ベーコンエッグと肉団子のスープ
「良い加減に起きて飯を食ってくれないと片付かないんだよ!!」
大きな声と共に体の上にかけてあった布団が引き剥がされる。
「うぅぅ・・・。後5時間・・・。」
「何言ってんだよ!そんなに待ってたら昼の鐘が鳴っちまうよ!!」
「昨日は一日歩き通しの上に、夜中まで料理をつくらさられたんだぞ!」
「いやぁ、あれは儲かったねぇ・・・。ウチだけじゃなくて食材屋連中も大喜びだったよ。」
「でもさぁ、俺自分で部屋に戻ってきた記憶が無いんだが?」
「そりゃぁ、あんた料理場で寝ちまって起きないからアタシがここまで運んでやったんだよ?」
「うぉ!?マジで力尽きて寝ちまったのか・・・。
道理であちこちぶつけた様に・・・特に頭が鈍器で殴られた様に痛むわけだ。」
「ほら、もう過ぎた事は忘れてさっさと仕事にいきな!」
「いや?俺は旅人でいわゆる無職なんだが?」
「何言ってんだい?朝早くから、もう鐘二つ分も立派な格好をした兵士があんたの事を下で待ってるんだよ?」
「・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・あ!?」
「おいおい、あんた御貴族様との約束を忘れちまってたとかなんてやめておくれよ?
その年で不敬な子供だよ。町民がそんな事すれば切り捨てられても文句は言えないんだからね?」
「あぁ、その辺は大丈夫だ。特に時間を決めて約束してた訳じゃないし
正直気が進まないから、行くのをやめてさっさと次の街にいこうかと・・・。」
「馬鹿な事言ってんじゃないんだよ!」
おかみさんに怒られた俺はすごすごと階段を下りて、一階にある酒場兼食堂へと下りる。
「お待ちしておりました!!!」
食堂の隅に隅に置物の様に立っていた兵士が俺に気が付き敬礼する。
「町民ですらない俺にソレはおかしいんじゃないか?」
俺の声にはっとした様に顔色を変える兵士。
「あぁ、気にするな。飯がまだだからそこの空いてる席に座ってくれ。」
「は、はい!」
年の頃は15歳位だろうか、まだまだあどけなさの残る兵士だ。
座る兵士の向かいに座ろうとすると、階段の上から声がかかる。
「あんたは何席に座ろうとしてんだい?自分で作って喰えって言ってんだよ?
起こしてもらった上に飯まで作らせる気かい?」
俺は客のはずなんだが・・・・。と思ったが拳骨は嫌なので
大人しく調理場へと向かい食材を見る。
まぁ、昨日のお陰でろくな食材が残ってない。
野菜と卵に関しては朝仕入れた分があるため残っていたが、肉類はさすがに全滅だ。
無言で空間収納から見えないようにオーク肉のベーコンを取り出し、熱したフライパンに乗せ
卵を落とす。
横の鍋で収納の中にとって置いたオークの骨や香草などを一緒に煮込み同時にスープを作る。
フライパンを弱火にし、丁寧に灰汁をとりスープを仕上げる。
普通に煮込んだだけでは時間がかかり過ぎるため、一旦蓋をして
鍋自体に魔法で圧力を掛け火力を上げ簡易の圧力鍋の要領で出汁を煮出していく。
野菜を適当に切り、鍋が良い頃合になるまでに酢、塩、胡椒などで簡易のドレッシングを作る。
切った野菜を適当に盛り、作ったなんちゃってドレッシングを小瓶に移しテーブルに運ぶ。
魔法を解除し、鍋から骨くず等を笊で濾し取り収納から取り出した肉団子を入れて一煮立ち。
出来たスープと焦げ目の付いた黒パン。ベーコンエッグを皿に載せテーブルに運ぶ。
「さて、夜中まで飯を作らされて、おきて早々また飯作りとは何て日だ・・・。」
「あさから、物凄い食欲ですね?」
少年兵は並べられた二人分の朝食?を見て勘違いしているようだ。
「ん?なんだ?朝飯食ってきてたのか?」
「え!?」
なんだ?この反応。席に座らせておいて俺一人で喰うと勘違いしたのか?
「おいおい、俺の何処にこの量が入ると思うんだ?
もし要らないなら戻してくるが?」
半分嫌味を言った瞬間、この世の終わりかと言う表情に変わる。
「いえ、滅相もございません!頂きます!!」
「ん、そうか。んでは、”イタダキマス”。」
両手を合わせて、一声かけた後、食事を始める。
ん?何故食べ始めないんだ?
遠慮してるのか?
「どうした?喰わないのか?」
「いえ、そう言った訳では・・・。」
「いいから、さっさと喰え!」
「あ、はい!!」
「こらこら、あんたも新人に意地悪するんじゃないよ!」
「はぁ?俺がいつ意地悪したって言うんだよ?」
上から降りてきたおかみさんが声をかけてきた。
「あんた、本当にどこから来たんだい?
新人の兵士どころか普通の兵士は自分より立場の上の物が食事を終えたるまで
食事に手を付けられる訳が無いじゃないか!
そんな事すれば良くて免職されるか、運が悪ければ切り捨てられて死んじまうさ。」
ナニソレコワイ。
「はぁ!?俺はコイツの上司でもなきゃ貴族でもねぇただの旅人だぞ?」
「あんた、本当に腕は良さそうなんだが大事な事を何も知らないねぇ?
あんたは、この子の雇い主である辺境伯様のお客人なんだろ?
