ZANSHI
頑張ります
「あ・・・・・・あ・・・」
二人の少年は燃え盛る炎の中で一匹の怪物を見た
「グルォオオオオオ!!」
怪物は自分の本能のままに叫び、周りの人間を殺戮していく
「も・・・・・・」
少年がふと横を見ると、隣にいた少年が涙を流し呟いた
「もしかして・・・・・・あれは…」
「・・・・・・!!」
暗い部屋の中で青年は目を覚ました
「・・・・・・夢・・・か…」
青年はソファーから起き上がるとあくびをしながら頭を掻く
そして、付けっ放しのノートパソコンの画面を見る
「動き出したか…」
青年はジャケットを羽織り、部屋から出ていった
「えっ!?優香、高橋君の噂知らないの!?」
私の目の前で夏が驚く
「へへ・・・私、そういう噂とかに疎くて…」
実の所、私の耳にも高橋君の噂は入っていた
それぐらい、高橋君の話はこの高校内で広まっていたのだが、詳しくは知らなかったので知らないふりをしてみた
「全く、あんたは・・・」
夏は呆れたようでどこか嬉しそうだった、行内一の情報通さんは早速何も知らない私に情報を与えたいらしい、私の狙い通りだった
「ほら、最近転校してきた高橋 結城君っているじゃない」
「あー、あの隣のクラスの・・・」
高橋君の事は印象が強い
一か月前、朝礼の際に壇上に呼び出されたはいいが、高橋、よろしく、とだけ言っていなくなったのだ
それ以来、高橋君は親しみを込めて?タカハシ ヨロシクンと呼ばれている
でも、私も朝礼で挨拶をすることになったらそれくらいしか言えないだろうなー、と同情していたのだ
「それがどうしたの?」
「一週間前ぐらいかな?急に学校に来なくなったじゃない」
そりゃ、転校して早々タカハシヨロシクンなどとあだ名が付けられ笑われていたら学校にも来たくなくなるだろうなー、と思ったが今は口には出さなかった
「そういえばそうだったね・・・・・・でもそれって親の仕事が忙しいからとかって先生が言ってなかったっけ?」
「そんなの嘘に決まってるじゃない」
夏は嬉しそうに笑う、どうやら来そうな質問がそのまま来たかららしい
「実は失踪したって噂よ…」
夏は声を潜めて言う、賑やかな教室の中だったので聞き取りづらかった
「失踪?」
私は思わず聞き返した、聞き取りづらかったのもあるが、失踪という普段、聞きなれない単語が急に現れたからでもあった
「そう、失踪」
「この前、高橋君の親が職員室にいたって聞いてね」
「へぇー、そうなんだ」
不登校になった息子の為に職員室に乗り込む親、不自然だとは思えなかった
「まぁ、高橋君にもいろいろあるんじゃない?」
「・・・・・・・・・・・・」
私の興味なさそうな反応を見てか、夏が急に黙る
「え・・・・・・どうしたの・・・?」
「優香って……自分が無いわよね…」
急に気にしていた事を言われ、放心してしまった
私は昔からそうだった、言っている事が二転三転する
今の会話を振り返ってみてもそうだ、自分から興味を示しておいて急に冷めてしまった、それと、さっきから言葉にした事よりも、心で考えている事の方が多い気がする
ん?これは自分がないってことなの?自分が出せないだけじゃなくて?
