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4

 入学式の前に教室に集まらなければならない。

ということで、六花とあやめは教室に向かっていた。


「えっと、風の姫様……」

「その呼び方はやめていただけますか?」

「え?」


六花が『風の姫』と呼ぼうとしたのをあやめは遮る。


「『風の姫』というのは、いわば私に与えられた称号ですから。

 六花さんとはお友だちになりないのです。

 ぜひ、名前で呼んでください」

「ーーいいの?」

「その方が嬉しいです」

「わかった。

 それじゃ、あやめちゃんて呼んでいい?」

「ーーそのような呼び方はされたことがないので、ーーちょっと嬉しいです」


照れたようにはにかむあやめに、六花も楽しそうに笑った。


「それじゃ、あやめちゃん」

「なんでしょうか?」

「あやめちゃんの魔具ってなんなのかなっておもって。

 魔具をもらったのって昨日じゃないよね?」


 数年前の魔物の大発生。

その時に、強大な魔物を倒したのはあやめだということは知られている。

そして魔物と戦うためには、当然魔具が必要となる。


「そうですね。

 魔具というのは、魔力の制御の助けにもなるんです。

 そのため、私は七つの時に魔具を得ました。

 ーー兄と幼馴染みもその時一緒に魔具を得ています」

「あやめちゃんって、お兄さんいるんだ?」

「はい。

 入学式で見れますよ。

 兄は生徒会長ですから」

「へー、そうなんだ。

 たしか今の生徒会長って、一年の時からやってるって聴いたけど?」

「はい。

 生徒会は学校の教師と生徒との間を取り持つ役目があるんです。

 そのため、かなり忙しくなるので、なりたがる人は少ないのです。

 兄を含め今の生徒会の方々は、成績優秀で人望もある方々を、前の生徒会の方々が集めたと聞いております。

 ーー実際、兄はすでに卒業までの単位を取り終えていますから……」


なにかを思い出したように遠い目をするあやめ。


「すごい人なんだ!」

「まあ、そうですね」

「あ、あと幼馴染みって灰神黒曜って人?」

「はい。

 黒曜とも会ったのですね」

「うん。

 風の姫を幼馴染みっていってたから」

「そうですね。

 魔具を得るときに知り合って、その時すでに灰神の後継であることが決まっていたため、それからちょくちょく私たちに会いに来てくれるようになったのです。

 屋敷から滅多に出ることがなかった私にとって、唯一親しい他人でしたから」

「ーー」


 屋敷から出ることがなかった。

 他人と知り合うことも滅多になかった。

 それは……。


「寂しくなかったの?」

「いいえ。

 あのころ、知識の力を蓄えることを優先していたのは、私自身ですから。

 それに、兄も黒曜もいてくれましたので寂しいと感じる暇はありませんでしたから。

 ーーそのおかげで、あの時守ることができたのですから」

「そっか」


あの時。

そう、それだけの力をあやめが身に付けていなければ、大勢の人々が命を失ったのは間違いない。

 その中には……。

 そこまで考えて、六花は頭を振る。

首をかしげるあやめに、なんでもないと返して、階段を上った。

1ーAの教室は、一年棟の4階。

 この学校、各学年ごとにひとつの棟がある……。

普段使う教室は、3階と4階で、1階と2階は自習室、訓練室、倉庫、実習室などになっている。

 4階の端にある教室に入ると、先に教室にいた生徒たちに注目される。

なにしろ、魔眼持ちの美少女と、風の姫が連れだって入ってきたのだ。

六花はすでに知られていたし、あやめも容姿について噂程度はすでに流れていた。

 ぶあつい眼鏡をかけた、銀髪の小柄な少女。

これに当てはまる者はそうそういない。


「あ、あの!」


あやめにさっそく近づこうとした者は、いきなり目の前に出された槍で遮られる。


「ーーまもなく時間だよ。

 それに、僕たち六家の者か、生徒会長の許可なく姫に近づかないように」


にっこり。

迫力のある笑顔をみせる黒曜に、生徒たちはカクカクとした頷きを返すと、それぞれの席に戻った。


「まったく」

「えっと……」


 黒曜の行動にあきれた様子のあやめ。

六花はどう反応していいのか悩んでいる。

そして、黒曜の後ろからは、他の5人が歩いて来ていた。


「急に走り出すから、なんだと思った。

 ほんっと、黒曜って姫のこと大事なんだね」