そのお客人ってのは当然丁重に扱うのが礼儀さねぇ。
って事は当然、上司以上の扱いになるのが常識ってもんだろ?」
「あぁ、そうか・・・。すまなかった・・・。」
言われてはっきりと理解する。
奴隷と言わなくても、それに近い。
上司の命令は絶対。
逆らえば、吹いて消える命。
あぁ、なんて命の軽い世界だ。
だが、逆に力さえあればなりあがる事も出来る。
面白い、だが同時に至極めんどくさい。
うん、普通が一番だな。
「そう言えば、名前を聞いてなかったな。
俺は”ナナシ”だ。あんたは?」
「はっ!自分は”マルコ”と申します。」
座って居たマルコは席を立ち、敬礼をする。
「あぁ、訂正するわ。めんどうだから一々そう言うのはやらなくていい。」
泣きそうな顔をするマルコ。
「おいおい、一緒に飯を食えばもう友達だろ?」
「へ!?」
「あんたもたまには良い事言うじゃないか。アタシは嫌いじゃないねぇ、そう言うの。」
おかみさんは横でニコニコしている。
「短い付き合いかも知れないがよろしく頼むよ。」
「はい!」
この日一番の笑顔が見られた気がする。
朝食を終えた俺たちは先日の件で辺境伯様の屋敷へと向う。
「遅いぞ!」
怒号と共に横に居たマルコが殴り飛ばされる。
「貴様、態々呼び出させておいて所定の時間に訪れぬとはどういった所業だ?」
「あぁ、判った。」
踵を返し、街へと戻ろうとする。
「何故戻ろうとする!?」
怒りの表情で門の前で待っていた兵士が俺の前に立ちふさがる。
「うるせぇんだよ!」
軽く殴ったつもりが癖で身体強化を使ってしまったらしく豪快に兵士が吹っ飛んでいく。
「おい、マルコ大丈夫か?」
「ひゃ、ひゃい・・・。」
あぁ、口の中は血だらけ。歯まで折れてやがる。
手加減しすぎたか?
「おい、兵士の詰め所はどこだ?」
先ほど吹き飛ばした兵士を蹴り起こし案内させる。
「おら、おせぇんだよ!キビキビ歩け!」
背中から再度蹴りを入れる。
今度はただ押すくらいなの勢いなどは吹き飛びはしない。
しかし、どこか骨でも折れたのか歩き方がぎこちない。
「マルコ、もう少しの辛抱だからな?」
「????」
先ほどの衝撃から頭が理解していないのか、マルコは不思議そうに俺を見る。
マルコを背負ったまま、詰め所らしき小屋に来るとボロいベットにマルコを寝かせると
背袋から低品質のポーションを取り出しマルコの口に含ませる。
「良いから、黙って飲め。」
突然の事に目をパチパチと驚く。
「ちっ、歯は生えてこねぇか・・・。」
血は止まり痣は消えたものの折れてしまった歯はさすがに生えてこなかった。
「一体何を飲ませたんですか!?」
痛みの消えた事に驚くマルコ。
「あ?なんでも無いただの薬だよ。」
たかだかポーション程度で驚く事か?と思いながら答えるとベットから転げ落ちて土下座する。
「ボ、ボクなんかにそんな貴重な物を使わせてしまって申し訳ありません・・・。」
はぁ?たかだか低級のポーション程度で何言ってんだ?
「代金は一生かかってでもお支払いします。」
「あー、いらんいらん。」
「へ?」
固まるマルコ。
今更ながらに周りを見ると何人もの兵士がベットだけでは無く床に転がされていた。
「おい、マルコこいつらはお前の仲間か?」
そのどれもが年端もいかぬ少年兵のようだ。
それぞれに包帯を巻き、痛みに呻いている。
「はい、先日のドラゴンの騒ぎで逃げてきた魔物の討伐で怪我をしてきた者達です。」
そこには10人近い人数の少年兵がロクに手当てもされず寝かされていた。
「ったく、めんどくせぇなぁ・・・。」
また、厄介ごとかと思いつつドラゴンの騒ぎと聞いて俺にも責任の一端はある。
そう、思い直すと一人一人に背袋から同じように低級ポーションを取り出し与える。
深い傷はほぼ塞がり、荒々しい呻き声は、静かな寝息へと変わる。
「ナ、ナナシさん・・・。貴方一体・・・。」
「あ?だから、ただの旅人だって言っただろ?
冒険者になる為にこの街に着たんだよ。
俺は辺境伯の所に行くからお前はここで休んでろ。
話が終わったら戻ってくる。」
「?????」
いまだに状況の見えないマルコは言われるまま頷く。
「てめぇ、まだ居やがったのか?さっさと持ち場にもどれよ!!」
先ほど殴り飛ばした兵士が奇跡でも見るかの様に俺達を眺めていた。
「はっ!?申し訳ありません!!」
あれ?態度が急変した。
よくわからねぇやつだ。
ぎこちない歩き方のまま大急ぎで門の方へ戻る兵士。
さすがに寝覚めが悪く、後ろからポーションをぶつける。
強く投げすぎたか、その勢いで転ぶ兵士。
しばらくして、怪我が治ったのかこちらを振り向き一礼の後門へと消えていった。
まったくめんどくさい事しか起こらない。
さっさとギルドに登録してこの街から逃げるのが一番かなぁ・・・?
思案を巡らせながら、先日会話をした部屋へと向うのであった。




