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今月の実習地は火の区、ということで班分けが行われた。
六花の班は、相変わらず引率は竜胆とあやめ。
他は晶、翡翠、華衣となっていた。
「月島さんと、同じ班か」
「そうね。
まあ、実習は普通にがんばるつもりだし、よろしくお願いするわね。
ーー心配しなくても、もう前みたいなことはしないわよ」
五月に迫られたのは、妙に怖かったとおもいだす六花。
あやめはその六花の頭を撫でていた。
「大丈夫ですよ。
月島さんも学生の本分は理解してくれていますから」
「はあ、そうね。
まずは魔力の制御を完璧にしないとなのよね。
ーーなんか、安定しづらいのよね」
ため息をつきつつ、自身の魔具をみつめる。
「それについては、後程指導いたしますよ。
ああ、そうですね。
的に晶を使うといいですよ。
晶自身の魔具の訓練にもなりますから」
「はあ? ってなんでオレが的になんなきゃいけないの⁉」
わたわたと焦り始める晶に、あやめはにっこりと笑いかける。
「月島さんの的になっていれば、六花にてを出す暇もないでしょうから」
「どういう理由!」
「それなら、なっとくね。
姫様、まかせといてちょうだい」
ふっふっふ、と笑う華衣。
「お願いしますね」
ふんわりと笑いかけるあやめ。
ーー見た目は穏やかなのに、妙に冷風が吹き荒れているのを感じた六花だった……。
ーーーー
今日は顔合わせ、の意味もあり、簡単に連携を訓練したあと、班のメンバーでお茶を飲むことになった。
「あー、それにしてもこの時季に火の区って、学校もなに考えてんだろー」
「この時季?」
首をかしげる六花と華衣。
あやめがそれに説明をする。
「火の区、の特性は覚えておられますか?」
「ああ、それはあれよね。
たしかものすごく暑い……」
視線をそらしながら答える華衣。
「えっと、寒暖の差がたしか激しいんだよね?」
思い出しながら答える六花。
あやめはそれに頷く。
「そうですね。
寒暖の差が激しく、夏場は特に暑いのです。
年中あつい光の区以上に、夏場は気温があがります。
ただ、それも昼間だけで、夜間は10度くらいまで下がってしまうんですよ。
ちなみに、冬も昼間は20度くらいまで上がりますが、夜にはマイナス10度くらいまで下がってしまうので、かなり危険でもあるのです」
そこまで激しいのか、と呆然とする六花と華衣。
「まあ、建物の中ならば、きちんと温度対策はとられていますから、快適に過ごせますよ。
ーーただ実習中は暑い中外で行いますから、熱中症には注意しましょう」
「「はい」」
真剣にうなずくふたり。
晶は面倒くさそうにケーキをつつき、翡翠は落ち着いてお茶を飲んでいる。
「この実習での盾役は晶と翡翠さんになりますので、よろしくおねがいします」
「ーーわかった」
「了解……って、何でオレ⁉」
「わかりませんか?」
「わかるかよ!」
「では、それを実習までの課題とさせていただきます」
「はあ!?」
戸惑う晶をほっといて、あやめはお茶を楽しんだ。
ーーーー
「えっと、あやめちゃん?」
「なんでしょうか?」
「あの、晶くんのこと」
「以外とにぶいわよね」
なにかをあやめに訊ねようとした六花を遮って、華衣が答える。
「え、にぶいって?」
「六花さんはわからなくてもしかたがないのですが……」
あくまで、これは晶の問題だからだ。
「あたしや姫様が、これでもかってヒントあげてんだけどね」
「え? え?」
とまどう六花を置いておいて、あやめと華衣は会話を続ける。
「月島さん、お願いしてもいいですか?」
「まあ、この班分けだと能力的にあたしがいいでしょうからね。
まかされるよ」
「はい。お願いします」
「ーー」
とうとうふてくされてしまった六花を苦労してなだめることになるのは、また別の話だった。




