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 ピッピッピッ


 携帯端末からアラームが響く。

その音で目が覚めたのか、少女がベットから跳ね起きた。

いまは寝癖だらけだが、本来はウェーブのかかった肩までの金の髪。

鮮やかの金の瞳。

高めの背丈と整った顔立ちの美しい少女だ。


「っ! はぁー……」


大きく息をつくと、寝癖のついた髪をかきあげる。


「ーーまた、いつもの悪夢……。

 だけど、いつもとちょっと違ったような……」


少々首をかしげながら、ベットから出ると着替えを始めた。

 少女はふと思い付いたように、壁に掛けてある制服を見つめた。


「明日からは魔導学校か。

 その前に今日の検査でクラス分けが決まるんだっけ。

 わたしはどのクラスかな?

 ーーできれば……」


少女は首を軽く振ると、洗面所に向かった。

なにしろ寝癖がひどい。

いつものことだが、一旦水で濡らさないと一日中跳ねたままなのだ。

さすがに乙女としては、その状態は良くない。


「ーー簡単に寝癖直せるといいんだけどな……」


かるくぼやいて、寝癖を直し朝食に向かった。



 少女がいるのは、世界の中央にある魔導学校の寮。

この世界の人間は、5才から15才までの間で魔力を得るものが現れる。

魔力を持たなかった者は、子供全員が通う基礎学校を出たあと、職についたり、地方の専門的な知識を学ぶ高等学校に通うこととなる。

 だが、魔力を持ったものは、中央にある魔力持ちーー通称魔族ーーのみが通う全寮制の魔導学校に通うことになる。

少女も5年前、10才のときに魔力と、光属性の者のみが極稀に得ることがある『魔眼』を得て、ここに通うことになった。

 少女が食堂に入ると、すでに多数の人々で賑わっていた。

話題はほとんどが今日の検査と魔具についてのようだった。


「ようやく来たか」


声の方をみると、金髪に光属性を表す黄色の瞳、少女より少し背が低い少年がいた。

生まれつき魔力を持つ六家のひとつ、光属性の黄神家の直系にあたる少年だ。

 魔力に目覚めた子供は、それぞれの属性に合わせて六家に引き取られ魔力についての基本を学ぶ。

少女は黄神家に引き取られていたため、少年とも面識がある。

というより、少女は魔眼持ちであるため、少年は少女の監視役でもあるのだ。


「最初の一声がそれ?

