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今回は少な目、短目で三話投稿。
まずは一話目。
八月に入り、あやめは風の区の自室でまったりとしていた。
特殊な結界が張られているため、ここでは眼鏡もはずしている。
「あやめ!」
呼ばれて窓のそとを見ると、そこには黒曜がいた。
彼の得意とする、個人での空間転移を利用して跳んできたようだ。
子供の頃、知り合ってからしょっちゅう、黒曜はこうしてあやめを訪ねて来ていたのだ。
「ーーまだ、学校から帰って一日しかたっていませんよ。
黒曜や他の方々がこちらに来るのは、八月後半のはずですけど?」
「ーー会いたかったから。
それと、ちゃんと眼を見たかったからかな。
人が大勢いると、ここの結界も弱まるから、あやめもまた眼鏡をしているでしょ。
せっかくの素顔を見れる機会を失いたくはないよ」
「もう、仕方ありませんね」
ちょっとすねたように膨れて見せて、すぐにあやめは微笑みを浮かべる。
もともと、眼鏡は特殊な魔道具で、自宅の結界の外では、眼鏡がないとあやめ自身にかなりの負担がかかる。
そのことは自覚していて、あやめが強大な魔物退治、という以外で外に出れるようになったのは、この魔道具があやめ用に作られたことが大きい。
それに、眼鏡という一枚レンズを挟んで見るよりは、素でものを見られる方がいいのは確かで。
「実際に、眼鏡がないほうが楽ですから。
ものもよく見えますし」
もともとの視力が良いため、こういう状態になっていた。
「まあ、もうしばらくは仕方がありません。
レンズの薄い、かつ強力な魔道具は、現在研究中らしいですから。
わざわざ中央の魔石までいただいてのことですからね。
ーーそれに、ある意味今の状態ではちょうどいいのも確かですし」
「まあ、他人に顔を見られないだけでも、十分な意味はあるかな?」
「ーーそれは、あなたにとってだけでしょう?」
「まあ、ね」
すこしの間見つめ合うと、吹き出すように笑う。
そして、黒曜はお土産をわたす。
「はい、これ闇の区の様子を撮影したDVDだよ。
よければ見てみて」
「ありがとうございます。
こういうお土産は嬉しいです」
他の区、どころか自身の住む風の区すらあまり歩いたことがない以上、風景を見ることができるこうしたものを好んでいた。
「それじゃ、そろそろいくよ。
もっとも、またすぐに会いに来る予定だけど」
「はい。
楽しみにしていますね」
学校入学前に戻った気分で、クスクスと笑いながら黒曜を見送るあやめ。
ーー入学前、こうして過ごすのが、あやめの日常だった。
あやめと黒曜は幼なじみ。
他の者がいないときは、名前を呼び捨てにしています。
次は8時投稿。




