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病院で疲れた様子をみせる六花と、それをいたわるあやめ。
二人の姿を見て、合流した竜胆、黒曜、琥珀の三人は心配そうに見つめる。
「おい、大丈夫なのか」
「ーー大丈夫、だよ。
わたしは怪我をしたわけでも、知り合いの命が失われた訳でもないから。
ただ、魔道具の使用に疲れただけだから」
病院には、治療が間に合わず命を落とした者の家族もいたのだ。
自分に言い聞かせるように呟く六花。
その六花にあやめは寄り添っていた。
「ーーいけるか?」
「いきます」
竜胆の問いに、間髪入れずに答える。
早く魔物を倒さなければ、このような状態が続くことを理解しているのだ。
「わかった。
だが、そのために自分の力量以上のことをするのは間違っている。
お前自身になにかがあれば悲しむものもいる。
その事も忘れるな」
「ーーはい」
家族や友人がちゃんと待っている。
誰かを助けるために命を投げ出すことも違う。
大事なのは、守りたいものだけではなく、自身も守りきること。
それを示唆した竜胆に、無理をしないことを約束して、六花は立ち上がった。
「船の準備はできているよ。
すぐに行けるかい?」
「大丈夫だよ」
「私も大丈夫です。
むしろ、この状態を見てしまった以上、さっさと片付けないと気が休まりませんから」
あやめの返事に、六花も頷く。
そして五人はすぐに魔物退治に向かうのだった。
ーーーー
用意されていた大きめの船。
その甲板に陣取って、遠目に見える魔物を見つめていた。
「ーーここからってかなりの距離があるはずだな……?」
「うん。
魔物を退治するためにあと数キロは進まないとならないって、船長さんいってたね……」
「ほんとに大きいね」
「そうですね。
もしかしたら、海で自重を支えられるから、大きくなったのかもしれませんね」
「そんな訳はないだろう。
たんに魔力を吸収しすぎたんだろう」
軟体動物、海、という条件が重なって、魔力を吸収するたびに大きくなったのだろう、と竜胆は推論をのべる。
「まあ、そうだとは思いますけど」
「ちょっとは気が紛れるかなと思ったんだけど」
三人が見ると、六花と琥珀の二人はいまだに呆然としていた。
あれほどまでに大きい魔物を見たのは初めてだからだろう。
あやめたち三人は、数年前にあれより一回りほど小さいくらいのサイ型魔物を目撃していたため、落ち着いていられるのだ。
「ーーまあ今はいいだろう。
本番の時は、嫌でも正気に戻ってもらうがな」
そうして、しばらく二人は放置されたのだった。
「ーー近くで見ると、なおさらおっきいねー……」
ようやく落ち着いてきた様子の六花と琥珀。
それでも、間近でみる巨大な魔物に圧倒されているようだが。
「間もなく戦闘区域にはいる。
二人とも準備を」
冷静に魔物を見つめる竜胆に促されて、二人は魔具を出す。
ーー初めて見る琥珀の魔具は、長距離狙撃用の銃だった。
「琥珀って、遠距離攻撃の方が得意なの?」
「ーーまあな」
光の属性持ちは、たいていの場合近接戦闘を得意としている。
六花のような、半ば中距離もこなせるような魔具を持つことも珍しいのに、遠距離攻撃用というさらに珍しい魔具の持ち主だったのだ。
そのために、あまり人前で使用することはなかったわけだが。
「作戦通りいくぞ。
琥珀はあれを撃ち抜けるだけの魔力をためろ。
あやめと黒曜は当てられる様に補佐、私と六花は近寄ってきた魔物や攻撃に対処する。
いいな!」
「「はい!」」
全員の返事にうなずき返して、竜胆は真っ直ぐに魔物を見つめる。
琥珀は膝立ちになり、魔力を込めつつ狙いをつける。
他の三人も、魔物の動きに注意をはらう。
「来た!」
竜胆の言葉と同時に、小型の魔物が船を襲い始めた。
ほとんどはあやめの糸に切り裂かれたが、なかには通り抜けてくるものもある。
そうした魔物を他の三人で倒しつつ、琥珀の準備が終わるのを待つ。
しばらくは膠着した状態が続いたが、どうやらそれに苛立ってきた様子で、こんどは魔物が水流による攻撃を始めた。
波立って船が大きく揺れれば、魔物にたいして狙いがつけにくくなる。
「させません!」
あやめは船の回りに糸による結界を張る。
船の回りにいわば防波堤のようなものがある状態で、揺れは緩和された。
変わらずに襲ってくる魔物たちは、他の三人の敵ではない。
「ーー準備はできた」
低くぼそりとした呟きが、琥珀の口から漏れる。
それを聞いたあやめと黒曜は動き出す。
「お兄様! 六花さんをお願いします!」
瞬時に糸を巨大な魔物に飛ばす。
糸は一瞬にして、魔物動きを封じた。
そして、黒曜の闇の力により、魔物の核と呼べる場所に目印のような黒い点が浮かぶ。
「琥珀、あそこを……!」
「わかった!」
次の瞬間、巨大な魔力が琥珀の魔具から発せられた。
まるで、大砲のような力の塊が、真っ直ぐに魔物の核を消し飛ばす。
ーーそして、魔物は消滅し、降り続けていた雨も上がり、空には青空が見えていた。