 まずは朝の挨拶でしょう。

 おはよう、琥珀こはく

「それなら、もっと早く来い。

 お前がこないと、俺も朝食が食べられない」

「お前じゃなくて、六花りっか

 いいかげんちゃんと名前で呼んでよ」


琥珀は六花を名前で呼ぶことがなかった。

その事をいつも指摘しても、


「ちゃんと名前で呼んでほしければ、まずは一人前に魔力を扱えるようになることだな」


といって鼻で笑うだけだった。

 六家の人間で、生まれつき魔力を持つ琥珀は、当然ほかの後天的に魔力を得たものより力も強く制御も優れている。

ーーもっとも魔眼を持つ六花のほうが、魔力自体は大きいのだが。


「もう」

「とにかく、さっさと朝食をとって検査にいくぞ」

「はーい」


むくれながらカウンターに向かい朝食のトレイを受け取って席につく。

同じく朝食をとってきた琥珀と向かい合って食事をすると、ふたりは検査のために学校の敷地内にある、神殿に向かった。


「ーー今日は無月の日か」

「だからこそ、今日検査をするんだろう。

 ほかの日では、月の魔力の影響を受けてしまう」


 空を見上げて呟いた六花に、琥珀は答える。

光から始まり、火、風、水、地、闇、そして月のない無で終わる七日間。

この七日間が週となる。

一月は四週。

一年は十三月。

学校は四月から始まることになる。

今日は三月の最後の日。


「ーー言われてみればそっか」


うんうん、と納得したように頷くと、先にいった琥珀を慌てて追いかけた。


  ーーーー


 世界の中央にある学校。

そのなかでも、完全に世界の中心といえる位置にあるのが神殿だ。

 神殿には魔力が集中するために、特殊かつ巨大な魔石が鎮座している。

年に一度の入学の時、魔石から魔具を作るためにかなりの量が消費されても、翌年には元の大きさに戻ってしまう。

まさに世界の中心を現している存在。

 六花と琥珀はそろって神殿の前に立った。

巨大な魔石が在るのに相応しい大きな神殿。


「ふわー……」


思わず呆然とする六花にたいし、琥珀は平然と移動を促す。


「さっさといくぞ」

「ーーはっ。

 ま、まってよ」


先にいく琥珀に気づいて、慌てて後を追う。

もっとも、神殿を見て平然としている者のほうが少ないのだが。



 神殿の中に入ると、人があふれていた。

かなり広い空間の中に、六つの列がある。

どうやら各属性ごとにわかれて検査を受けるらしい。

六花と琥珀は光属性の列にならぶ。


「ーー六家の自分が先だ、とかは言わないんだね」

「あたりまえだろう。ルールは守らなければならない」


六家の人間ということで威張り散らす者がいないわけではない。

ただ、直系であるからか、六家だからというだけで威張ることはあまりない。

ーー自分の能力についてなら、威張ることはよくあるが。


「次、きなさい」

「はい」


前に並んでいた琥珀が検査を受ける。


「ああ、君は黄神の……。

 なるほど、それならこの量も頷ける。

 それでは、後ろの魔具作成担当の方にいきなさい」

「はい」


すなおに返事をすると、琥珀は奥に向かった。


「次、きなさい」

「は、はい!」


緊張しながら六花も前に進む。


「この魔石に触れなさい」

「はい」


六花が球形に研磨された魔石に触れると、魔石が強い光を放つ。


「! 君は……」

「えっと……」


六花の瞳をみて、検査を担当した人は納得したように頷く。


「そうか。君が六家以外の魔眼持ちか。

 なるほど、それならこの魔力量も頷ける。

 ーー今年は能力の高いものが多いようだな」


納得したように頷く相手に、六花は戸惑う。


「あ、あの……」

「ああ、すまない。

 奥の魔具作成担当の方にいきなさい。

 君の魔具がどんなものか、楽しみにしているよ」

「はい!」


元気に返事をして、奥に向かう。



 奥に進み、魔石の下に到着すると、上を見上げた。

高さ二十メートルはある、巨大で透明な魔石。


「なにをボーッとしている」


みると、先に来ていた琥珀はすでに魔具を得たらしい。


「琥珀、魔具をもらったの?」

「ーーああ」

「ね、どんなの?」

「お前に言う必要はない」


ふい、とよそを向いてしまう。

魔具はすでに黄色い魔石に変わって、琥珀の右手のブレスレットにはまっている。


「さっさと魔具を得てこい」

「はーい」


やれやれ、といった感じで六花は先に進む。


「次はお嬢さんかい?」

「はい。

 お願いします」

「うん。

 では、この魔石に触れて、魔力を込めてごらん」

「はい」


巨大な魔石に触れる。

不思議とあたたかく感じる魔石にホッとしながら、六花は魔力を込めた。

すると、魔石が分離して六花の背丈と同じくらいの長剣に変わる。

ーー薄く透ける金色の刀身に、藍色の柄をもつ美しい剣。


「うわー。

 すっごく、綺麗……」

「ーーうん。見事な魔具だね……。

 もっともどんなに優れた魔具であっても、使いこなせなければ意味はない。

 これから、頑張って腕を磨くことだね」

「はい!」

「それと、ちょっと右手を出して」

「はい?」


六花が右手を差し出すと、そこにブレスレットをはめた。

大きさを調節して、簡単には外れなくする。


「はい、完了。

 剣を魔石に戻して、ここにはめて」

「はい」


剣を魔石に、というところでどうすればと思うと、すぐに剣は魔石に変わった。

どうやら、持ち主の意思で簡単に変化するようだ。

剣が変化した金色の魔石を、ブレスレットにはめる。


「これで、いつでも魔具を使用できるようになるよ。

 だけど、使い方によっては危険だから気を付けてね。

 ーーとくに、君の魔具はかなり長い長剣だしね……」

「そ、そうですね……」


変なところで出しては、振ることもできない。


「注意します」

「うん。

 それじゃ、行っていいよ」

「はい。

 ありがとうございます」


六花は琥珀の方に向かう。


「ね、見てた⁉

 わたしの魔具、長剣だったよ!」

「ふん」


不機嫌そうな琥珀に、首をかしげる。


「どうしたの」

「別に。

 これで用事は済んだんだ。

 さっさと帰るぞ」

「帰るって……」


歩いていってしまった琥珀を慌てて追いかけていった。


「ーー魔具が希望と違ったのかな?」


魔具は本人の資質によって変化する。

もっとも扱いやすいものに変化するのだ。


「ーーあー!

 なんで魔具が布なんだよ!」

「それがお前に相応しいということだろう」

「だーかーら!

 なんで布なんだー!」


どこからかそんな声が聞こえてきていた。


「布って、武器なのかな?」


聞こえてきた声に首をかしげながら、六花は琥珀を追っていった。


  ーーーー


「ーー長剣か」

「かなり扱いづらい大きさでもありますね」

「だれか、扱いを教えられる教師はいたかな?」

「ーーいえ、普通の長剣なら珍しくはありませんが、あそこまで特殊だと教えるのも難しいかと」

「そうすると、普通の長剣の基本を教えて、あとは自己流で頑張ってもらうしかないか」

「ーー他に方法はないですね……」

「ーーで、いつまで呆けているのですか?」

「ーーえっ……」

「一目惚れでもしましたか?

 まあ、綺麗な方でしたからおかしくはございませんが」

「いや、そんなのではない。

 ただ、彼女が鍵を握っているのだろう?

 その事を気にしているだけで」

「ーーまあそういうことにしておきましょう。

 お兄様、手配の方はお願い致しますね」

「わかっている。

 なんとしても、『今年』を乗り越えなければならない」

「ーーそうですね」

「準備は早めのほうがいいですし」

「そうだな」

白石六花しらいしりっかさん。

 あなたの行く先に光あらんことを……」

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