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二話目。
琥珀とあやめ、竜胆の父親登場。
ヒュン、ヒュンと風を切る音がする。
光の区、黄神家、自室のそばの中庭で、六花は剣を振るっていた。
魔力を込めて振るう度に、光の粉が枚散る。
「はあ、まだまだだね。
まだ、魔力が剣から漏れちゃう。
これじゃ効率っていみじゃダメだよね……」
呟いてちょっと空を見上げてみる。
光の区は年中暑い。
それになれていても、やはり故郷の気候を思ってしまっていた。
「風の区、か。
行くの本当に久しぶりだからなぁ。
なんか変わったりしてるのかな?」
「そんなの、いってみれば分かるだろう」
返事が返ってきて、振り返ると琥珀がこちらをみていた。
「当主がお前に会うそうだ。
風の区行きの話もあるらしい。
すぐに応接室に向かえ」
「わかった」
六花はかるく汗をぬぐうと、室内に入っていった。
琥珀も同行して、黄神の当主である琥珀の父親に会いに行く。
「琥珀、まいりました」
「同じく、白石六花、まいりました」
ふたりが口上をあげて、室内に入る。
ーーふだんはわざわざこのようにする必要もないが、今日に限っては来客があったのだ。
「黄神の次男と、そちらが六家外の魔眼持ち、か」
そこにいたのは、紫の瞳を持つ、威厳のある人物。
ーーあやめと竜胆の父親である、紫神の当主だった。
「ふたりとも、よくきたね。
すまないが、聞かせてほしいことがあるんだよ。
ーー風の姫について」
家族ではなく、友人の目からみた娘の様子を知りたくて、ここにきたそうだ。
「そうですねーー」
六花と琥珀の言葉を黙って聞く。
そして、聞き終わるとーー。
「ーーあれもきちんと受け入れられているんだな……」
ほっとしたように、そう呟いた。
「あの……」
「ーー私から言うことではないだろう。
いわば、私はーー加害者、だからな。
知りたければ、本人か竜胆、黒曜に聞くがいい。
口止めをしているわけでもないからな。
ーー白石六花。
すまないが、これからもあやめと親しくしてやってほしい。
たとえ、あれが何を隠していたとしても……」
「隠す?」
六花と琥珀は、首をかしげる。
黄神の当主もまた、すこし辛そうな表情になっていた。
「近々、風の区にくるのだろう。
紫神の屋敷ではなく、あやめの屋敷の方に行くことになるだろうが、滞在は楽しんでほしい」
「あ、はい」
「はい」
そういって、紫神の当主は席をたった。
あとには戸惑う六花と琥珀、それを見つめる黄神の当主だけが残っていた。
ふう、とひとつ息をつくと黄神の当主はふたりに話し始めた。
「ーー紫神のご当主が加害者というのも間違いではないが、そこには理由もある。
そのことはふたりとも理解しておいてほしい。
ーー当主としての立場から、姫を監禁し、また利用するような真似をしていることを、辛く思っているのもたしかだから。
姫自身がご自分の立場をよく理解されていることが、より辛く感じることとなってもいるからね。
だから、紫神のご当主は、父親として君たちに友人としてあることを望んでいるんだ。
そのことだけは、受け入れてあげてほしい」
「えっと、よくわかりませんけど、あ……姫がわたしにとって大事な友達だと言うことだけは、これからも変わりませんから大丈夫ですよ」
「そうだな。
六花のような者に、根気よく教え続けることができるほどだからな。
俺個人にとっても、大事な友人ということは変わらないだろう。
まあ、姫がどう思ってくださっているかはわからんが」
「大丈夫だと思うけど?
姫もみんなと一緒で楽しそうだし」
「そうだな」
ふとみると、黄神の当主はにこにことふたりを見守っていた。
「そうか、ほんとによかった。
それじゃ、今回の休みも、学校も、どんどん楽しんで過ごしてほしいかな」
「もちろん」
「はい」
ふたりははっきりと返事をする。
それを聞いて、黄神の当主はなお、嬉しそうにするのだった。
あやめの秘密はいずれ。
次は午後4時投稿。




