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「晴れてるねー」
「晴れていますね」
学校に戻り、寮のあやめの部屋でのんびりとお茶を飲みながら窓の外を見る。
竜胆と黒曜、琥珀は校長のもとへ報告に向かい、六花とあやめは解散となって、あやめの部屋で双葉と由美を待っているのだ。
「あやめ様!」
「六花、大丈夫!」
あやめの部屋に飛び込んでくるふたり。
「私たちは大丈夫ですよ」
「うん。
どっちかっていうと、会長たちの方が大変だったかな?」
青神の当主に面会をするのはもうこりごりだ、と琥珀がぼやいていたからだ。
「ーーそうですね……」
「あ、えっと……」
どうやらあやめも青神の当主を思い出してしまったらしい。
「いえ、なんでもありません。
ただ、今回協力をしていただいた、青神のご当主はちょっとくせのある人物ですので。
私も兄も苦手としているのですよ」
「どんな人なんですか?」
由美からの当然の疑問に、あやめは一言で答える。
「粘着質な人です」
「……」
おもわずなにも言えなくなる三人だった。
「それで、こちらの方はなにかございましたか?」
あやめが気をとりなおすように質問をする。
ほっとしたように双葉が答えた。
「いいえ。
こちでは大したことはありませんでした。
青神様の指示のもと、結界の補強なとも滞りなく行えましたし」
「うん。
こういうのも勉強になりますね!」
「そうだったんだ」
和気あいあいとお互いの状況を報告し合う四人。
ただ、魔物退治はともかく、怪我人については双葉も由美も顔を青くしていた。
「ーーそんなことが……」
「ーーそうだよね。
あたしたちの相手は、こっちを殺そうとしてくるから、当然そういうことになるんだよね……」
今まで相対した弱い魔物ではなく、自分達程度では相手にもならない協力な魔物。
はっきりとその存在を認識して、ふたりは落ち込んでいるようだった。
「そうした魔物の相手は、私たちがします。
おふたりは、そういう魔物と相対したときに、自身の身を守れる技術を身に付ければいいのですよ。
大事なのは、きちんと生き残ることです」
身体の欠損などの治癒はできない。
それでも、命さえあれば魔道具による治癒はできる。
ふたりは神妙に頷くのだった。
ーーーー
「ご苦労だった。
だか、青神のご当主は相変わらずのようだね……」
「はい……」
校長と竜胆は、ため息をつく。
青神の当主のつかみどころのなさは、相対したものの精神をごりごりと削るのだ。
「ーーひょっとして、あちらから何か言ってきたのではありませんか?」
校長の様子に何か気づいたように、黒曜が問う。
「ああ。
ーー側近の一人を、生徒の実技の補佐に出す、といってきた。
教えるのがうまいから、能力の高いクラスの一年に配属してくれとのことでね……」
「つまり、風の姫との接点をつくれ、あわよくば親しくなって連れてこい、ということですか?」
琥珀の問いに、校長は沈痛な表情で頷く。
「ーー」
無言で怒りを発している黒曜の肩をポンと叩いて、竜胆は校長に向かい合う。
「まあ、実技の時に教える人が増えるのは問題ありませんね。
教えるのが上手いのならば、なおさら。
ーーあやめに近づく暇がないくらい、頑張ってもらいましょうか」
ふっふっふ、と低く嗤う竜胆に、脅えたように頷く校長と、距離をとる琥珀だった。
「それではすこし生易しくありませんか?」
「まあ一応は他家の要人だからな。
これくらいでいいだろう。
心配ならお前はあやめについていればいい」
「ベッタリしたら、姫に嫌われるだけでしょう」
「なんだ、ちゃんと分かっているな」
竜胆の様子を見ても、平然といつも通りの会話をする黒曜をみて、このふたりを敵にまわしてはいけない、と理解する校長と琥珀だった……。




