまま気ままに旅を続けるさ。」
「ふむ。惜しい気もするが引き止められる気もせぬ。
最後の質問じゃ。お主が昨日の夜に宿屋で作った料理は何じゃ?」
「ん?俺の手料理だ!」
「そう言う意味ではないわ!」
「ったく、本当に面倒な事ばかりききやがるなぁ・・・。」
「街の誰も食べた事の無い味で物凄く旨かったと聞いたんだが?」
「へー。調理場にあった物しか使ってないはずだが?」
「だから聞いておるのじゃ!」
「それこそ、金では教えられないな。だまってりゃもっと儲かるんだしなぁ。」
「ぐぬぬぬぬ。」
「なんでそんなにこだわるんだ?」
「ワシが食べれてないからに決まっておるじゃろう!」
あぁ、喰い意地がはってるだけか。
「そんなもん、俺に言われたって知るかよ!」
「そこを何とか・・・。今晩もな?」
「夜中まで作らされるから嫌だね!」
「ならば、屋敷の調理場を使えば良いではないか!」
「気が向かないからヤダ。」
「むぅ・・・。本当に駄目か?」
「女々しいぞ?」
「お主にワシの気持ちが解ってたまるか!
毎日毎日野菜と黒パンと芋ばかり、肉だってたまにしか食えぬのに・・・。
肉に飽きたと街に来るお主にワシの気持ちなんか解るのもかーーーー!!!」
あ、おっさんがいじけて飛び出していってしまった・・・。
「御館様が取り乱してしまい、申し訳ありませんでした。
用件は以上だと思いますので、お帰りになって結構です。」
メイド長さんが代返してくれた。
「ん。じゃぁ、俺は帰るわ。あんたも大変だろうけど頑張ってくれよ。」
そういい、先ほどの袋から金貨を五枚ほど抜いて残りを返す。
「よろしいのですか?」
「あぁ、この街の財政だって余裕がある訳じゃないんだろ?」
「本当にませたお子様ですね?」
「これでも12歳なんだがね?」
「私からすれば十分お子様です。」
「・・・・・・。じゃぁ、失礼。」
年の事を口に出そうとした瞬間ドラゴンに対峙した時よりも恐ろしい位のプレッシャーを感じ
言葉にならないまま、部屋を後にする。
さぁ、今日はもう宿に戻ってごろごろしよう・・・。