「当然だよ。

 大切な、ーー幼馴染みなんだから」


柘榴に返すと、あやめを見る。


「さ、席につこう。

 間もなく先生も来る頃だから」

「ーーそうですね」

「はーい」


六花とあやめは返事をすると、自分の名前が貼られている席に座る。

そして、全員が自分の席についたとき、ちょうどチャイムがなった。



 チャイムと同時に扉が開き、教師が入ってくる。

30代前半の緑の瞳の男性。


「ーー全員揃っていますね。

 始めまして。

 本日から、皆さんの担任となる市原梶いちはらかじといいます。

 属性は地です。

 皆さんよろしくお願いします」


自己紹介をして、軽く頭を下げる。


「まずは今日の予定からですね。

 このあと、まずは入学式となります。

 クラスごとに席順は決まっていますので、まずは儀式場に向かいましょう。

 入学式のあとは、ホームルームのあと解散となります。

 明日以降の授業などについては、その時に説明します。

 では、儀式場まで案内します。

 ついてきてください」


教師の市原が教室から出ていく。

生徒たちはそれについていく。

六家のメンバーと六花は最後についていった。


「入学式って、儀式場でやるんだ?」

「儀式、といっても学校の行事で主に使われている建物ですから。

 実際に魔力を使った儀式などは、神殿で行っているのですよ」

「そっか。

 なっとく」


六花とあやめが話していると、横から琥珀が口を出してきた。


「ーー六花。

 姫にたいしてその口の利き方はなんだ!」

「えー、あやめちゃんとはお友だちになったんだからいいでしょ」

「な⁉」

「あ、じゃボクもそう呼んでいいー?」

「だめに決まっているだろう」

「なんでそこで黒曜が答えるの?」

「あ、六花ちゃん。

 やっぱりこんなやつらほっといて、一緒にお茶でも」

「だめに決まっています」

「ーーさぼるのは良くない……」

「そ、そうですよね……」


楽しそうに話ながら歩いていくのを、他の生徒たちに見られながら。


  ーーーー


 それぞれ儀式場の席についてまつことしばし。

時間になってようやく始まった入学式は、やっぱり退屈なものだった。


「ーーはふ」

「だめですよ、六花さん」

「だけど、ねむ」


校長やらの話が長いのは、どこでも一緒で。


「あー。

 そういえば、わたし基礎学校の卒業式の時も寝てたよーな……」

「ーー校長先生の挨拶の次は、生徒会長、兄の挨拶です。

 がんばって起きていてください」


 あやめとしては、やっぱり兄の晴れ姿は見ていてほしい。


「あー、うん」


めを擦りつつ壇上を見上げる。


「ーー続きまして、生徒会長からのご挨拶です」


そして壇上に生徒会長の竜胆が上がる。

ーー同時に女子生徒のため息も上がった。

六家の次期当主であり、見目もよければ人望もある。

当然かもしれないが。


「皆さん、入学おめでとう。

 これから、皆さんは魔力の扱い方、魔物との戦い方を学ぶことになる。

 なかには魔物と戦うことに向かないものもいるだろうし、戦うことができない者もいるだろう。

 だからこそ、自身の魔力について学び、自分の目指すものを明確にすることを、第一の目標としてほしい。

 魔物と戦うことだけが、我々の役目ではない。

 魔物から人々を守りること。

 より良い生活を送れるような方法を見つけ出すこともまた、大事なことなのだから。

 だからこそ、知識と力を得て、未来をつかもう。

 そして、忘れないでほしい。

 一人では対処できないことでも、他者と力を合わせることで、より大きなことをなすこともできるということを。

 なにかあったとき、我々生徒会や上の学年の者を頼ってほしい。

 できる限り、力となることは今ここで約束しよう。

 そして、楽しい生活を送れることを願っている。

 ーーこれからおなじ魔力を持つもの同士、仲間としてよろしく頼む」


 一礼して壇上から降りる。

演説を聞いて感動したのか、それとも本人に見とれていたのか。

ほとんどの生徒は呆然として壇上を見上げている。

六花もまた、竜胆に見とれていた。


「どうですか? 私のお兄様は」

「ーーすっごくかっこいい人だね」

「はい」


嬉しそうに微笑むあやめ。

六花はしばらくボーッとしたまま過ごしたのだった。 

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