「さぁ、行くよ!」
気付くと、夏は私の腕を引っ張っていた
「え!?」
訳も分からないまま私は夏に連れていかれた
靴を履き替え、校舎を出て、校門を出て
「え!?え?なんで?まだ、授業あるよ!?」
「いいの、いいのっ!気になったら吉日って言うでしょ」
わざと間違えているのか分からないが、とにかく夏の好奇心が暴走を始めている
こうなってしまったら止められないし、止まらない、それが夏という人間なのだ
とりあえず、私が授業をサボることになるのは確定したらしい
「任務はどうなってる?」
暗やみの中で青年は問う
「心配されなくても順調だよ」
青年より若く見えるもう一人の青年は、眼鏡を上げながら答えた
「そ、そうですよ!!昨日だって僕と二人で計画に必要な、洗濯機とか冷蔵庫とかいろいろ買ったんですから!!」
「そ、それは言わなくていい!!」
眼鏡の青年は、隣にいる中性的な顔をした青年の口を塞ぐ
「ふが・・・・・・」
「本当に大丈夫だよね?助けはいらない?」
暗やみの中の青年は不安げな顔を見せる
「大丈夫、彼女は絶対に僕の家に来るからね、君の助けはいらない」
「ならいいけどさ、失敗はしないでね」
「分かってますよ、ソウハ」
眼鏡の青年は笑みを浮かべながら答えた
「えぇええ!?高橋君いないんですか!?」
夏はわざとらしく驚いた
「そうなんです、お兄ちゃん最近どこかに行ってしまっていて」
夏の質問に弟なのか妹なのか、私たちと同世代なのかよくわからない子が答える
結局私が夏に連れていかれたのは高橋君の家だった
なぜ住所を知っているのかは別として、肝心の高橋君の親というのは外出中らしく、代わりにこの子が答えてくれている
夏の興味は完全に高橋君に向いているが、私の興味は今、夏と話している子に向いていた
身長的にも同年代に見えるがどこか若々しい雰囲気があって、なにより男性か女性か分からない
男性にしては声が高すぎるし……
「ありがとうございました、それでは」
私がうわの空でいる間に夏の会話は終わったらしい
再び私の腕を引っ張り歩き出した
「メアド貰っちゃったー」
しばらく歩くと、夏が口を開く
「え?あの子の?」
「違うわよ!」
そんなに怒らなくてもいいのに
「高橋君の」
「え!?どうやって?」
「文化祭の話し合いがしたいって言ったら、すんなりと教えてくれた」
夏は得意げだ
「でも知ったところでどうするの?高橋君、いなくなっちゃったんでしょ?」
正直、高橋君が本当にいなくなっているとは思ってもいなかったので驚いてはいるがどこか冷静な自分がいた、他人事だからだろうか?
「まぁ、メールしてみないと分からないでしょ?」
「だから、優香、メールしてみて!!」
夏はメールアドレスの書いてある紙を私に向けながら言う
「えっ!?な、なんで私が!?」
突然の事に思わず声をあげてしまった
「えー、だって私がメールしたら怪しまれるかもしれないでしょ?私、学校一の情報通だしー」
転校してちょっとの人にも伝わっているものだろうか、と疑問に思ったりもしたが言っても意味がないだろう
夏は普段からそうなのだ、興味津々に突っ走っておきながら肝心なところはすべて私に任せてしまう
私は毎回嫌がるのだが、結局やることになってしまうのだ
「もー、わかったよ」
嫌がっても意味がないというのは今までの経験から分かっているので、夏から紙を受けとり、そこに書いてあるメールアドレスを携帯電話に入力してみた
「・・・・・・で、どんな感じで送るの?」
「なんか、元気ですかー、とか生きてますかーとか、そんな感じの事」
「そ、そんなてきとうな・・・」
結局、二人で文面を考えて送信した
来るはずがないと考えていた高橋君からの返信が来たのはその数分あとだった
その日の夜、私は高橋君に呼び出された公園に来ていた
「怖いなぁ……」
私はそう呟くことによって恐怖を紛らわせていた
分かっていた事だったがなんだかんだ理由を付けて夏はついてこなかった
「せめて弟君?に伝えておくべきだったかな……」
「その必要はないですよ」
「!?」
突然背後からした声に驚き、振り向く
そこにはさっきちょうど独り言に登場した妹ちゃん?
