苛立ちと平穏
国歴468年、後に第一次聖戦と呼ばれる戦争が起こった。悪魔と人、不干渉だった両者は今やお互いに憎しみあっている。
侵攻された恨みはけして短き時間の流れで消えるものではない。
忘れてはいけない。血を流して己達の愚かさを悔いなければいけない。
悪魔と人の間に平穏はもはやないだろう。
「ライトニング!」
気迫のこもった声とともに発射された電撃は頼りない弧を描きながら的に当たった。
その様子を隣で見ていた女性が
「よし、合格!」
と笑った。
「はぁ~」
我ながら情けないと思う。十五歳にもなって攻撃魔法の初歩、ライトニングを練習するなんて。
「どうした?アモン。」
絶対わかっているのに聞いてくる意地悪な先生を少し睨む。
「全然上達しないから意気消沈してるんですよ!」
教室の中でその声は以外なほど響いた。
「そんなことないわよ。それに他の魔法とか剣術は驚くほど上達したし。」
そうだ。僕は攻撃魔法以外の分野のほとんどは同級生の中でもトップクラス、けどそれじゃあだめなんだ。
「支援や妨害魔法は実戦では使い物にならないじゃないですか。」
実際に戦闘で使える魔法じゃないとだめなんだ。
「支援や妨害も戦闘には欠かせない要素だよ?なぜそんなに焦るの?攻撃魔法が全く使えなかった最初からは進歩できているのに。」
僕には焦る理由がある。けどそれは先生にも言えない。しばらく黙った後、ゆっくりと深呼吸をする。
先生に怒りをぶつけるのは間違いだ。結局のところ悪いのは僕だ。
「わかりました。」
そう言って制服の上着を着ると
「ありがとうございました。」
と頭を下げて部屋を出た。少し日がおちてきて夕焼け色に染まった廊下で少しため息をつく。
時計を確認するとじいさんとの約束の時刻が近かった。
「いっつも時間にはうるさいから早めにいっておくか。」
長い螺旋状の階段を少し急いで登って最上階にある部屋の前に立つ。
そしてゆっくりノックをしてドアを開た。