やっぱり定番新人は歓迎される。
屋敷を後にした俺は、冒険者ギルドの場所を聞くと、
宿屋はギルドのすぐ傍にあるとの事だった。
宿の確保は後回しにして流行る気持ちを抑えゆっくりと屋台めぐりをしながら
ギルドへ向おう。
日も完全に落ち、暗くなった街中をゆっくりと歩く。
適当な屋台で買い食いもするが味付けなどはほとんどされておらず、串焼きも申し訳程度の塩味のみとかだ。
汁物なんて特に最悪だった。
野菜の切れ端が申し訳程度に浮かび、肉なんて風味付け程度に入れただけの欠片すら見えない。
「くそっ!こんな事なら野宿してても大してかわらねぇじゃねぇか・・・。」
文句を言いつつも屋台以外の店を探すもどの店も日暮れ前に閉店したと見えてすべての木戸が降ろされていた。
ぶつくさと一人文句を言いながら歩き続け、目的の場所へと到着する。
「やっと見つけたぜ、これが冒険者ギルドか・・・。」
結構な大きさの建物何故か扉や壁には刃物や矢で出来たであろう傷に焦げた様な形跡まである。
「本当に街中だよな?街中なのに何故こんなに傷だらけになるんだ?」
扉の前で思案を巡らせていると突然扉が轟音と共に吹き飛び、扉の破片と共に人が飛んでくる。
扉の破片と飛んできたであろう人を避け中に入る。
「おい、子供は寝る時間だぜ?」
始めてきた街に知り合いなど居るはずも無いので無視を決め込む。
奥の方には、いい感じのバーカンウンターがあったので、空いている席に勝手に座り、マスターらしき男に注文をする。
「蜂蜜酒一つ。無ければエールでも構わない。」
「蜂蜜酒は今切らしてる、エールで良いなら銅貨3枚だ。」
無言でカウンターに銅貨三枚を置く。
置くのが早いかほぼ同時に泡立つエールがドンと音を立てて置かれる。
生ぬるいエールが少し飛び顔にかかるが気にせず口に含む。
うん、生ぬるい・・・。
氷魔法の要領でエールの温度を下げ良い具合まで冷やす。
そうして二口目を飲もうとすると後ろからさっきと共に拳が来るのが判る。
「人の話をきかねぇ餓鬼にはお仕置きが必要だなぁ?」
その拳を避けると共に背後に居た男に手に持ったエールをぶっ掛ける。
「こ、このクソ餓鬼がー!!!」
無言で銅貨三枚とエールを引き換え拳を避けつつ席を立つ。
拳を振りぬく勢いが止まらず、大きな音を立てて床へ突っ込む男。
倒れた拍子に何人かの他の客が巻き添えとなる。
濡れた床に突っ伏す男の背中に座り何事も無かったように冷やしたエールを煽る俺。
「て、てめら、やっちまえーーーーー!!!」
傍観していた数人の男達が獲物に手をかけようとした瞬間階段の上の方から声が聞こえてきた。
「一体何の騒ぎだ?穏やかじゃねぇなぁ?」
ん?なかなか強そうな奴が出てきたぞ?
「人が一仕事終えて帰って来たばかりなのに何の騒ぎだって言うんだ?」
「いや・・・。なんでもないんでさぁ・・・。
ちょっとこの餓鬼に世の中の常識ってのを教えてやろうかと・・・。」
「ほう・・・。てめぇらは何時から人に物を教えられる様になったんだ?」
「いや、そんなつもりじゃ決しって・・・。」
俺の下で床にへばりついた男がガタガタと震え始める。
折角の酒がこぼれるじゃねぇか。
”ドン”
片足で床を音を立てて鳴らすと椅子代わりの男の震えが一瞬止まる。
「おい、そこの小僧。ちょっと二階へ来いや・・・。」
階段の上の男からお呼びがかかる。
しかし、俺は無視を決め込み残りの酒を煽る。
そのまま、飲みきろうとした瞬間何かが俺目掛けて飛んでくる。
そのまま開いた左手で受け止め飛んできた倍の速度でそのまま投げ返す。
「おもしれぇ事するじゃねぇか・・・?この街じゃみねぇ顔だな?