そして、高橋君がいた
「やあ、久しぶりだね……」
「た・・・高橋君・・・?」
正直、会うのが久々すぎて、これが高橋君なのか分からない
しかし、こちらを知っているような態度、なにより弟君?が一緒にいることがこの眼鏡をかけた男が高橋君である、なによりの証拠だと考えた
「ちょっと歩こうよ…」
そういいながら高橋君は私に背を向け歩き出す
正直、めちゃくちゃ怪しかった、逃げだすことも考えた
しかし、なぜか私の足は高橋君の方へ向かっていた
「・・・・・・最近、クラスのみんなは元気?」
高橋君は歩きながらこちらに話しかけてくる
「わ・・・私のクラスの事なら・・・元気だよ…」
高橋君ってこんなにはっきりと喋る人だっけ…自己紹介以来声を聞くのが初めてなのではないかと考えてしまう程、高橋君の声は私の記憶になかった
「そうか・・・・・・そういえば君とは同じクラスでは無かったっけ…」
高橋君はそう言いながらにやついている
気付くと、妹ちゃん?は私の左側に移動しており、私は高橋君と弟君?に挟まれる形となっていた
妹ちゃんも何故かとてもいい笑顔でこちらを見ており、どこか不気味だ
「僕さ、昔っから自分には特別な才能があるって信じていたんだ」
「?」
「でも、気付くと何もなかったんだ、俺が手にしているものは周りの人間の何よりも」
「さ・・・さっきから何を・・・」
「でもあの人は僕に才能をくれた!!」
高橋君は突然叫びだす、とても興奮しているようだ、私はとても逃げ出したくなった、携帯電話を落としてしまった
「優香ちゃん!分かるかな!?君にも特別な才能があるんだ!!それを今から教えてあげよう!!」
高橋君は立ち止まると、目を見開き、腕に力を込める
「うぉおおおおおおお!!!!」
高橋君は叫ぶ、すると体全身が隆起しだし、服が破ける
「!?」
私は意味が分からなかった
目の前でどんどん怪物のような姿に変わっていく高橋君
私は逃げ出したくても体が動かない
とりあえず高橋君の言う才能とやらはこの状況を打破できるものではなさそうだ
携帯電話を落としてしまった
「うぉおおおおお!!!」
と、その時背後からも叫び声がする
振り返ると、弟君もまた高橋君と同じように怪物へと変化を始めていた
その時、私は気付いた、いま私がいる場所は周りに人がおらず、灯りもさほどない、言ってしまえば犯罪をするのにもってこいの場所なのだ
そこに誘い込まれたという事は確実に何かをされるという事
しかもそれは人間でない何かの手によって
携帯電話が落ちた
「・・・・・・・・・?」
私はそこでふと違和感を覚えた
何度も携帯電話を落としているが
「私ってケータイ拾ったっけ…?」
「気付いたんだね……それが君の才能だよ…」
高橋君の声がする
だが私は高橋君を見る気にはなれなかった
高橋君は人間の者ではなくなった足で、人間の出せない種類の足音を鳴らしながら、私に近付いてくる
「僕たちザンシは変化する際、時間を少しだけ逆行させてしまうんだ、それは人間も例外ではなくて、一秒戻ったなら一秒前の位置に、三十秒戻ったのなら三十秒前の位置に戻るはずなんだ」
「ザ…ザンシ・・・?」
どうやらそれが高橋君の今の姿の名前らしい
「そう!でもあなたは、僕たちのその逆行の影響を受けないで活動が出来る人間なんです!!」
背後から突然聞こえる声
高橋君のではない声に驚き思わず後ろを振り向いてまう
そして、その姿を正確に捉えてしまった
妹ちゃん?は獣のような、ではなくまさに獣となっていた
紫色に鋭く光る眼、黒目の体表、骨格から変わっているのか、体はごつごつとしており、いたるところに機械化されたような部分もあった
「ひゃやああああああ!!」
私は思わず叫んでしまった
「叫んだって無駄だよ、ここには誰も来ないってことは君も知っているだろ?」
高橋君だった怪物は、同じように紫色の眼をこちらに向けている
「それに、これから僕たちの仲間になるんですから、怖がっちゃだめですよ!」
妹ちゃんの声がする
「な・・・・・・仲間・・・?」
何を言っているのかさっぱり分からなかった
意味は分からないがとりあえず逃げなければ
だが体が思うように動いてくれない
夢の中にいるような気分だ
もちろん悪夢だが
「あぁ、仲間だ、つまりザンシだな」
「あなたはあの人に認められたんですよ!!」
二人は逃げる私を追い詰めるかのように歩いてくる
私の移動スピードは歩行よりも遅かった
「・・・・・・で、あの人って誰なんですか?」
「知らないのかよ!!!」
「え、高橋さん、知ってるんですか・・・」
「そ、それはあれだよ…」
「知らないんじゃないですか!!」
「う、うるさい!ヨッシーだって知らないじゃないか!」
なにかよく分からないが言い合いを始めた様だ
逃げるなら今のうちだ
私は全身の力を振り絞り、走り出した
「あ、逃げました!」
「待て!!」
背後から二人の声がする
その声に体が怯えてか、転倒してしまう
体の力は使い切ってしまった
もうおしまいなのだろうか
短い人生だった
「お・・・お前は・・・」
背後から聞こえる高橋君の声色が急に変化した
閉じかけていた目を開く
そこには高橋君だった怪物、弟君?だった怪物
そして、もう一匹
青い眼をしたザンシがいた
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