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ボーッとしたままの六花は、あやめに手を引かれて教室に戻った。
席について、ようやく自失から立ち直ったらしい。
「あやめちゃん!
生徒会長、すっごくかっこよかったね!」
興奮してあやめにつめよる六花。
「そうですね。
お兄様は1年の時から生徒会長をしていますから。
とっても優秀で、先生方の信頼も厚い方なのです」
「そうなんだ!」
「あ、あの!」
急に声をかけられてそちらを見ると、二人の女子生徒がいた。
ーーどうやら女子だったために黒曜に止められなかったようだ。
「なーに?」
あやめに近づきたがる生徒かもしれないと、六花が返事をする。
「あの!
生徒会長って姫様のお兄さんってほんとですか⁉」
「ーーうん、そうだって」
「そ、それじゃ、きまった婚約者とか、恋人とかは……」
「ーーいませんよ。
もっとも気になる女性はいるようですが」
「ーーそうなんだ……」
「ーー」
残念そうな六花および二人。
「ーーよければ、このあとご一緒にお茶などいかがですか?
よい茶葉がてに入ったものですから。
一人で飲むのも寂しいですし」
「あ、それならボクも!」
スパン!
女子の輪に入ろうとした石榴を黒曜が叩き落として引きずっていく。
あやめはあきれて、他の三人は呆然として、見送っていた。
「ーーとりあえず、ホームルームが終わったあと、私の部屋へ参りましょう」
「はい!」
「わかりました!」
「楽しみー」
三人とも嬉しそうに返事をする。
そこで、担任の市原教師が教室に入ってきた。
「雑談はそこまでにしてください。
ホームルームを始めます」
ホームルームといっても、内容は明日以降の予定についての話がほとんどだった。
一応、生徒たちのまとめ役のクラス委員は、六家の琥珀、副委員は黒曜に決まったが。
「ーー僕はできれば辞退したいのですが」
「六家の人間がクラス委員をすることは、慣例ですからね。
あきらめてください。
ーー他の方々は委員に向きませんし」
「ーー」
その言葉に納得せざるをえなかった黒曜は、委員になることを認めたのだった。
ホームルームを終えて、六花たち四人は寮のあやめの部屋に向かった。
「ーーそういえばお二人のお名前を聞いていませんでしたね」
思い出したように口を開くあやめ。
「改めまして。
私は紫神あやめともうします。
できれば、姫ではなく名前で呼んでいただけませんか?」
「あ、わたしは白石六花だよ。
よろしくね」
「あ、あの、わたしは水原双葉ともうします。
よろしくお願い致します、あやめ様、白石さん」
「あたしは、美川由美といいます。
よろしくお願いします!」
「あ、わたしも名前で呼んでいいよ。
そのかわり、双葉ちゃんと由美ちゃんって呼んでいい?」
「うん。
よろしくね、六花」
「よろしく、六花ちゃん」
自己紹介をしながら寮に向かう。
その間に大分打ち解けてきた四人だった。
ーーーー
「どうぞ、そちらにお座りください」
部屋に入ると、あやめは床におかれた低めのテーブルを指す。
丸いテーブルの横に、座布団が四枚おかれている。
「よろしければ、クッションもありますよ」
と、指差す一角を見ると、数個のクッションがおかれていた。
「ーーテーブルと椅子、ではないんですね……」
「これって風の区の特徴なんだよね。
直接床、というか絨毯や畳敷いてその上に座るのが」
「そうなの、六花ちゃん?」
「うん」
「普通のテーブルと椅子でもよいのですが、やはりこちらの方が落ち着くので」
やはり普段過ごす部屋は、故郷風にすると落ち着く。
もっとも、ベットは備え付けなので他の部屋と共通だが。
「だよね。
わたしも黄神家のところに行ったあとは、やっぱり家具とかの違いでちょっとやりにくかったし」
「そうなんだ?」
「あれ、二人は違うの?」
「わたしたちは、水の区生まれで、属性も水だから。
あんまり環境は変わらなかったの」
「それは良かったですね。
同じ区ならば、里帰りも簡単ですから」
「そうだね。
他の区への移動は、許可が必要になるしね」
「結界に余計な負担をかけないためにも、魔族は移動のときに注意が必要ですからね」
あやめがお茶を入れ、お茶菓子を出すと、双葉と由美は恐縮したようだった。
「すみません。
あやめ様にこのような……」
「緑茶はあまり入れたことはないのでしょう?
おいしいお茶を飲むためにも、なれた者が淹れたほうがよいですから」
「うん。
とっても美味しいよ、あやめちゃん」
さっそくお茶に口をつけている六花だった。
そして。
四人は他愛ない話をして楽しんだ。
「ーー今日はとても楽しかったです。
よろしければ、またご一緒していただけますか?」
「もちろん!」
「はい!」
「よろこんで」
三人の返事に嬉しそうに笑うあやめ。
「ーー大丈夫だよ。
わたしたちはもう、あやめちゃんのお友だちだし」
「えっと、おそれ多いことですが」
「友達でいいよね?」
不安そうに訊ねてきた由美に、あやめは微笑んだ。
「もちろんです。
これからよろしくお願いしますね。
六花さん、双葉さん、由美さん」
「うん」
はじめてできた三人の友達に微笑む。
六花はそんなあやめをみて安心していた。
ーーーー
「なんで、邪魔するの?」
「女の子の集まりに、男が加わるものじゃないからね」
「えー!」
ぶーぶー、と文句をいってくる石榴をあしらって、連れ立っていった四人を見送る。
(ーーよかった。
彼女たちと一緒なら、きっとあやめは寂しくない)
自分達と一緒の時も楽しんでくれてたのは知っている。
それでも、同姓の友達はまた別格だろう。
今まで得ることができなかったものを得たあやめにほっとした黒曜だった。
ーーその事をあとで聞いた竜胆は、友人となった二人について調査を始め、そのせいであやめにしかられたりしたのだった。