流れの冒険者か?」
「唯の旅人にナイフを投げつけるのが冒険者の流儀か?」
「ほう・・・。最近の餓鬼は法螺まで吹くのか?」
「ガキガキうるせぇんだよ、おっさん・・・。」
「あぁ!?俺はまだ26だ!」
「なんだ十分おっさんじゃねぇか。」
「口の利き方のなってネェ餓鬼だなぁ?」
そう言うと、一瞬で俺の前まで跳躍して拳を振りぬこうとする。
そして、そのまま床下へと消えてきった。
「修理費はいくらだ?」
「銀貨三枚にまけといてやる。」
酒を出してきたマスターに少し多めに入った皮袋を投げ、そのままギルドを後にする。
そして、すぐ近くにあった宿屋の扉をくぐる。
「なんだい?新顔かい?」
恰幅のいいおばさんが俺に声をかけてきた。
「ん?あんたよからぬ事を考えちゃ居ないか?」
「おかみさん、一晩いくらだい?」
心の中を見抜かれた気がして話をはぐらかす。
「なんだか食えないボウスだねぇ?一晩銀貨二枚飯つきなら追加で銀貨一枚だよ。」
「うまい飯なら追加分も払うよ。屋台に出るようなもんなら必要ない。」
「ウチの飯が不味けりゃ宿代もタダにしてやるよ。さぁ、こっちに来るんだよ!」
あれ?なんか怒ってるぞ?
言われたままに、空いた席に座らされると待つ事数分。
「お待たせしました。本日の夕食がこちらになります。」
年の頃は10歳位だろうか、まだあどけなさの残る少女がお盆に載せた料理を持ってくる。
「エールは別料金で銅貨三枚になりますがどうされますか?」
「蜂蜜酒はあるか?無ければエールをくれ。」
「すいません、ミードは生憎切らしてまして・・・。」
「無ければエールで構わない・・・。」
追加料金の銅貨三枚を渡すと、先ほど飲んできた物と同じエールが出てくる。
「あんた、ウチの子に手を出したら承知しないからね?」
にこやかな般若様がいつの間にか背後に立っていた。
「言っている意味がわからねぇんだが?」
「おら、さっさと喰いな!冷めちまったら不味くなるだろ?」
一口二口と口に運ぶ・・・。
うん。不味くは無い。
先ほどの村で言われたように、塩はやはり貴重な様だ。
現代で言う、塩分控えめのさらに控えめ。
よく言えば素材の味を生かした料理。
「不味くはないな。」
「なんだい?納得いかない返事だねぇ?」
「いや、十分喰えるさ。問題ない。メシ付きで銀貨三枚だったよな?」
宿のおかみさんの手に銀貨三枚を握らせると、残りの飯を平らげる。
まではよかった・・・・。
どうしてこうなったんだ?
「おら、小僧料理がまだきてねぇぞ!」
「おい、こっちは追加で二皿だ!」
「こっちは注文すら着てねぇぞ!」
鍋を振る俺、半分近く空いていた席は埋まり入り口の外まで人が並ぶ。
なぜ?どうして?
「あんたが悪いんだからしっかりさばくんだよ?」
「ふっふざけるなーーーー!!」
俺の叫びは誰にも聞き入れられず、そして夜中まで鍋を振るハメになった。
「つっ、つかれた・・・。」
腕が上がらない・・・。
途中から身体強化も併用したはずなのに間に合わない。
おかみさんが、途中から閉店したはずの商店から半ば強引に追加の食材をかき集めて居たのは知っていた。
何故か食材を持ってきた連中まで席に座る始末。
客が減らない、地獄の連鎖の始まりだった。
「いやぁ、儲かったねぇ・・・。あんたウチの娘に手を出してもいいよ?」
「おぃ、クソババァ・・・。ふざけた事言ってるんじゃねぇえよ・・・。」
そう言ったところで俺の記憶は途切れた・・・。




