29
7月分は、話数が少ないです。
7月に入り、全体的に浮き足立っている今日この頃。
来月、8月は一月長期休暇となり、実家に帰ることも許されているからだ。
もちろん、それぞれの課題は出されるとはいえ、故郷に帰れることは、楽しみに思えることだろう。
「うー……」
そんななか、机にへばりついている六家の人間がひとり。
「なにをしている」
「うー……」
晶に翡翠が問いかける。
ーー返事は唸り声だったが。
「実家に帰れば怒られるから、みたいだよ」
「うぐっ……」
石榴の遠慮のない言葉に、さらにへばりつく晶。
「ああ、魔具の扱いについてですか。
たしかに晶の魔具は特殊ですからね」
「そうなんだよ!
こんなのどうやって扱えっていうわけ!?」
晶はがばっと跳ね起きて、あやめに詰め寄る。
そのあやめは平然と答える。
「以外と簡単なんですけどね」
「へ?」
あっさりとした答えに、間抜けな声をだしてしまっていた。
「簡単、って?」
「わかりませんか?」
「わかればこんなに困ってなんかいないって!」
あきれた様なあやめに、切羽詰まってさらに詰め寄る。
と、黒曜に首筋を引っ張られた。
「近すぎ」
「黒曜は心が狭すぎだよね!」
「なんかもう、いつものことだね」
黒曜のあやめ主義は、慣れっこの石榴と六花。
もっとも、ふだんその影響を受けているのは石榴なので、晶が関わるのはめずらしい。
「そうですね、今回の実習までにわからなければ、私が指導させていただくことにしましょうか」
「ホント! アリガトー、姫さまー!」
バカみたいに大喜びで、こんどはどさくさに紛れて六花に抱きつこうとする。
もっとも、こちらも竜胆に阻まれたが。
「って、竜胆さん、何でここに⁉」
六花達がいるのは一年の教室なので、疑問を口にする晶。
「仕事だ。
7月の実習が終われば、生徒はほとんどが故郷に帰る。
ーー帰らないものもいるが、それは少数だからな。
それで、六花。
お前はどうするんだ」
「あー」
六花は学校に残るよう申請をしていたのだ。
「わたしの実家はありませんから……」
六花は父を幼い頃に亡くし、母も二年ほど前に病気で亡くしていた。
いまは六家の黄神家が後見となっているのだ。
「よろしければ、六花さんも一緒に私たちの家にこられますか?」
「え、いいの?」
「紫神の家、というかあやめの別邸があるからな。
そちらに滞在する分には全く問題はない」
「なら、いきたいです!」
そこに琥珀が口を挟む。
「おい、黄神の方に一旦顔を出す必要はあるだろう」
「あ、そっか。
それじゃ、そのあとに……」
そこで石榴がいきなり提案を出してきた。
「どうせだからさ、みんなで泊まりにいかない?」
「なぜ、そうなる?」
「だって、姫がどんなところで育ったとか、興味あるじゃんか!」
「ーー」
否定が出来ない、黒曜と竜胆以外のメンバーだった。
「はあ、わかりました」
「あやめ、いいのか?」
「はい。
少なくとも前半はゆっくりしたいですし、こられるとしたら六花さんと双葉さん、由美さんだけでお願いします」
どうせなら、女子会も楽しいかもと思ったのだ。
「後半は、皆さんもきて構いません、が」
そこで一旦区切ると、かなり迫力のある笑みを浮かべた。
「それぞれ、課題について審査させていただきますね。
場合によっては特訓もあり得ますから、頑張ってください」
「ーー」
あやめの迫力におされて、全員無言で頷くしかできなくなっていた。
「あやめとの訓練か、楽しみだな」
「そういえば、お前が一緒に訓練したのは、子供の頃だけだったな」
「まあ、得意範囲が違いますからね。
今やるとどうなるか、ちょっと楽しみですよ」
「まあ、そんなのはお前くらいだろうが」
ほかのメンバーが押し黙ってるなか、のんびりと会話をしていた、竜胆と黒曜だった。




